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夏に置いた未来を、秋に戻して

僕らは置いた。いや、残した?忘れてきた?
どうもそんな"仕方がない"で片付けるわけにはいかないだろう。

僕らは夏に未来を置いてきた。
半年後の受験を、1年後の就活を、5年後の大人を、10年後の理想を。

だって夏はそれを許してくれるのだから。
耳に劈く蝉時雨と、屋台の賑やかさに浮かれた夏祭りと、
瞬間さえ五感で逃しやしなかった宙に舞う花。

夏は本当に狡くて溜め息が出るほどに大好きで大嫌いだ。
まとまらない想いを全て解き放ってくれるようだ。

あなたはどうだっただろうか。夏のせいにしちゃいなかったか。
30℃の陽炎の向こうに見えなくなっていたのは、きっと僕らの未来だ。

僕らはそれを知っていた。もう何年と前から知っていた。
その先にある鼻に突き抜ける秋の静寂に何度も懲らしめられてきたんだ。

秋は痛い。冬になる前に乗り越えなくちゃいけない。
冷える袖口に付き纏う夏の残り香を、一つ一つ解かなければならない。
それは8月31日の次が8月32日ではないように。

僕らの夏は、まるで夢のように目の前からいなくなる。
恋しくてあっけなくて、本当の自分と対峙するには心許なくて。

そうして小さい僕らは、何一つさえ変われないまま。

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