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ATMを利用していた幽霊のはなし

先日、郵便局のATMを利用しようとおもい、先にひとり、年配の女性がいらしたので後ろにそっと並んだ。

そのATMは、個室というか、ひとりずつしか利用できないタイプのものだった。ちいさな郵便局に併設されているもので、土日に郵便局がお休みでもATMだけは利用できるようになっている。電話ボックスみたいな、ちいさなATM。

少しすると、その女性はATMの中をのぞき込んだり「あら、こんな札が立っていたわ」といって少し慌てていた。

その立て札には「現在、ATMの修理中のため、ご利用いただけません」という内容だった。わたしは、その立て札があったことすら気が付かなくて、ぼんやりと立ち尽くしていた。前にいた年配の女性は、「ごめんなさい、わたしが気づかなかったから、あなたまで並ばせてしまって」と、わたしに向かって謝ってくださった。わたしも「いえいえ、わたしもよく見ないで並んでしまったので、気になさらないでください」と頭を下げた。

修理にどのくらい時間がかかるか分からないので、いったんそのATMから離れることにした。ちらりとのぞき込むと、作業着姿の男性の後ろ姿が見えた。そこには、たしかに人がいた。


もう一年か、それ以上前の話になるけれど、わたしはそのATMで幽霊を見かけたことがある。幽霊、と断定していいのかは、ちょっと自信はないのだけれど。

その日、わたしはATMを利用しようと、その郵便局に向かった。

ちらりと中をのぞくと、ひとりの男性の後ろ姿がみえた。その男性はうすいグレーの作業着を着ていて、細身の身体。通帳などが入っているポーチを右側のスペースに置いて、うつむいた様子で、ATMの操作をしているようだった。

「振り込みとか、入金確認の作業が多いと、ちょっと待つかも」そう思ったことを覚えている。ボタンを押す少しだけ時間が経過して、もう一度覗いてみても、まだ男性は立っていた。けれど、ATMを操作しているときに、外に漏れ聞こえてくる「ありがとうございました」とか「もう一度やり直してください」といった機械音は聞こえてこなくて、なにか迷ってらっしゃるのだろうか? とも思った。わたしの後ろには、人が並び始めた、ひとりか、ふたりくらい。

また少し、時間にして一分くらい待って、もう一度覗いてみた。

すると、そこには誰も立っていなかった。人の姿は、どこにも見当たらなかった。さっきまで、男の人が立っていたはずなのに。

あれ……?

さっきの男の人が、出てきた様子はなかった。しかし、すでに中に誰もいないのだから先頭で待っているわたしが、ATMに入らなくっちゃいけない。

「さっきまで、男の人がいたんですけど……もういなくって……」

わたしはすぐ後ろの並んでいた女性におそるおそる告げてみたけれど、その女性は「え?」と怪訝そうに眉をしかめるばかりで、なにも答えてはくれなかった。

なんだか不思議な気持ちだったけれど、ATMを利用したいお客の列が増えるばかりなので、わたしは意を決してATMの扉を開けた。

ATMは何にも問題なく作動していたし、さっきまで右のスペースに置かれていたポーチもなくなっていた。

わたしは不思議な気持ちになりながらも、さっとお金を引き出して、ATMを後にした。

わたしが見たあの男の人は何だったのだろう? 二度見たのに、三度目にのぞき込んだ時には消えていたのだから、やっぱり幽霊なのだろうか?

しかし「幽霊」と呼ぶにはあまりにも現実的すぎる。ATMの操作をする幽霊? 幽霊が振り込んだお金は、どこに送金されたのだろう。

その後、なんどもそのATMを利用しているけれど、男性の幽霊を見かけたことは、一度もない。




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