第19話:世界中が敵になったとしても、僕だけは味方でいてあげるから
フランスの田舎町にある彼の実家を訪れたあと
仕事のため一足先に帰国する彼をパリで見送り、
日本に帰国する前に、スペイン、そしてロンドンを一人旅しながら
ある人のことを思い出していた。
それは、
シンガポールに行くきっかけをくれた人だった。
リーマンショックの真っ只中、失業&失恋のダブルパンチで
自分に対する自信も、生きる意味さえも見失っていたときのこと
たかが、失業
たかが、失恋
何をそんなに大げさに。
今の私ならそう思えるけれど、
良い成績をとって
良い学校に入り
良い会社に就職をして
良い人と結婚をする…
その先に人生の成功があり
幸せがあると信じていた私にとって
文字どおり、先の見えない真っ暗闇の中にいた。
未来のためにと幸せを貯金するかのように
今までずっと我慢して、頑張ってきたのに…
目の前の幸せを先延ばしにしながら生きてきた私の人生は、
一体なんだったのか。
そんなドン底から私を救ってくれたのが、彼だったのだ。
本当の意味で「自分の人生」を生きたことのなかった私に
人生というのは、心の声を聞きながら
自分で掴み取っていくものだ
ということを教えてくれた人だ。
仕事もない
恋人もいない
新たな一歩を踏み出す勇気さえなく
怖さでどこにも行けなくなっている私に
大丈夫。
世界中が敵になったとしても、
僕だけは味方でいてあげるから。
そんなキザな言葉をかけて背中を押してくれた
ひと回りも年上の人。
帰国子女で、幼少期から大学卒業まで海外で暮らしていたせいか
ちょっと変わった人だった。
そんな彼の言葉を支えに
勢いだけでシンガポール移住するという
周りも、自分さえも驚くような、思い切った行動をすることができたのだ。
シンガポールを離れるということは
同時に、そんな彼への想いを卒業することを意味していた。
彼と出会ったことの意味ってなんだったんだろう…
私はずっと、そのことについて考えていた。
そうか。
彼は、私にダンボの羽を授けてくれたんだ。
その魔法の羽さえあれば、何だってできる気がした。
その魔法の羽の力を信じて
怖さにギュッと目をつぶりながら
新しい世界に飛び込んだことによって
自分でも驚くほど高く羽ばたき
そして今、
全く違った視点から
広い世界の美しい景色を見ているのだ。
その羽を失ってしまったら、
私は再び地上に墜落してしまうような気がして。
だから、頑なにその「魔法の羽」を手放せずにいたのかもしれない。
「君のことは好きだけど、結婚はできない。」
そう言われるたびに
なんて勝手な人だろう
そう思っていたけれど、
勝手なのは、私の方だったのかもしれない…
彼のことを愛していたのではなく、
自分を「特別」にしてくれる彼のことを愛していたのだ。
本当は、彼に愛してほしかったのではなく
自分自身に愛してほしかったのだ。
彼に信じてほしかったのではなく
自分自身を信じたかったのだ。
人というのは、出会いを通して、
その時々で必要なメッセージを受け取ったり 、届けたり、交換し合いながら
それぞれが望む未来に向かって先に進んでいく主人公であり
人生とは、そんな愛に溢れる仕組まれた物語なのかもしれない。
大丈夫。
世界中が敵になったとしても
私だけは、私の味方でいてあげるから。
長年かけて出した問いの答えをもって
ようやく、次に進めそうな気がした。
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