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【第14回】特集 司馬遼太郎の幕末維新期の短編を読む①

数多くの歴史小説を世に残した司馬遼太郎氏。幕末維新期の小説を読もうとしたら、彼の作品を抜いて語ることができないでしょう。

私が歴史小説を読むようになって4年ほどで、イコール司馬遼太郎読書歴です。
まだまだ未読作品が多いことは承知ですが、手元にある彼の作品から、短編集のみを引っ張り出して整理したいと思います。

本特集第1回は、対象となる作品を洗い出して一覧を作ってみたいと思います。
折角出版社が編集しているものを並べ替えるなんて、野暮なことは重々承知ですが、やっぱり「時代順」「出来事順」「その界隈ごと」に作品を整理して追うことによって、自分の中で積み重なる背景がより物語世界を楽しませてくれると考えるからです。

どうぞお付き合いください。

文庫本7冊のラインナップ

今回取り上げる短編は、次の7冊の文庫本からピックアップします。

A『幕末』 文春文庫
B『酔って候』 文春文庫
C『故郷忘じがたく候』 文春文庫
D『人斬り以蔵』 新潮文庫
E『馬上少年過ぐ』 新潮文庫
F『新選組血風録 新装版』 角川文庫
G『王城の護衛者』 講談社文庫

A『幕末』 文春文庫

まずはそのものズバリ、文庫名に『幕末』を冠している本書には12編が収録されています。すなわち、
A-1 「桜田門外の変」 
A-2 「奇妙なり八郎」 
A-3 「花屋町の襲撃」 
A-4 「猿ヶ辻の血闘」 
A-5 「冷泉斬り」   
A-6  「祇園囃子」 
A-7 「土佐の夜雨」 
A-8 「逃げの小五郎」 
A-9 「死んでも死なぬ」 
A-10 「彰義隊胸算用」 
A-11 「浪華城焼打」 
A-12 「最後の攘夷志士」

タイトルを見て、「あっ、あの出来事だな」とピンと来る方、来ない方。
いらっしゃると思いますが、私はなかなかピンときませんでした。
これをメインの出来事順に並べ替えてみますと、
A-1 「桜田門外の変」 安政6年 井伊直弼暗殺事件
A-7 「土佐の夜雨」 文久2年 吉田東洋暗殺事件
A-9 「死んでも死なぬ」 井上聞多の半生
A-2 「奇妙なり八郎」 文久3年 清河八郎暗殺事件
A-4 「猿ヶ辻の血闘」 文久3年 姉小路公望暗殺事件
A-5 「冷泉斬り」 元治1年 絵師冷泉為恭殺害事件 
A-8 「逃げの小五郎」 文久3年から慶応1年
A-11  「浪華城焼打」 慶応1年 ぜんざい屋事件
A-12 「最後の攘夷志士」慶応2年 ハリー・パークス斬り込み
A-3 「花屋町の襲撃」 慶応3年 天満屋騒動
A-6  「祇園囃子」 慶応3年 住谷寅之助殺害事件
A-10 「彰義隊胸算用」 慶応4年 上野戦争

こんな感じの流れになろうかと思われます。

B 『酔って候』 文春文庫

続いて文春文庫の『酔って候』は、主に雄藩の賢公たちを主人公にした中編を4編収録。これらはいずれも同時代のお話なので、シンプルに収録順に紹介します。

B-1 「酔って候」 土佐の山内容堂
B-2  「きつね馬」 薩摩の島津久光
B-3 「伊達の黒船」 伊予宇和島の伊達宗城
B-4 「肥前の妖怪」 肥前の鍋島閑叟

C『故郷忘じがたく候』 文春文庫

こちらは、「故郷忘じがたく候」「斬殺」「胡桃に酒」の3編を収録。
そのうち「斬殺」が幕末維新期のお話です。

C-1 「斬殺」 慶応4年 世良修蔵暗殺事件

D 『人斬り以蔵』 新潮文庫

こちらには「鬼謀の人」「人斬り以蔵」「割って、城を」「おお、大砲」
「言い触らし団右衛門」「大夫殿坂」「美濃浪人」「売ろう物語」の8編が収録。
そのうち幕末維新期は次の作品。

D-1 「鬼謀の人」 村田蔵六・大村益次郎の生涯
D-2 「人斬り以蔵」土佐の足軽 岡田以蔵の物語
D-3 「おお、大砲」文久年間に植村藩に下賜された家康の大砲
D-4 「大夫殿坂」 浪華の仇討ち
D-5 「美濃浪人」 元治1年 井上聞多遭難を救った医師

E『馬上少年過ぐ』 新潮文庫

こちらには「英雄児」「慶応長崎事件」「喧嘩早雲」「馬上少年過ぐ」「重庵の転々」「城の怪」「貂の皮」の7編が収録されており、そのうちの幕末作品は

E-1 「英雄児」 長岡藩家老河井継之助の生涯
E-2 「慶応長崎事件」慶応3年の長崎英兵殺害事件
E-3 「喧嘩早雲」慶応4年の旧幕府軍対足利藩の対決

の3編です。

F 『新選組血風録 新装版』 角川文庫

こちらはとにかく新選組に関わる物語15編を集めたもの。短編集というより「新選組」を描く連作集のように受け止めています。
なので収録順に
F-1 「油小路の決闘」
F-2 「芹沢鴨の暗殺」
F-3 「長州の間者」
F-4 「池田屋異聞」
F-5 「鴨川銭取橋」
F-6 「虎徹」
F-7 「前髪の惣三郎」
F-8 「胡沙笛を吹く武士」
F-9 「三条磧 乱刃」
F-10 「海仙寺党異聞」
F-11 「沖田総司の恋」
F-12 「槍は宝蔵院流」
F-13 「弥兵衛奮迅」
F-14 「四斤山砲」
F-15 「菊一文字」

これらは新選組を描く連作と言いましたが、個人的には『燃えよ剣』と一緒に読むことでまずます新選組のグルーヴ感が増す、見逃せない一冊だと思っています。

G『王城の護衛者』 講談社文庫

こちらには5編の中編が収録されていますが、そのうち「鬼謀の人」「英雄児」「人斬り以蔵」が前出の文庫本とかぶってしまっています。次の2編も、もちろん幕末の物語ですが、個人的にはとても重要な作品だと感じています。

G-1 「王城の護衛者」 会津藩主松平容保の物語
G-2 「加茂の水」  錦の御旗製作秘話

その時、誰が、どう生きた

ここで紹介しただけで42作品ありました。描く方も大変ですが、正直読む方も大変です。
だけどこんなにたくさんの視点が提供されている、と思うと、やはり整理してしっかり読み込みたいところです。

「その時」「誰が」「どう生きた」、そしてそれらの人生と世の中の趨勢をいくつかの軸を通して見つめることで、幕末維新期の世界がよりふくよかに感じられると思います。

特集2回目以降では、これらの作品群を整理して紹介したいと思っていますが、肝心な「軸」を何にするか、ちょっと研究して準備したいと思いますので、少しお待ちくださいませ。

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