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とりぷるツイン第4話〜夏の勉強会〜

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もうすぐ夏休み。

みくにの通う中学校では、期末テストが返ってきた。

「うぇ〜、やってしまった…。」
みくには、自分の酷い点数に気を揉んでいた。

「チビの上にバカなんだな。」

後ろからみくにの点数を見た葵がからかってくる。

「ちょっと!勝手に見ないでよ!」

「皐に教えてもらったりしないのかよ。」
もはや、皐がみくにのことを本気だとも思っていない葵。
だが、皐がどう思ってみくにと付き合うことにしたのかも気になる。

「さ、皐くん…、こんな点数だったら引かないかな…。」
ズーン
落ち込むみくに。
「まあ、引くだろうな。」
ズーン
葵の言葉にさらに落ち込むみくに。

「そして、さらに、次の授業の国語の教科書を忘れたわたし…。武生のところに行って借りてくるわ…。」

そう言ってトボトボと2組の教室に向かった。

◇◇◇

2年2組の教室。

「ありがとう。次の休み時間、必ず返しにくるね。」
武生から国語の教科書を受け取るみくに。
貸し借りができるのは双子の特権かもしれない。

「おい!芦原みくに!」
現れたのは奈々だ。

「ちょっとこっち来な!」
というとみくにを引っ張り、人気のない廊下の隅につれていく。

「あんた、皐様とどこまでいったのよ!」

「え?どこまでって…。」
奈々の質問に戸惑うみくに。
「あんたたち付き合ってるんでしょ!?どこまでの仲だって聞いてんの!」

「…付き合ってるのかな…?」

「…は?」

「デートも1回きりだったし、それに最近あんまり会えてない…。」

それを聞いた奈々は、
「半端な気持ちで皐様に近づいてほしくないんだけど。」

奈々の真剣な目を見て、みくには少し罪悪感が湧いてきた。

(そうだよね…。皐くんのこと本当に好きだっていう子もたくさんいる。…どこかで皐くんとちゃんと話さなきゃ…。)

◇◇◇

2日後、1学期終業式。

いつもより早い時間の一斉下校で生徒玄関は混み合っていたが、一足早く帰宅の準備を済ませた皐が門の前で待っていた。

「みくにちゃん!」
みくにを見つけると、皐はすかさず手を上げてみくにを呼んだ。

「あっ、皐くん!?」
みくには少し女子の視線が気になったが、皐のそばに駆け寄る。
「どうしたの?もしかして、待っててくれたの?」

「うん。ちょっと葵に聞いて…。」
「え?」
「みくにちゃん、テストの点数悪かったみたいだから、夏休み、うちで勉強会しないかなーって。」
サラリと笑顔で話す皐に、みくには一瞬固まり、そして顔を赤くした。
「…さ、皐くん、もしかして、葵…くんに点数聞いた?」
「うん。」
ガーン!!
(あ、あいつ…!!許さん!!)
「どうする?やめとく?」
皐は少し気を遣う。
「あ…」
(そうだ)
みくには何かを思い出す。
「勉強会、やりたい!皐くんち行ってもいい?」
「うん!じゃあ決まりだね。」

こうして、夏休みの勉強会が決まった。

(勉強会の時、皐くんの気持ち聞こう。そして、わたしも本当の気持ち伝えなきゃ。)
みくには心の中でそう思った。


◇◇◇


勉強会の日。

みくには、皐に言われた通りの場所に来た。

「立派なお屋敷…。」

昔ながらの日本家屋、庭付きの立派な建物があった。
金津兄弟の自宅だ。

「みくにちゃん、いらっしゃい。」
皐が出迎えてくれた。
「さあ、どうぞ、中に入って。」

みくには、奥の縁側のある座敷に案内された。

そこには、葵の姿も。
「よう。」
「…なんであんたもいるの?」
「だって、ここ俺の自宅だし。」
(それはそうだけど…。)
「葵も人のこと言える点数じゃないから、この際一緒に勉強してもいいかなって思って。」
「あ…、はあ…。」
(皐くん…本気で勉強会する気だ。)
少々何かを期待していたみくには焦る。

「じゃあ、まず数学のドリルを開いて…。」
こうして、皐先生による本格的な勉強会が始まったのであった。

1時間後…。
ぐったりした様子のみくにと葵。

「あ、ごめん、飲み物出してなかったね。持ってくる。」
そういうと皐は席を外した。

「皐くん…スパルタ…。そしてめっちゃ頭いいじゃん。」
「当たり前だろ。学年1位なんだから。」

「え!?」
ますますそんな人と付き合っていいのか悩むみくに。
「ねえ、皐くんはなんでわたしなんかと付き合ってくれてるんだと思う?」
「は?」
呆れる葵。

「そんなの俺に聞くなよ。」
「あ、そうだよね、ごめん。」

「……」

しばらく沈黙する。

「…そういえば、梨々さんとはうまくいったの?」

みくにがそれとなく葵に聞く。
「……」
葵は少し黙る。そして続けてこう言った。
「…お前、鈍いからな。」
「は?」
葵の一言にムカっとするみくに。

そこへ、皐が麦茶を持ってきた。

「お待たせ。さあどうぞ。」

麦茶が注がれたコップを、みくにと葵2人の前に置く。

「ありがとう、皐くん。」

暑い夏は冷たい飲み物が最高だ。
「おいし〜い。後でお母様にお礼言わなきゃ。」

すると、皐と葵は硬い表情になった。
話始めたのは皐だ。

「…母は3年前に亡くなっていてね…。父親と3人で暮らしているんだ。」

「え?あ…ごめんなさい…。」
皐の突然の話にびっくりするみくに。

「…俺、なんかお菓子持ってくる。」
居心地が悪くなったのか、葵はその場を離れた。

皐とみくに、2人になった。

「…ずっと気になっていたの。」
「え?」
「そこの仏壇に飾ってある若い女の人の写真、誰なんだろうって思って。」
仏壇の前に飾られた写真のことを、みくには座敷に入ってからずっと気になっていたようだ。

「母親だ…。看護師でね…。でも病気で亡くなってしまった。」
皐と葵の父親は厳格な人で医者をしている。父と母は職場で出会って結婚したようだ。

「葵は、今はあんな可愛くない性格だけど、昔は愛嬌があってね。母親にべったりだった。」
皐が昔のことを話し出す。
「だから、母が亡くなった時は大泣きした。本当に赤ん坊のように。小5だった。」

『お母さん!お母さん!』

皐の記憶の中に、今でも蘇る葵の叫び声。

「…俺は、葵を母代わりとして守らないといけないと思った。」

もう、葵の悲しむ顔は見たくない。
皐は自分を犠牲にしてでも葵の笑顔を取り戻したかったのだ。

「そんなことが…。」
みくには皐の話を聞いて胸が締め付けられる思いだった。

「…中学に入ってからは、葵が誰かと喋っているところ、ほとんど見たことなかったんだ。そんなとき、みくにちゃんが現れた。」

「…わたし?」
自分の名前が出てきてびっくりするみくに。

「葵があんなに誰かと喋っているの久しぶりに見て、それで俺は君に興味を持った。」

「そ…そんな、わたしはただ…。」

思いがけぬことで戸惑うみくに。だけど、葵にはいつもドキドキさせられる。そんな様子を皐に見られてたと思うと恥ずかしくなった。

そして、みくにも自分の気持ちを伝える。
「ごめんなさい、皐くん。わたし、皐くんに『付き合って』って言われてすごく嬉しくて。皐くん、女子の人気者でその中から選ばれたんじゃないかってちょっと天狗になってた。皐くんの気持ちも知らないで…。」

そして、一呼吸置いてこう言った。
「だから、お願いがあるの。わたしのこと、普通に見てほしいの。皐くんが困ったことがあったらわたし全力で助ける。友達として。だってこんな大事なこと打ち明けてくれたんだもの。そんな感じじゃダメかな?」

「……」

みくにの言葉に皐は胸の奥が温かくなる。
そして、皐は微笑んだ。
「…うん、ありがとう。」

その優しい顔にみくには涙ぐむ。
そして、すぐに腕で涙を拭き取る。

そこへ、

「ゼリーとかあったけど、食べるか?」

お盆の上にゼリーを乗せて葵がやってくる。

「あっ、食べたーい!」
気持ちを切り替えて明るく振る舞うみくに。
「あっやべ、スプーン忘れた。」
「もう!何やってんのよ!」
「俺、持ってくるよ。」
今度はまた、皐が席を外した。

みくにと葵、2人きりになる。

「…みくに。」

不意に葵はみくにの名前を呼んだ。

ドキン
みくには少し驚く表情をする。

そして、葵はこう言った。
「ありがとな。」
葵はさっきの話を聞いていたようだ。

別に葵に感謝される話はしていない。
だけど、葵は自然とみくににお礼を言いたい気持ちになっていた。

「まあ…今回だけは許してあげる。」
「何を?」
「皐くんにわたしの点数教えたこと!」
「はあ?まだ根に持ってたのかよ!?」

また、いつものみくにと葵の言い争いが始まった。


だけど、みくににとって、この日は心に残る思い出の日となったのであった。


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