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読書レビュー:社会学「選択的シングルの時代」

体感的にシングル(独身)が増えてきているような感覚を、世界中の統計から明文化したイスラエル出身の著者。発行は2016年ですが、国内では2023年6月末刊行。


世界中で存在感を増しているシングル

そもそも、シングルの定義とは何でしょうか?著者は以下のように定義します。

1)結婚したことのない人たち
2)離婚した人たち
3)配偶者に先立たれた人たち

※特定のパートナーと同居している人たち=共同生活(同棲)は含まれない。シングルの人口10%を占める。

中でも1)が占める割合が高く、世界的に見てもいかにシングルが増えているかは分かります。

中国:2014年ではシングル世帯は6000万人以上vs1982年は1700万人
ヨーロッパ:ミュンヘン、フランクフルト、パリなど主要都市の50%を超える世帯がシングル世帯
アメリカ:1950年成人の22%がシングルvs今では50%以上
アメリカで生まれる赤ん坊の四人に一人は一生結婚しないと予想される

先進国では想像できると思いますが、実は南米や中等の国、アフリカ諸国でもここ数十年の間にシングル人口が増加しています。

イラン:伝統的に早く結婚して一生添い遂げ離婚しないことが当然だと思われていた
1986年女性一人あたりの出生率は7人→2000年2.1人
アラブ首長国連邦:2014年30歳以上の女性のシングルは60%。離婚率は40%(20年前より20%増加)
男性が高額な結納金の支払いを避けるため国外の人と結婚したり独身を貫いたりして、政府が結納金基金を設立するほど。活用はされているものの、シングルは増えている

シングルが増加する背景は?

彼は、人々が結婚に憧れなくなったと考えています。その理由として、

1)人口統計上の変化
2)社会における女性の役割の変化
3)離婚時代におけるリスク回避
4)経済の変化・資本主義と大量消費主義の広まり
5)宗教的価値観の変化
6)文化的変化
7)都市化
8)国境を超えた移民

を上げています。
1)はデータが抽出しやすく、女性の一人あたりの出生率、平均寿命、都市化、男女の不均衡の統計から読み解いています。

<女性一人あたりの出生率>
メキシコ:1970年6.6→2016年2.2
インドネシア:同年5.4→2.4
トルコ:5→2.1

経済発展では、仕事のある都市に人が集中しインフラが整い教育が改善されという流れは決定している中、出生率が低下することも当然の流れです。
出生率が低下すると、結婚の時期を遅くすることができ、少ない姉弟で育った次の世代にも少人数の家庭という概念が引き継がれていきます。

また、人口統計的には平均寿命も影響があります。長生きすれば長いほど、高齢の人が一人で生きる時期も長くなります。必然的にシングルが増えるのです。先進国だけでなく、途上国でも長寿世界になっています。

加えて、都市によっては男女比の不均等が生まれています。

1)中国、韓国、インドの一部や世界中のコミュニティで、極端に男児が好まれる。中国の一人っ子政策では、男児ばかりとなり3000万人男女の開きがあることがデータで出ています
2)大都市への国内移動するグループが固定化:大学教育を受けた女性や同性愛者の男性は、アメリカでは大都市に集中
3)NYのマンハッタンでは、大学卒の独身女性の人数は、大学卒の独身男性より約32%多いとのこと!また、マンハッタンに住む男性の9−12%は自身をゲイと認識(対して女性は1−2%)。マンハッタンにいる女性にとって、パートナーになる可能性の男性は少ない

このように近年の人口統計の動きが、結婚制度を支える土台を変えつつあります。過去に戻らないものもありますし、一時的な現象と考えられるものもあります。

統計のあとは、根付いてしまったシングル文化の中で、シングルが受ける偏見やどう幸福を得て現実的に暮らしいくかを、自身がシングルでもある彼が2章以降で解説します。

社会関係資本

結婚=幸福ほどシンプルではないと分かっていながらも、シングルである人は「不幸」「未熟」というイメージがつきまとっています。

一方、幸福感を大きく左右するのは「社会関係資本」とも言われています

<社会関係資本>
相互利益のための集団行動を促進する規範とネットワーク

社会関係資本は、近年幸福やウェルビーイングとの関係において重要視されるようになりました。趣味のクラブや、政治経済活動以外のコミュニティで過ごす時間と強く結びついていることも明らかになっています。
より社会と繋がっている方が、幸福感が高いことが著者のヨーロッパにおける研究で表され、幸福に独身既婚であることは関係ないと著者は提唱します。

所感

冒頭はデータがあるものの、やや恣意的にピックアップされたように感じますが、十分に説得力のある説明になっています。ある程度は著者の想像で補われているところもありますが、定性的なヒアリングも終えた研究結果であることは分かるでしょう。

冒頭の著者の子供時代の体験でも分かるように、イスラエルは、女性が3人子供を生む先進国で国が”家族”を推奨しています。
同じくイスラエルの著者『母親になって後悔してる』もベストセラーになったように、国策の水面下で見えない声が隠れているように感じます。一方で、その声を研究成果として発表できる優秀な人材が多くいることが本当の国の豊かさだとひしひしと思います。


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