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恋愛に絶望してる

 2024年4月1日。新年度の始まり。なのに、私は起きた瞬間から激しい希死念慮に襲われた。世の中と私が乖離している。社会が自分の手の届かないところに行ってしまった、というような、社会と私が分厚いガラスで仕切られているような感覚を、うつ病になってからずっと抱えている。雨が降っていても、酷暑でも、身体は翻弄されるが、どこかリアル感が感じられない。どこでもない場所から映像を見ているような感覚。言いようのない孤独。

 そういえば、ネットではこんなにもうつ病の人はたくさんいるのに、実社会では一人も会ったことがない。私の住んでいる地域には、うつ病の人が自分について語り合うサークルがあるようだが、そういう場所に行かない限り、同志には会えない気がしている。うつ病の人はどこにいるのだろう。うまく擬態して、さも普通の人のように生きているのだろうか。
 
 平日の日中に行動することに慣れた。最初は罪悪感というか、「働いていない人」として見られる気がして怖かったけど、今は何も感じない。冷静に考えると、平日休みの人もたくさんいるわけだし、最近太って顔が丸い影響で大学生に見られることもあるし、特に困る場面もない。

 2日前、土曜日にマッチングアプリで知り合った人と2回目のデートに行った。寝坊したので、30分で支度をして家を出た。デートへの意識が低い。ランチを食べて、博物館に行って、夕ご飯を食べて帰ってきた。

 そもそも、私がマッチングアプリを始めたのは、少しの希望に賭ける気持ちだったように思う。それは「最初から恋愛関係を前提にした出会いなら、恋人になれるのでないか」という仮説だった。いままで私は、友人と思っていた人から告白されるたびに、傷ついてきた。友情という、恋愛よりももっと崇高なもので結びついていると思っていたのに、と裏切られたような気持ちになった。だから、友情になる前に初めから恋人としての関係を作ればいいのではないかと思ったのだ。

 だけどもそれは間違いだったようだ。待ち合わせ場所で彼と会った時から、なぜかすごく「がっかり」した。面倒だと思った。一人ならどれほど楽だろうか、と思った。博物館のチケットを買うときも、「本当だったら障がい者手帳で無料だったのになあ」と思った。私は彼に、うつ病のことを明かしていないので。

 とどめを刺されたのは、夕食を食べながらお酒を飲んでいた時(本当は服薬しているのでお酒はNGなのだけど、彼に一緒に飲みたい雰囲気を出されて断りにくかった)。私が嘘をつく必要もないなと、恋愛経験がほとんど無だと話したところ、そもそも恋愛感情はある?という話になった。私はすでにアセクシャルを自認しているので、「ほぼ無いかも」と話すと、懇切丁寧に恋愛感情について説明された。私にとっては行く予定のない、遠い国の電車の時刻表を聞くようなものだった。
 「LikeとLoveの違い」なんて言われても、私にとっては全てがLikeだし、Loveである。友人も家族も私にとっては「愛」に違いない。でも、そんなのは通じなかった。恋愛感情がある人間に「無いこと」を証明するのは難しい。私には恋愛感情はわからないけど、人の機微はわかる。彼が私との距離を詰めてきているのも、ボディタッチを増やしてきているのも分かる。もっと言えば、ここで首をコテンと傾けてご機嫌な感じで彼の肩にすり寄れば、お酒に酔った感じでふわふわ笑えば、相手が喜ぶのも分かる。でも、どれも、本当にしたくなかった。彼が問題なのではなく、もう、本能的に、生理的に、すべてが無理だった。そうできない私が絶望的な状況でそこにいた。

 改札で笑顔で彼と別れた時、この世界で私が一番不幸な人間だと思った。人間としての幸せ、人と心を通わせることの喜びがどこを探しても無い、私。最低な私。目の前が、本当に真っ暗だった。新宿で電車を乗り換えながら、この世のすべてに絶望した。死ぬとか生きるとかの前に、もう自分のことが全部無理だった。生理的に無理。この世で生きていて一番不幸。

 ガラスに映った自分を見たとき、泣きたくなった。私が私を好きでいなくて、どうするの、と思った。髪を短くした私。キラキラのアイシャドウが好きな私。春になって、新しいティントを買った私。やわらかい素材のワンピースが似合う私。そんな私を私が好きでいなくてどうする。私だけが、私を認められなくてどうする。つらい。苦しい。消えたい。情けない。でも、私が私を好きでいなくてどうするんだ。私の神様は私だ。私だけのために私は在る。明日からも私のために私は素敵でいなきゃいけない。

 絶望しながら、震える思いで前を向いた。ちゃんと家に帰った。昨日は、もう無理でずっと寝た。今日も、死にたいけど、ちゃんとハローワークに行った。生きなきゃいけないから。そうして、きっとこれからも私の日々は続く。


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