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デッドエンドの中でしか見えないもの

先日、図書館でよしもとばななさんの『デッドエンドの思い出』を借りてきた。5つの短編集が集まった作品で、私にとって初めて読むよしもとばななさんの本だ。

どの話も心がずしんと重くて切なくて、なんというか今まで感じたことのない複雑な感情に駆られた。

特に印象的だったのは、「おかあさーん!」と「デッドエンドの思い出」。

「おかあさーん!」

主人公が社員食堂で毒を盛られて死にかけるという不運な事故をきっかけに、主人公の過去を思い出す物語。人は、ちょっとした偶然が重なり合うことで幸せな人生を送ることもできれば、永遠の別れに繋がってしまうこともある。生きていく上で人との縁についてとても考えさせられる作品だった。何かちょっとしたことが違っていたら、主人公は全く違う人生を送っていたのかな、と思うととても切なかった。過去は変えられないけれど、それでも向き合うことに意味があるのだと感じた。物語の最後の3行が忘れられない。

「デッドエンドの思い出」

表題にもなっている短編集ラストの作品。婚約者に浮気されその彼女と家族になるという裏切りに合い、不幸のどん底にいる主人公が人生の再出発に立つ物語。デッドエンドにいたからこそ見えたものに気づく主人公に、思わず今の自分を重ねてしまった。できるなら日々幸せに生きていきたいけれど、突然どん底に落ちてしまうこともある。そんな絶望の中にも小さな光を見出して欲しくて、ばななさんはこの本を書いたのかな、と思った。

この物語の終盤で、西山くんが主人公にかけた忘れられない言葉がある。

心の中は、どこまでも広がっていけるってことがあるのに。人の心の中にどれだけの宝が眠っているか、想像しようとすらしない人たちって、たくさんいるんだ。

よしもとばなな『デッドエンドの思い出』

心をえぐられるような重たく切ない短編集だったけれど、この生きづらい世の中にも光があるんだよと思わせてくれた。読み進めるのがこんなにも辛かったのは初めてだった。忘れられない作品だ。

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