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チベット辺境を旅する

チベット・インド旅行記
#24,サキャ


サキャ1


海外からの旅行客で賑わうここチベットの地だが、建前上は「非公開地区」となっている為、各地へ移動する際にはパーミット(許可証)を取得しないといけない。

万が一、街や検問でパーミットを持っていない事がバレると罰金を取られる。という噂をヤクホテルで聞いていたので、シガツェの町の公安で申請をする事にした。

サキャ2

公安の扉を開けて中に入ると、いつもやってくるツーリスト相手に対応が慣れているのだろう。

事務員のおばちゃんが
「ノーパーミット!ノーパーミット!旅行会社へ行け!」
とジェスチャーを交えて伝えてきた。


仕方がないので、通りの真向かいにある旅行会社を訪ねると、タバコをプカプカふかしたおっちゃんが、
「パーミット発行、100元(1500円)」
と無愛想に手を出してくる。


「紙切れ一枚に100元なんて払えるか!」
と憤慨して交渉に挑んだが、おっちゃんは頑なに首を縦に振らない。

他にパーミット発行の手段が無いと知っていて、足元をみているのだろう。


いつまで粘っていても埒が明かないので渋々100元を渡すと、おっちゃんペラペラの紙を引き出しから出してきて、
「今度は公安に行って手続きをしろ」
とジェスチャー。


言われるままに、元来た公安に引き返すと、今度は事務員のおばちゃんが
「ハンコを押すのに50元」
と手を出してくる。


まさに良いカモである。


150元(2250円)あれば、スノーランドホテルのレアチーズケーキが30回は食べられる。

朝っぱらから嫌な気分になって落ち込んだが、こういったトラブルの為に、日本で頑張ってお金を貯めてきたんだ、

「お金で解決出来たのならそれで良いじゃないか。」
と、なんとか自分を慰める。


何はともあれ、無事パーミットは取れた。
気を取り直して、シガツェの町からさらに奥地のサキャという村に向かうことにした。


シガツェ2
シガツェ3



バスで悪路を走る事約8時間、なだらかな丘陵に囲まれた麦畑が姿を現した。

サキャ村だ。


村の外れでは、民族衣装を着た女性たちが踏み鋤(大きなフォークのような農具)を手に、脱穀を行っていた。


うず高く積み上げられたワラの山に鋤(すき)を突き刺し空高く放り上げると、パラパラと麦穂が風に乗って流れ、重みのある籾(もみ)だけが下に落ちてくる。

麦穂と籾を仕分けているのだろう。


遠く山々に夕陽がかかり、麦畑が茜色に染まる。
風に舞った麦穂が夕焼け空の下、キラキラと輝き出す。


まるで金の砂つぶが川面を流れるような光景。
冷たい風に流されて、川の流れは遠くへと消えていった。

サキャ4

バスは村外れの空き地に停まった。
途端に集まってくる物乞いの子供たち。

旅を続けていて、物乞いの子供たちに囲まれるのにもだいぶ慣れたが、それでも子供たちの憂いのある険しい顔を見て、あまり良い気持ちはしない。


のどかな農村風景とはうらはらに、人々の暮らしは貧しいのだろうか。
子供たちに小銭を与え、そそくさとホテルの部屋をとった。
(1泊20元、300円)


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サキャの村は、歩いて一周できるような小さな農村で、はじめのうちこそ村外れのチョルテン(仏塔)まで散歩をしたり、寺を参拝したりしていたが。

どこを歩いても物乞いの子供たちに囲まれるのと、訪れた寺で入場料をふっかけられたのが重なり、段々と出歩く気が失せてきて、ほとんどをホテルの部屋で過ごした。


こんな小さな村では、どこにいても、何をしていても、自分がその土地の者ではないという事実が付きまとう。


異邦人であるが故の行き場の無さ。


そして、すきま風が吹き込む肌寒い部屋で、毛布と寝袋をかぶりながら手紙を書いた。

遠く日本の友達に宛てた手紙。

サキャ3

窓ガラスが北風でガタガタと揺れる。
朝のフロントガラスには霜が降り、街路樹の葉は色づき落ちてゆく。


冬がやって来る。




拝啓


お元気でしょうか?

ここチベットの地に辿り着いてからはや3週間。
気がつけば季節はゆっくりと移り変わろうとしています。


結局の所、世界の屋根まで旅をしても、そこで見つけたものは、いつもと変わらぬ日々の感情や、
どこまで行っても自分が自分であるという、どうしようもない事実ばかりでした。


人と人の間に生まれる寂しさや、
特に結末の無い、今日という瞬間。

自分が今見ているもの。
その代わりに見る事を諦めた、全てのものたち。



記憶、そして懐かしい思い出。
(私がバスに揺られながら思い出に浸るとき、意識は過去を旅しているのでしょうか?)


そんなものたちが、どこまでも、どこまでもついてきて、
今も、何もない部屋の隅でそれらを感じています。




この旅はいつまで続くのでしょうか。


例えばここで飛行機に乗って、君や、僕の生まれ育った街へ帰ったら、旅は終わるのでしょうか。



いや、きっとそこで待っているのは、また新しい旅の始まりでしかないのでしょう。



僕たちがこの世界に留まり続ける限り、この旅から逃れる事は許されない


だとしたら、




僕は一体、どこへ帰れば良いのでしょうか。
いつか、帰り着く場所は見つかるのでしょうか。



分からない。
けれども、何は無くとも、今は次の土地へ向かうべきなのだろうと思っています。


2004,10,17
サキャの村より


サキャ1

⇨ネパール国境①へ続く



【チベット・インド旅行記】#23,シガツェ編はこちら!


【チベット・インド旅行記】#25,国境へ①編はこちら!

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