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例えばこんな小説を書いています。短編。

 〜応援演説〜

 助けてほしい時に「助けて」って言えるのは、才能だと思います。

 少なくとも、私の人生の中で「助けて欲しい時は助けてって言うんだよ」なんて誰も教えてくれませんでした。

 そんな事、学校の授業でも教わらなかったし、家庭でももちろん教わりませんでした。

 だからやっぱり「助けて」って言えるのは、誰かに教わって出来るようになるものではなくて、天から授かる才能なんだと私は思うのです。


 2年3組の立花君は、天賦の才を持って産まれてきました。

 笠山高校の中では明らかに目立つ存在なので、彼の事を知ってる人は多いかもしれません。

 そうです。今、私の右に立っている、適度に制服を着崩して、チャラそうで、見た目からして陽キャ臭がプンプンするこの人こそ、立花蘭太郎君です。

 彼が夏休み明けに金髪で登校し、始業式で生徒指導の金井先生をブチ切れさせたことは、まだ記憶に新しいかと思います。

 彼の行動は奇抜なので、変人と認識している人も多いかもしれませんが、それはその通りです。間違いありません。変人です。
 しかし、なぜか彼の周りはいつも明るく、笑い声が絶えません。彼は根っからの陽キャなのです。

 そんな変人の陽キャですが、人に助けてもらう才能において、彼の右に出る者はいません。
 私が証明します。


 まず、彼はほぼ毎週、英語の宿題を忘れてきます。そして毎回、学級委員長の木下君に「頼むよ〜、俺困ってんだよ〜」と言って、宿題を写させてもらっています。我が2年3組ではお馴染みの光景です。

 一昨日は、申請もせずにバイトしていたことが担任の篠原先生にバレたようで「先生〜、しょうがないんだよ〜、母ちゃんの誕プレ買う為だったんだよ〜、俺の内申下がんじゃ〜ん、他の先生には言わないでよ〜、この通りだよ〜」と言って、両手を合わせながら深く頭を下げているのを廊下で見ました。

 私が今ここに立っているのも「頼むよ〜、お前昔から文章書くの上手いじゃ〜ん、中学の時なんかで文部科学大臣賞とってたろ〜?幼馴染なんだから助けてくれよ〜、勝手に推薦されただけだから適当に書いて読んでくれればいいからさ〜」と昨日土壇場で、立花君が頼んできたからです。

 彼は「助けて」と言う天才です。クラスメイトの2年3組の皆さんも、そう思うでしょう。

 文化祭のクラスの出し物を決めた時も、「俺一回演劇やってみたかったんだよね〜、青春っぽくてよくない?みんなでやろうよ〜、お願〜い」と立花君が言ったからです。

 なかなか決まらなかった体育祭の競技分けがようやく決まったのも「決まらないと俺が部活に行けないよ〜、松浦〜もう俺と一緒に卓球に移ろうよ〜」と立花君が言ったからです。

 悪口を言うようですが、私たち2年3組のクラスメイトは、彼の「助けて」によって、結構振り回されています。特に、木下君と松浦君と私の被害は顕著です。

 そんな彼が今回、生徒会役員選挙で会長に立候補します。私は、直前になってこの原稿を書かされることになり、結構腹立たしく思っています。

 しかし、この壇上に立った私は今、こう思うのです。これだけたくさんの生徒を束ねる生徒会長には、彼のような人間が相応しいと。


 皆さんは、全校382名の生徒が結束するために、何が必要だと思いますか?

 私は、互いに助け合う心が必要だと思います。では、互いに助け合う為には、まず何が必要でしょうか?それは、誰かが先に「助けて」と言うことなのです。

 私は、自分から「助けて」となかなか言えません。皆さんも、そうではありませんか?

 恥ずかしいのです。「助けて」と言って、相手に迷惑だと思われたらどうしようとか、人に頼るなんて自分が情けないとか、そういうつまらない事を考えて、言えないのです。そんな中、立花君は言えるのです。「助けて」って。だから彼は、天才なのです。

 ついでに言っておくと、立花君が始業式の日に金髪で登校したのには、理由があります。

 ハーフで生まれつき髪の色素が薄い木下君は、一学期からずっと金井先生に黒染めするように迫られていました。そのため、立花君は金井先生の怒りの矛先を自分に向けさせようと、わざわざ金髪にしてきたのです。見事に、始業式後の身だしなみ検査では、立花君しか居残りになりませんでした。
 もちろん木下君に頼まれてしたわけではありません。立花君が勝手にしたことです。いつも木下君が宿題を見せてくれるから、お礼がてら一発かましてくるって言いながら、髪を染めていました。

 彼が無断でバイトしていたという話ですが、あれはお母さんに誕プレを買うためにしていたわけではありません。あれは全て嘘です。
 本当は、私のおばあちゃんがやっている駄菓子屋の手伝いをしていただけです。腰を悪くしていたおばあちゃんのために、店内の品出しを手伝っていただけに過ぎません。私のおばあちゃんがお礼にと、たんまり彼にお菓子を渡してしまいましたが、どうか諸先生方、彼は断じてバイトはしていませんので、誤解しないようこの場を借りてお願い致します。
 彼が嘘をついたのは、私が立花君と幼馴染である事をずっと隠していて、口封じしていたからです。私は陰キャでいたいのです。こんな私に対しても、彼は律儀に約束を守ります。

 文化祭のクラスの出し物に立花君が演劇を推した理由は、直前に演劇部が廃部になって文化祭で出し物ができなくなってしまったクラスメイトの佐々木さんのためです。

 サッカー部のくせに、立花君が体育祭で卓球に出場したのは、単に人数合わせの為です。でもそれは、どれだけ時間を費やしてもクラスの皆が自分の希望を曲げず動かないから、立花くんが折れて動いてくれたのです。ちなみに松浦君もです。あの時は松浦君もありがとう。


 皆さんは助け合い、出来ていますか?
 助け合うために、誰かに「助けて」って自分から言えていますか?

 どうか言ってください。「助けて」ってちゃんと言ってください。
 立花蘭太郎君なら、ちゃんとその言葉を聞いてくれます。
 だって、立花君自身も「助けて」って皆さんに言いますから。
 彼は助け合いが出来る人なのです。今日ここに至るまでの彼の行動が、それを証明しています。

「助けて」と言える天才が、ここにいます。彼がきっと皆さんにも「助けて」と言っていいんだと思わせてくれるでしょう。

 皆さん、助け合いが出来る笠山高校にするため、才能溢れる立花蘭太郎君に、清き一票をお願いします。

 これで、立花蘭太郎君の生徒会長推薦の応援演説を終わりにします。
 ご清聴ありがとうございました。


おわり

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