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ソメイヨシノより

わたしは桜の樹、ソメイヨシノ。
人間達はね、私が蕾を少しずつ膨らませていくたびに、もうすぐね、とよく私を見上げるようになるの。
まだ冷たい風が吹くのだけれど、少しずつ、太陽が暖かさをくれるのよ。

それから、ひとつ、ふたつと花を咲かせたら、小さな子どもがお散歩しながら、指をさして花の数を数えるの。

人間たちは、3月になると開花予想とか、満開予想日とかいって、おおさわぎよ。それだけ私たちと人間たちは私たちの存在を大切にしているってことかしら。
人間たちは目印にしている樹があって、その樹が花を5つ咲かせたら、開花宣言て言ってる。その言葉を合図にしてるわけではないのだけれど、私たちはどんどん花を咲かせて、魅せるのよ。
私たちは、みんな同じ心と感覚を持っているから、いっせいに咲かせていくわ。
日本の南から北まで、町から町へ花咲かせる春風の伝言ゲーム。

桜の開花が待ち遠しいと、多くの人間が思ってくれるみたい。私たちは咲き出したらあっというまにポンポン蕾を開かせていくわ。
全て咲いたら10日くらいでハラハラと花びらは散ってゆくの。花びらが風に乗って散る様子をまた人は美しいと言ってくれる。

私たち花たちも、人間たちも、この時間を大切にしているってことね。
長い1年の間の中で、この1週間ほどの時間を待ち遠しくして、そしてその時間の儚さも知っている。
私たちが花を咲かせる時間が長ければ、もしかしたら時間を大切に思わないのかもしれない。

葉桜になれば、私たちのことは忘れたかのように人間は毎日毎日忙しそうにしている。

花たちは、季節になると忘れずに花を咲かせているわ。春夏秋冬ね、1年だとか、何曜日だとか、時間とか、人間みたいに時計でしばられてはいないのだけれど、体で感じてる。生まれた時から知っているのよ、季節をね。
一年に一度の花咲かせる時まで、じっと待って、今だというときに、花咲かせるのよ、何のために?そんなの考えてない。だけど、それぞれが美しく、それぞれがそれぞれに世界を持っていて、みんな共に生きているのよ。
生き続けて、命を全うして、結んでいくの。

私は、もうずいぶんと長い間この場所に生きている。きっと、人間よりも長く長くね。
季節は同じようにやってきて、それからまた過ぎて行くの。自然が流れて、時代も流れていく。
ずっと昔からね、桜と日本人はとても心を寄せている。その心は受け継がれてつながっているなって、それは感じるの。
私たち桜のうたを人間はたくさん詠んでくれるから。


今日は私が歌ってあげるわ。

【詩】永遠

ひとはどうして
はかないものに思いを寄せるの
手ですくってもすくってもこぼれてく
美しさに永遠の魂を求めて
恋しく思う
消えていく姿に
手の届かない永遠があって
恋しく思う


作:ソメイヨシノ







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