見出し画像

【前回からのつづき】障がい者就労継続支援事業所と一緒に考える未来の厨房 ~給食事業✖就労支援事業で、介護施設の経営改善、そして労働市場の構造改革に挑戦~           

こんにちは。中の人の野津昭子です。
今回は、「モルツウェルとゆかいな仲間たち#6」で紹介させていただいた障がい者就労継続支援事業所・株式会社そらまめらんどとモルツウェルの挑戦について、株式会社そらまめらんど代表取締役の福井桂氏にインタビュー、の、続きです。


1.ゆうても実際のとこ、どうなん?

1)就労者へインタビュー

  ①大変なことはありましたか?
厨房内は気温が高いです。私は体に熱がこもりやすいので余計に大変です。でも、それ以上に集中力がないので作業スピードが安定しませんでした。そらまめらんど独自の訓練(そらまめそっど)で、なぜ集中できないか、ムラがあるのはなぜかなど自己認識を高めながら、徐々に 「ダメだったな」 という日は少なくなってきました。
 
②覚えるのは苦労しましたか?
モルツウェル社員の先輩に手取り足取り、こと細かく注意・指導してもらい、すぐではないですが覚えられました。先輩の教えのお陰で今作業ができています。私というよりは、先輩が苦労されたと思います。
 
③施設厨房のやりがいは何ですか?
初めての厨房作業は、朝早くの車で30分かかる施設での作業でした。右も左も分からず、「自分は何もできない」という現実を思い知らされました。
その前は、社内の食堂部に所属していたのですが、その頃の私は「自分はできる」と勘違いしていて、自己評価がとても高く、上司の助言や指導を全く聞き入れませんでした。いつも自己流や自己判断で作業をしていて、結果失敗するのですが、それを認めるのが嫌で責任転換をしては逃げていました。そんな私を見ていた社長が、「行っておいで」と施設厨房に行くことになりました。
最初は自分ができるから行くんだと思っていましたが、全く違っていました。社長は、社内の仕事で甘えていた私に、課題が全て自分に返りやすい外の現場を与えてくれたのだと思います。最初の頃は、先輩が運転してくれている車で爆睡したり、作業の出来もなかなか良くならずで、だけど先輩に申し訳ないなと、食器洗浄を特にがんばりました。
他の作業は難しかったけど、洗浄は標準スピードに近づいていき嬉しかったです。でも、何より、そんな僕を見離さず訓練の場を与えてくれた会社の力になりたいと思い始めました。

あれから2年、現在の施設で働かせてもらえるようになり、ワンオペ作業、8時間のフルタイム、昨年からはチームのリーダーに任命して頂き、リーダー手当も頂けるようになりました。今、自分が到達しないといけないのは「責任者としての行動・思考」ですが、課題は山積みですが、信頼してもらい任せてもらえること、昨日よりできた!というのが嬉しいです。もっとできるようになりたいです!

配膳作業もワンオペで完ぺきにこなせるYさん。


2)就労者Yさんのお母さまへインタビューしました。

従来の厨房のやり方と違い、調理済みの食材を使用され、衛生的に手際よく盛付をし食事提供ができるよう作業工程が考えられているので、元々作業手順にこだわりがあり心配していました。
最初は時間がかかってしまっていたと思うのですが、そこはマンツーマンの指導支援を受け、本人の予習・復習の努力もあり、一人で任せらていただけるまでに成長することができたと感じています。
また、緊張しやすく、お客様の対応もしなければならない食堂の仕事より厨房での仕事が今は落ち着いてできるのではないかと思いました。

継続して結果を出すためには、その人にとっての働きやすい環境があって、やりがいをもてることは大きいと思います。高齢者福祉の一人の担い手となれていることをうれしくい思います。

3)指導員さんはどんな役割でかかわられていますか?

職員がガッツリ作業をメインでするA型事業所の方が多いと思いますが(私の見方ですが)、この協業でメインは利用者スタッフ、職員はこうするともっと早いかも、やりやすいかもとか、サブ的な立ち位置で従事できるので、その分、現状の課題は~、次のステップは~、など、本来の仕事にベクトルを合わせやすいです。
ここでお話しているのは、弊社のA型事業所としての運営方針です。指導員は、作業することが役割ではなく、利用者スタッフがどんどんステップアップしていけるように訓練を提供するというのが弊社の方針で、そうじゃない事業所を否定している話ではありません。誰のための、何のための自立支援ですか?という考え方の話です。

4)離職される方はどれくらいいらっしゃるんでしょう?


実際、離職率も低いです。本格的に始動して(厨房受託)3年目、この間にリタイアした就労困難者は1名です。この1名は退職ではなく、弊社の食堂・弁当部門で今は活躍してくれています。そういう、事業所内で職種や部門を選択できるというのもA型ではめずらしい方かもしれません。
世の中に多い(私の見方ですが)、障がい者は洗い場だけとか、掃除だけとか多いんですよね。
でも、この介護施設の厨房受託では、障がい者も健常者もガチで「メインオペレーター」なので、責任感や主体性が育ちやすいです。何よりそれが「自信」になりますから。

5)A型就労支援事業所経営者として

①率直な感想は

食事提供だけじゃなくて、介護施設そのものに、A型事業で担えそうな仕事がたくさんあるなと単純に思いました。私はいつも仕事を探しているので。(笑)
だけど、介護施設自体も人材不足と言われ続けていて、もっと協業をして景たらいいのに、と常に思います。

②飲食業(食堂・お弁当)を展開している㈱そらまめらんどさんですが、真空調理済み食材を使うことに抵抗はありませんでしたか?

全くないです。むしろ、こんな画期的な食材(再加熱というシステム)があるのか、これなら障がい者でも簡単に作業できるじゃん!という喜びの方が大きかったですね。新しい仕事見つけた!って感じです。(笑)

そして、弊社は自社内の生産活動(仕事)として、島根県立大学松江キャンパスの学食と、NHK松江放送局の社員食堂を運営していますが、これらも「給食事業」なわけで、現在は調理をして提供する形ですが、今後はモルツウェルの調理済み真空食材を使用した運営に切り替えていきたいと考えています。
と言うのは、給食事業は「毎日食べる」ので、「飽きさせない」ことがとても大事で、日替わりの豊富さと、安定の定番メニューの組み合わせが肝です。定番メニューは所謂「ジャンク」です。ラーメン・カレー・カツ丼的な(笑)
ただ、日替わりは栄養計算や献立設計にとても労力が必要です。そこをモルツウェルさんなら解決できる。

高齢者施設、障がい者施設、学校給食、社員食堂など、給食事業×A型事業って世の中の様々な人たちの食事を解決すると思うんですよね。実際に、NHK松江放送局も島根県立大学も、担う業者がなかなかいなくて弊社にお話を頂いたので。仕組みがあれば、絶対できます。

NHK松江放送局食堂のそらまめらんどの日替わりランチ。
緑の奥には宍道湖が眺められます。

③未来の厨房×障がい者就労支援、厨房受託事業についてはスタートアップ時に苦労したことは何ですか?

特にないんですよね・・・(笑)いや、でも本当に、なんです。

もし弊社以外の事業所さんがこの厨房受託をするとしたら、利用者スタッフの欠勤や遅刻に悩まされるかもしれないですね。実際、松江市内のA型事業所さんにお願いしたアンケートにこういった回答がありました。
なぜ、そらまめらんどは可能なのか・・・それを解決するのが"そらまめそっど”です。詳しく知りたい方は、ぜひ㈱そらまめらんどが不定期で開催している、障がい者就労支援に携わられている方向けの勉強会「がちあげ勉強会」へお越しください!

過去のチラシから。こんな感じでいつも楽しく、しかし深~い内容です。
えっと、、講師の福井社長が気になって内容が入ってこない。。。(笑)
モルツウェル社員も開催時は参加をさせていただいています。



また、「障がい者(利用者)の気持ちが見えたらもっと指導がしやすいのにな・・・」という指導者さんを支援する「障がい者の気持ち見える化」アプリを、㈱ロコソルさんと開発中です。

実際の画面

もともと㈱ロコソルさんは職場の心理的安全性(臆することなく発言・行動できる状態)を高めるアプリを開発されていて、「障がい者の思いを見える化し就労意欲アップできる」アプリの開発構想の話をすると意気投合。「障がい者の気持ち見える化」に協力できるのは、ロコソルしかないですよと、寺川社長が手を挙げてくださって。現在、ロコソルさんの既存のアプリを実証中で、早速効果もあったり、A型事業向けに改善案があったり、これからが楽しみですね。

6) 厨房受託業務を就労支援事業所が行うことについて、介護施設の反応はいかかでしたか?


 実際のところ、A型事業所の仕事力・信用力って世の中的に低いかなって不安でした。
ですが、最初に受託した施設の運営会社の経営者さんが「人を生かす経営」を中心として経営をされている方で、障がい者就労支援についても理解がありました。お話をさせて頂いたら、快諾してくださって。そこでちゃんとやれてるよっていう実績を3年間積ませてもらったので、2軒目の施設さんにも快諾していただけました。いずれにせよ、長年の実績と信用があるモルツウェルさんがいてこそ、なんですが。弊社がコンコンとドアを叩いても門前払いだったと思います。私の見た目の問題か・・・(笑)

2.モルツウェルのMAPSシステムを使ってみて

7)MAPSの配膳用システムを社外第一号で利用いただいていますが、使ってみていかがですか?


<利用前の課題>
弊社が一番苦労しているのは、食事形態・食数変更への対応です。高齢者なので、食事形態が変動しやすく、(常食を召し上がっていた利用者様が今日の夕食から刻み食へ、米飯の量を150gから120gへなど)せっかく覚えていた情報がまた1から・・・なんてことはざらで。。。
提供ミスは働くスタッフの努力で起こってはいませんが、スタッフの労力は計り知れません。
また、食数変更(今日の昼食を入院の為キャンセルなど)も頻繁で、その管理がとても難しいです。現場のスタッフも盛付数の変更など大変ですし、食数は後に請求業務に関わってくる部分なので、本部の担当者も大変苦労していました。
そこでモルツウェルさんのMAPSシステムを利用させてもらったところ・・・

<利用後のメリット>
食事形態・食数管理が簡素化され、その分、盛付(見栄え)や掃除に時間を配分できるようになり、施設厨房運営としてのクオリティが上がりました。また、請求業務に関しては最後の集計が1時間かかっていたのが、ワンクリックなので15分に短縮されました。

<現在の課題>
デジタルに慣れていない世代や、IQ的な側面(理解)で操作が難しいスタッフも予測されます。
今後は、よりブラッシュアップして頂けるように、弊社も引き続き情報提供をしていきたいと思います。また、A型事業所ならではの課題あるあるなどの掘り起こしもできれば、施設厨房に限らずMAPSの活用場面は無限に拡がると思います。


3.みんなが幸せになれる厨房とは

8)就労支援事業所として理想の厨房はどんな厨房ですか?

就労困難者がメインオペレーターとして、主体性・責任感・緊張感を持ち活躍することができる厨房です。
仕事を通して、作業面だけではなく報告・連絡・相談などの社会性を向上させ、なりたい自分に自分の力でなる。
そして、社会的に絶対必要な仕事ですから、社会に貢献しているという自信を咲き誇らせてほしいです。

今こそ、全国で問題となっている介護施設の人手不足を、全国の課題を解決したい就労支援事業所が解決できる時だと思います。
実績を積み、こんなふうに良くなったよという発信と、それやりたいなと思う仲間をどんどん増やしていきたいと思っています。

9)世の中に発信したいコトを自由に記載してください。

障がい者を取り巻く問題は、私が生まれるずっとずっと前から長く暗いトンネルの中にいました。
それが色々な人の努力で、 ここまで認知されるようになり、社会に開けたものになってきました。
昔、障がい者は法律の中で、働く場所を自分で選ぶことができませんでした。措置制度と呼ばれるものです。
それが嫌なら「家で過ごす」みたいな、自由度のない人の権利度返しの2択です。

そこで誕生したのが、当事者家族が主体となって始めた「作業所」なんです。その活動が全国的に拡がり、ついには自治体が協力をするようになり、国がひとつの制度として確立をした。簡単にまとめて表現しましたが、それが就労継続支援の根底にあるストーリーなんですよね。すごくないですか?自治体でも行政でもなんでもない、民間が、ひとりの人同志が、地域が、国を動かしたんですよね。
 
世の中に、働きたくても働けない人たちがたくさんいることをみなさんは知っていますか。
その人たちに足りないものは、まずは環境です。仕事というツールを通して社会貢献できるフィールドが必要なんです。そこが揃って初めて、次は「本人の努力」です。そして、絶対できるようになるよ!とそれを信じ合える仲間が必要です。これって、昔はもっと身近にあったと思うんですよね。私も、子供のころ母が夜仕事の集まりでいないときとか、隣のおじちゃんがゴハン食べにおいでとか普通でした(笑)身近な困りごとは身近で解決できていたイメージです。

要は人と人との繋がりがどこかで遮断されてしまっている、それが就労困難者と言われる人たちの今の環境ではないでしょうか。その人たちは社会が嫌いで家にいる、仕事が嫌いで仕事をしない、そんなふうに誤解されがちですが、真実は違うことが多いんです。働きたくても、誰に相談したら良いか分からない、自分にできることなんてない気がする、また失敗するの怖いな・・・そんなふうに踏み出すきっかけをなくしてしまっている。

最近、この「未来の厨房×障がい者就労支援」の協業について取材をいくつも受けるようになり、多方面からコメント頂く機会が増えて、すごいね~最新を行ってるね~なんて言われたりしますが、根にあるものは最新とかでは全くなくて、作ろうとしている仕組みが最新なだけで、根は「人」なんです。自社がもつ能力、他社がもつ能力をがっちゃんこして、ひとりでも社会の中で取り残される人をなくしたいよね、ただそれだけで、昔はもっとあたりまえに身近にあったと思いませんか?昔、作業所が世の中に風穴を開けたように、この協業が最新の仕組と人情を掛け合わせて、世の中に風穴を開け、力強く肌感触の良い、気持ち良い風を通せるように努力を続けます!


10)インタービューを終えて


(私)福井社長、たくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
私も「がちあげ勉強会」に参加をさせていただいたり、「未来の厨房×障がい者就労支援」の協業を進めていく中でたくさんの気づきや経験をさせていただいています。
ほんと、日本中に仲間をどんどん増やしていきたいですね!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?