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フェアでありたいから、同じ生産者から豆を買い続ける|「FUGLEN TOKYO」小島賢治(前編)

インタビュー | CRAFTSMAN × SHIP パネリスト | 富ヶ谷「FUGLEN TOKYO」小島賢治

11月23日(土)13:30から、渋谷の国連大学で開催される、食の職人によるトーク&イート・イベント「CRAFTSMAN × SHIP」の公式ノートの第3回は、パネリストの一人で、オスロのスペシャルティコーヒーを日本に紹介し、現在のコーヒーのトレンドのひとつを築いた「FUGLEN TOKYO」の小島賢治さんです。前後編でお届けするインタビューの前編では、コーヒー豆の生産地と関わりながら、プロダクトの命ともいえるクオリティをどのように保っていくか。小島さんなりの考え方を話してもらいました。

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オスロのコーヒーが浅煎りな理由

――「FUGLEN」のコーヒーとはどんなものでしょうか?

「FUGLEN」は、ノルウェーのオスロから来ています。もともと、ノルウェーのコーヒーは、豆の質が良いため浅煎り。アメリカで1980年代に始まったスペシャルティコーヒーの影響を受けて、産地から加工、製造といった流通などの過程を明確にレサビリティしたコーヒー豆、つまり「誰が作ったのか、どこで獲れたのか」というのが細分化されてわかるようなコーヒー豆を使っているのが特徴です。

こうしたスペシャルティコーヒーへの動きは、ノルウェーでは2000年代に始まったことで、これによってコーヒー業界がかなり革新的に変わったんですよ。

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――どのように変わったのですか?

それ以前は、収穫したものを、バーっととって、袋に豆を詰めて、重さを計っていた。つまり、重い方が高く売れる。しかし、とった豆は、完熟豆、未熟豆、悪い豆が全部入っているから、良いコーヒーにはならない。

質の悪いコーヒーというのは、変な酸味やウッディさがあるんですが、それしかなかった時代の先人の人たちは、たとえば質の悪い豆からくる酸味を消すために、何回も焙煎して深煎りして、酸味を消していたんです。深煎りすることで、素材の悪いところを隠すしか方法がなかったんです。

しかし、スペシャルティコーヒーという考え方ができたことで、良い品質のコーヒー豆、つまり、おいしいコーヒー豆を作った農家さんが単独で評価されるようになります。頑張った人が、高いお金が支払われるというのがわかってきてくると、「うちも頑張ろう」となって広がり、良いコーヒー豆を作ろうとする農家が増えていきました

やがて産地ごとにわけて、農家ごとにわけて評価するようになると、買う方も「こっちの農園の方が好みだな」とか、おいしい豆を選んで買えるようになったんです。

――「おいしければ高いお金がもらえる」ので、農家も質の良い豆だけを作るようになるわけですね。

はい。そして、良質な豆が揃っていれば、焙煎を深くする必要もなくなります。そうして、ノルウェーでは、良質な豆の個性を活かす焙煎や飲み方に向かい、どんどん浅煎りになっていったんです。

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ノルウェーから鱈、ブラジルからコーヒー豆

――なぜ、昔からノルウェーだけに良いコーヒー豆が持ち込まれていたんですか?

ポルトガルが、1801年のナポレオン戦争(半島戦争)にフランスに敗れて、宮廷が大西洋を越えてブラジル・リオデジャネイロに移りました。それによって、ポルトガルの郷土料理だった鱈の塩漬け「バカラオ」も、ブラジルに持ち込まれて食べられるようになります。当時鱈は、ノルウェーが高品質な産地だったので、鱈をノルウェーから運んで、ひき返す船にブラジルのコーヒーを積んで帰ってきたそうです。

ここでノルウェーが幸運だったのは、ブラジルのアラビカ種という高品質なコーヒー豆だけが輸入されたこと。そのほかにロブスタ種という、東南アジアなどの低地で作られる、やけたゴムのような香りのする質の劣る豆もあったのですが、それは輸入されなかった。そのため、質の良い豆を使ったクリアな味のコーヒーを飲む国になったんです。ですから、ノルウェーでは紅茶も飲まないんです。

――しかし、農家にとっては豆の選別など作業量も多くなりますから、スペシャルティコーヒーの考え方を理解してもらうのも大変だったのではないでしょうか?

1999年にアメリカで「カップ・オブ・エクセレンス(Cup of Excellence)」という品質審査をもとにした大会が行われるようになって、品質への評価が始まります。今では、この大会の勝者のコーヒー豆がインターネットオークションによって高値で競りに落とされています。こうした、表彰制度もあって、トレサビリティを明確にして高品質なコーヒー豆を作るという価値感が生まれたわけです。

あとは、そうした評価が高まる中で、買う側が、決して安く買いたたくようなことをしなかった。ちゃんと、品質への対価を払ったんです。

――そうした動きには、バリスタだったり焙煎士といった職人も中心にいたのですか?

そうですね。ですから、今回の「CRAFTSMAN×SHIP」のイベントのように、職人が自分たちで動いていました。ですから、わたしたち職人たちも、商品について消費者に積極的に伝えていくことも大事ですよね。

同じ生産者から継続して買い続けること

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――小島さんは、産地によく行かれるのですか。

じつは、再来週からコロンビアに行ってきます。今回は、豆の買い付けではありませんが、ちょうど収穫の時期で、農家のみんなの働きぶりや周辺環境、豆の出来具合とか、コミュニケーションをとって、今年がどうなるか見てきます。

そして、年が明けてからもう一度産地にいって、カッピング(コーヒー独自のテイスティング方法)をして買い付ける。収穫時と収穫後、2回は産地に行っています。

わたしは、できるだけ訪ねていった場所、会った人から継続的に買い続けていたいと思っているんです。

――それはどうしてですか?

FUGLEN COFFEEをオープンした後、国内焙煎所を始めて2年くらいは、オスロの「ノルディック・アプローチ」というエージェントのところに行って、わたしが買いそうなコーヒーを並べてもらい、ブラインドでカッピングして、そのなかからトップの豆を買い付けていたんです。

当時は、量が少なくてその方法でもよかったんですが、おかげさまで、だんだん買いたい量が増えてくると、特定の人からまとまって買えるチャンスをもらえるわけです。ステップアップですね。

トップのものを買っていると、とうぜん毎回違う生産者になってしまいます。それは、飲む方にとってはいいんですが、生産者にとってはフェアじゃない。前年と質が変わるのは、生産者の責任ではなくて、気候とかいろいろな条件がある。そして、その条件を知るためには、毎年買わないとわからない。

継続して買うことで、生産者をサポートすることにもなる。そして、もう1つ味は、変化に気づくことができます。

近年、地球規模で気候変動が起こっていますね。お客さまにも、毎年同じものを買っていても「去年より印象違いますね」とか言われます。その時に、「じつは今年は雨の日がずれてしまったからなんです」という話をすると、とたんにコーヒーは気候に影響を受ける作物であることに気づいていただける。そうした変化をお伝えしていくためにも、会った人から継続して買うことは大切だと思っています。

信頼や信用によってクオリティが保たれる

――現在はどれくらいの農家と取引されていますか?

いま、5つの農園からコーヒー豆を買っています。これまで産地に行って実際に会ったのは20人ほど、まだ始めたばかりで少ない方です。

それでも、わたしがいい豆に出会えているのは、エージェントの「ノルディック・アプローチ」のおかげです。たとえば、わたしが産地にひとりで行って、視察して買うっていうのは、みんながいいことをいってくるので騙されちゃうし、売買も埒あかないんです。

ノルディック・アプローチは小さなエージェントなのですがそのスタッフに連れられて、初めて産地に行って驚いたのは、農家のことじゃなくて、そのエージェントの仕事ぶりでした。たとえば、わざわざ産地に行って、さらにそこで良くしてもらったりしたら、情で豆を買ってしまうことも多いと思うんです。

しかし、彼らはそれを絶対にしない。あるとき、訪問した農園のトレサビリティを確認したいと彼らが言ったときに、農家の人の管理が悪くて、すぐにその書類を出すことができなかったんです。それを、彼らは厳しく注意して、「そんな体制では取引しない」とまで言ったのです。

良質で、おいしくないと成り立たないビジネスなのだから、買って欲しいなら、きちんとおいしい豆を作ってほしい。そうしたら全面的にサポートする。そういうことを、彼らは貫いていたんです。それを見てわたしは、「この人たちは信用できる」と感じました

――信用や信頼は、CRAFTSMANにとってすごく大切だと思います。

そうですね。言葉ばっかりでは続かないですから。多少高くても、信用がないと払ってもらえないわけですから。

(後編「良い豆から作ったコーヒーは、きれいで果実味がある」に続く)

CRAFTSMAN × SHIP(クラフトマンシップ)
【出演】 CHEESE STAND ー 藤川真至/Minimal ー 山下貴嗣/365日 ー 杉窪章匡/FUGLEN TOKYO ー 小島賢治/and You.
【日時】 2019.11.23 sat open 13:00/start 13:30
【参加費】 3000円(税込)
【場所】 青山・国連大学
【協力】 ファーマーズマーケット・アソシエーション
13:00 開場
13:30 第1部 CRAFTSMAN TALK
藤川真至/山下貴嗣/杉窪章匡/小島賢治 各20分
4人のCRAFTSMANが作った商品を食べながら、そこに込めた想いや開発の秘話などを聞くことができます。
15:20 第2部 交流会
藤川真至×山下貴嗣×杉窪章匡×小島賢治
CRAFTSMANと参加者の質問を中心としたディスカッションのほか、各店のブース出店もあり、商品を実際に購入することができます。
16:30 終了
※内容は予告なしに変更になる場合があります。

「CRAFTSMAN × SHIP」前売りサイトはこちら

こじま・けんじ
ノルウェー首都オスロにある、ヴォンテージの北欧家具を扱うカフェ&バーの国外1号店「FUGLEN TOKYO」代表。バリスタ世界チャンピオン監修のカフェ「Paul Bassett」にてバリスタ修行の後、単身オスロに渡りさらに深くコーヒーを学ぶ。帰国後、奥渋谷エリアにFUGLEN TOKYOをオープン。その後、焙煎所「FUGLEN COFFEE ROASTERS 」の設立や、コーヒー業態に参入する業種に対するコンサルティングや技術サポートなどにも積極的に取り組み、全国の若いコーヒーの従事者から特に支持を集める。

構成・文/江六前一郎 edited by MAGARI

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