見出し画像

同じ手 



娘が生まれた年に書いた「香り」に関するエッセイ。

最近はあまり自分のことについて書く時間を取れていないけど。こうして自分の想いを言葉にすることは、私にとってすごく意味のある時間です。

応募して落選した作品ですが、せっかくなので自分の記録用に載せます^^




『同じ手』


肌寒さを感じるようになると、毎年手荒れに悩まされる。
「おばあちゃんの手みたい」と友人から言われたことがあるくらい、幼い頃から私の手は皺々だった。

それでも自分の手を嫌いになることがなかったのは、きっと私の手が母と同じ手をしていたからだ。

母の手は皺が多く、手先だけでなく足のかかとも必ず冬になるとあかぎれになっていた。
ひび割れた痛々しい手足にクリームを塗る姿を、今もよく覚えている。そしてその姿と共に思い出されるのが、母が使っていたクリームの香り。これは母の匂いだ。

自分で身の回りのことをするようになって改めて思うが、家事において水仕事は避けられない。それでも母はその手で、洗い物に炊事、掃除に洗濯と一通りの家事をこなしてきてくれたのだ。忘れられないその香りは大人になった私に、その確かな事実を教えてくれた。

今年、私も母になった。
どんなに皺々でひび割れていても、娘は私の手をじっと見つめたり、握ったり、顔をすり寄せ、時には枕にして眠りにつこうとする。

私もそうやって母の手を求めていたのだろうか。いや、今でも私は求めている。大好きだった母の手を。生きていたら答え合わせをしたかったが、幼い娘の姿を自分と重ねながら「私もこんな風に母の手を握っていたのかな」と想像を膨らませている。

まだ小さな娘の手を握り返しながら、そっと「どうか私に似ませんように」と願う。しかし、そう願いながらも少しだけ似てほしいと心の内で思うのは、親子の繋がりを求めているからかもしれない。

今年もこの季節がやってきた。今日も懐かしい香りをこの手にすりこんでいく。「母と同じこの手で、私もこの子を守っていく」と、誓いながら。



私は毎年手荒れがひどくなると、冬の訪れを感じます。

皆さんも「思い出の香り」ありますか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?