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新たな鞄とともに

今年も無事、誕生日が来た。
そのお祝いとして家族から鞄を
贈ってもらえることになった。

その鞄は牛革で縫われたキャメルのトート。
明るすぎず、暗すぎず、ほんわりと優しいお色味。
色の名前を調べると、
スーダン・ブラウンという色が近い。
または、アンバー。明るい琥珀のような色。

ここ最近は、実用性重視で
ナイロンのリュックを使用していた。
汚れにくいし、ポケットが多く、どんな時も重宝する。
こちらも私にとって大のお気に入りだ。
そのリュックは黒色の落ち着くタイプだったので、
今回は、心機一転明るい色を選んだ。

まあるく優しい印象のデザインなのに、
カジュアルは勿論、ビジネスでスーツを着る時も
ばっちりフィットしてくれる。
触り心地もよく、手にしっかり馴染んでくれる柔らかさ。
それなのに芯があり、取っ手から底まで、
ぴっと自分で形を保っている、
その若々しい雰囲気がなんとなく春を感じさせてくれた。

うきうきしながら家に帰り、
さっそくナイロンのリュックから中身を詰め替えると、
普段から荷物が嵩張ってるせいか、なかなか終わらない。
整理整頓が苦手なのに心配性なせいか、
必要以上の化粧品だとか、
いざという時に備えソーイングセットやなど、
住処の決まらない小物がちぐはぐしている。
納め方がわからず、思いのほか捗らなくてひとり唸っていた。

苦戦している様子をみて、
お掃除整頓の師匠とも言える同居人が
参考になるかもと、とあるドキュメンタリーを見せてくれた。

近藤麻理恵さんの”人生がときめく片づけの魔法”
2010年、ベストセラーになった有名な本。
世界が今注目するその片づけ術『こんまり片付け術』を元に、
三組の片付けられない主婦が数か月に渡り
アドバイザーと共に、その方法を試みながら
自分にも向かい合うというドキュメンタリーだった。
片付けに指針みたいなものがあるのだろうか?
と疑問を感じ観ていると、
彼女たちに次々と変化が起きていった。
私は思わず最後まで噛り付いて観てしまった。

こんまりさんの片づけ術では、
捨てられないもの一つ一つ手で触れて、
その時、一体何を思うかという内省を大切にしている。
衣類→本→書類→小物→思い出品 の順番で
その手法を繰り返し、人によっては半年以上掛けて
一つずつ物を整理していく。

ドキュメンタリーが進む中で、
実際に一人ずつ変革が起こっていった。

不登校の時代を過ごしたAさんは、
学校に通わない間を共にした衣服や、
アルバイトの給与明細が捨てられなかった。
人と同じことができない自分を
ずっと責め続けていたことに気付き
何日も掛けて「頑張ったね」とその頃の自分と対話し、
役目を終えた服と給与明細に感謝を告げ捨てることができた。

幼少期、家庭にトラブルがあったBさん。
片づけが出来ないのは副業や知人との交流に明け暮れ忙しいためだと言う。
だがこんまり片づけ術を進める中で、
本当は「一人でいたい」「家にいたい」という本心に気付く。
それをしない理由は、家庭が怖いからだと納得していった。

Bさんは後に、玄関を這い自ら雑巾で拭きながら、
「玄関は何も言わず、毎日踏まれて
こんなに汚れても、ただ黙って迎えてくれる。」

と、ぼろぼろと泣いていた。
玄関に感謝することで、日頃の生活を内省し、
外へ気が向くのに、自分の身内や近くの人を
大切にできず傲慢だ、と感じ取っていた。

こんまりさん曰く、
片付けとは『モノを通して自分と対話する作業』とのこと。

そして、捨てられないものには
「過去の執着」と「未来への不安」
この2つの理由があるという。

捨てられないものからその気持ちを拾い、
今後その想いとどう向かい合うか決め、
最終的にモノを”残す”か”捨てる”の決断をじっくり行う。

この番組に出演されていた方は、
一人ひとり自分とモノに向き合うことで、
最終的に自分の核となる問題を見つけ、
再スタートするための部屋を作ることができた。



私も鞄の詰め替えが終わる頃、
感化されやすい私はすぐその影響を受けて
同じように所作を繰り返し片づけを行っていき、
少しずつ自分の気持ちが整理されていった。

過去への執着、将来への不安・・
鞄に詰め込まれた荷物は、まさにそのもの。
こんなにもお別れするべきものがあったのかと、
コンビニのごみ袋いっぱいに思い切って中身を捨てた。
たったこれだけのことを、
見つめ直す時間を確保できていない。
ドキュメンタリーのBさん同様に
日々予定を詰め込んでいる状態だなあ・・
「人生はいつ終わるか分からないから」と言い訳してるけど、
私も自分と向き合う時間を大切にした方がいいのかも、
と改めて思った。

そして、もう一つ気がついたことがあった。
最近、身の回りの物が手抜きになっている。
20代前半の頃は、一品モノに強く惹かれた。
色味でも質感でも、気に入るものに出会うために
めいいっぱい時間とお金を掛けた。
最近、実家暮らしから同棲生活になり、
資金繰りのせいか、将来を見据えてか、
または自分の時間がなくなったことによるものか。
なるだけ代わりがきいて、実用的で、手ごろな価格で、
手間のかからないもの
を選んでいることに気付いた。

ナイロンの黒い鞄。これもそのひとつだ。
ずっと長かった髪はショートに。
コンタクトレンズは眼鏡に。
私服も仕事着もユニクロが増えた。

当たり前だと思っていたこの共通点に、
ふと同級生の数人の顔が浮かんだ。

20代も終わりにつれ、周りに結婚し子供を持つ友人が増えた。
トントンと順調にコマを進めているようにみえる友人は、
趣味も仕事もトントンと器用に諦めて、
持ち物も人間関係もどんどん軽くして、
どんどん賢くなっていく。
その姿を目で追って「ああ、すごいな。」と憧れている。

彼女たちの行動を当たり前のようにコピーしていた私は、
物に対してちゃんとした自分の理由を持っていなくて、
『諦め』という感情を物に与えてしまっている。

早く追いつかなきゃ、あんな風になりたい!という
自分の焦りが反映されると、きっと心がくすむ。

今自分の心はちょっとくすんでいるんだなと気付けた。

そこまで気付いて、じゃあどうしたい?と問いかけると、
もう少しお洒落してみようかな?とか、
そこまで焦って頑張る必要ないんじゃない?と
無意識に無視してきた気持ちがぽろっと出て
少しずつ心が生き返っていくような感覚に陥った。

色んな方向から考えると、私の憧れる彼女たちは、
そもそも『諦めている』んじゃなくて、
実は、今大切にしたいものを
『選んだ』だけだったのかもしれない。
目の前の家庭や育児のために
『今はできることに集中してどこかに置いてある』とか、
『未来へ楽しみとしてとってある』とか、
言い換えて一つずつ向き合っているのかもしれないな。
その過程にどうやって向かい合っていったのか、
今度聞いてみよう・・。

そんな風にくるくる考えている間に、
鞄に入れていくものひとつひとつと対話が終わり、
貴方を選んだのはこれだよ!と長所を見つけ、
こんなときは貴方にしっかり任せたよ!と
新しくお役目を与えていくことができた。
その過程を通じて、物に感謝できスッキリして
今よりずっと大切にしてあげられそうな気がしてきた。

***

鞄の出会いとこんまりさんのドキュメンタリーが、
思わぬところで自分を振り返る考えるきっかけをくれた。
内省し心も共に整理することで
新たなスタートラインが明るく見えた。

この鞄は、新たな一年、
そして新しい時代を一緒に歩き出してくれる
心強いパートナーになりそうな気がする。
実は、皮の鞄なんて
どう大切にしたらいいかわからなくて怖かった。
でも、今は一緒に歩んでみたい気持ちが勝る。

この一年は、この鞄に似合う人になりたい、と強く思う。
そして、もっと周りの物の意味づけを大切にしたいと思う。

今日は何をもっていきたい?
何故それをもっていきたい?
なんて対話しながら、役目をあげて
この鞄に入れていきたい。
ゆくゆくは自分ももっと大切に・・。

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