キャラメリゼ

怪獣と少女漫画の間に、深くて暗い溝なんかなかった

 怪獣が好きだ。少女漫画も好きだ。好物を組み合わせれば旨味は二倍、いや、二乗になるのではなどと考えて食べものでちょっとしたアバンチュールをやらかしたりすることもあるが、怪獣と少女漫画という好物をそもそも組み合わせようなどという発想がなかった。

 この作品によって私は、怪獣と少女漫画の間に深くて暗い溝なんてなかったことを知った。大怪獣と少女漫画のマリアージュ、なんと幸せな衝撃だ。

 『乙女怪獣キャラメリゼ』はこういう話だ。
 女子高生赤石黒絵は、幼いころから感情が昂ぶると体の一部が変化してしまう謎の奇病に悩まされている。手や足が大きく肌が岩のようになり、鋭い爪が生えたりするのを恐れて感情を露わにしない黒絵はクラスで孤立している。そんな黒絵がクラスいちばんのモテ男、南新汰に恋をした。人生初となる感情の爆発的高まりで彼女はとうとう体長100メートルの巨大怪獣ハルゴンに変身してしまう。

 陰キャ(陰性のキャラクターという意味だと思う、たぶん)少女がトップオブ陽キャのイケメンと恋に落ちるという筋書きは少女漫画の中でも王道の恋愛物語だ。陰キャの部分を取り柄がない、あるいは相手に釣り合わないと置き換えてもいい。
 釣り合いがとれないという障壁を乗り越えて恋を実らせる物語を、多くの作家が描いてきた。『乙女怪獣キャラメリゼ』もこの王道の物語を踏襲する。二巻まで読んだ限りでは王道パターンから逸脱しない、するものかという作り手の確固とした意志すら感じる。しかしトランスフォームものと王道恋愛ものをくっつけたのね、というだけでは終わらない。

 まず、怪獣。
 怪獣好きすぎて怪獣が出てくればオッケー的思考停止に陥っちゃいないか蟹よ、と問われれば残念ながら否定できない。それくらい好きなのだ、怪獣が。特に巨大怪獣ってのがいい。好き。目の前にばーん、と現れたらそりゃあ思考停止にも陥ろう。
 そして、怪獣。
 体の一部が感情の昂ぶりによって変化するという奇病だけでも十六歳の乙女にとって負担が大きいところに、奇病が実は怪獣へ変身する前兆だったというのは痛い。恋する相手との釣り合いという点でいえば陰キャと陽キャ、バランスががたついてるね、どころではない。シーソーが垂直に地面に突き立つレベルだ。しかし主人公黒絵は、

どこかで 期待していたんだろう
誰かが 受け入れて くれることを

 という切ない願いを

こんな世界で 私が受け入れられる わけがない(一巻)

 諦めていたころのままではいられない。恋を知り

大切にしたい と思う
君がくれた この感情を
自分自身で 踏み潰さないように――(一巻)

 と思うようになったからだ。

 大怪獣化する女子高生黒絵のインパクトは大きい。だが彼女を囲むサブキャラクターも多彩だ。
 黒絵が恋に落ちる南新汰は甘い美貌と誰にでも優しい人柄で大人気のイケメンだが、太りやすい体質で中学までは友達がいなかった。友里真夏は黒絵のはじめてできた同性の友人だ。巨乳美少女で飛び抜けた富裕家庭のお嬢様である彼女は怪獣が大好き。黒絵を大怪獣ハルゴンの巫女だと勘違いしている。
 母親の凛子は過保護気味。歌手の浜崎まゆみの大ファンで陽気なキャラだが、飾られている写真にいっしょに写っている男性の顔が隠れて見えなかったり、卵のようなもの(怪獣化した黒絵の肌に似た質感でわれめをテープで留めている)をもっていたり、何より

やっぱ 隠すのは無理かぁー
あの怪獣は クロたんだよっ☆

 と事情を知っている様子。

 第二巻では凛子とともに写真に写っていた男も登場。新汰や真夏との距離を縮めつつ、黒絵はまたも怪獣化。高校生男女の恋物語だけではおさまるわけもない。次巻以降、さらにスケールが大きくなりそうでとても楽しみだ。

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