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社外取締役の仕事 ②

取締役会の年間スケジュールは決まっています。出席回数はアニュアルレポートで公表されますからよほどのことがない限り欠席できません。2012年当時は電話での参加も「可」とされていましたが、次第にコーポレートガバナンスが厳しくなるにつれ、電話での参加は「欠席扱い」になるようになりました。

ある国のガバナンス規制には、board member shall meetと規定されています。実際に会って議論することで形骸化を防いでいます。

取締役会は年5回ありました。だいたい1日半か2日間です。
午前中に各委員会が開催されます。ランチをはさんで午後は取締役会。夜はボードディナー。翌朝から取締役会があり、午後に終了し、その日のフライトで帰る、というのが典型的な日程です。

取締役会の議題はその時々によって異なります。時には専門部署が新しい技術の紹介を行い、それについて議論する、ということもあります。

私は、監査委員会のメンバーでしたが、重い内容が多く、いつも予定時間を経過してしまい、ランチ(立食)を急いで食べることがよくありました。

監査委員会は、Three defense line(3線防衛)の最終防波堤ですから、メンバーの名前は監督当局に登録されていますし、重い責任を負っています。

取締役会の資料は、2012年当時で既にペーパーレスでした。IPadが配布され、Diligent Boardsというアプリケーションに資料が事前にアップされます。そして膨大な資料を事前に読み込んでおく必要があります。

それを読み込んだ上で、委員会、取締役会に臨むことになりますが、質問・発言をしないと存在意義が問われることになります。経営陣をサポートする時には黙示の同意を行い、ちょっとおかしいなと思う時には、話しを誘導していく。英語でやるのはなかなか難しいことでした。

午前中の監査委員会、午後の取締役会が終わると、どっと疲れますがそれで終わりません。次はボードディナーです。座る席は決まっていませんが、新しい取締役は議長の隣に座るのが習慣でした。

このボードディナーの話題のテーマは決まっていませんので、時事的な話題から、本の話しになったりしますが、公式の会議では話せないようなことをディナーの場で話し合うこともあり、気が抜けません。

ギリシア危機の時には、ギリシアの財政状況について丸テーブルを囲んで会話が白熱しました。ある人が、「で、日本の国債発行高はGDP対比いくらだ?」と言い、丸テーブルのみんなが私の方を向きました。「200%ぐらいかな」と言うと、「We are safe」と一気に場が和みました。日本人として複雑な心境でしたが、誰かが「日本の国債は国内消化されているからギリシアとは違う」とフォローしてくれ、ほっとしました。

彼らはよくしゃべり、よく飲み、よく食べます。デザートも全部平らげます。胃腸が丈夫なんだな、と妙に感心しました。

ディナーが終わるとそれぞれホテルの部屋に戻りますが、事務局は当日議論を受けて、既に翌日の資料としてアップしてあるものを修正したりします。朝起きて資料を見ると、微妙に修正されていることは毎度のことでした。

朝食はめいめいで食べますが、そこでも微妙な話しをしたりします。どうしても話しておきたい人物のテーブルに座って、話しをしておきます。

取締役会が開催される都市は、本社がある都市、支店がある都市、オフサイトをかねて郊外のホテル、などでした。オフサイトの場合には、ホテルに缶詰になります。交通費、ホテル代、などはすべてその企業負担ですから、かなりの運営コストになります。

おおよそこれが取締役会のロジスティクスでした。

写真は、ルーブル美術館にある「サモトラキのニケ」です。サモトラキ島にあった勝利の女神(ギリシア語でニケ)。

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