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【読書】鎌倉幕府初期の頃がよくわかる~『鎌倉残影 歴史小説アンソロジー』(朝井まかて他)~

鎌倉幕府初期の時代を題材とした、歴史小説のアンソロジーです。鎌倉が舞台のものと、奈良・京都が舞台のものがあります。

↑kindle版


・「恋ぞ荒ぶる」(朝井まかて)

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも主人公だった北条義時が主人公です。政子と頼朝の出会いに始まり、その後の義時の半生が描かれます。展開が早いので、一歩間違うとダイジェストのような感じですが、嫌な感じはせず、読み易いです。大河の俳優さんたちを思い浮かべつつ、楽しく読みすすめることができました。


父君はすでに殺され、佐殿も処刑されるのは当然のこと。だが助命嘆願があった。清盛入道の継母である池禅尼だ。これには佐殿の母方の尽力があったらしい。生母は院の近臣を輩出する名家、熱田大宮司家の出で、後白河院や上西門院からの働きかけもあって池禅尼は動いた。佐殿は処刑を免れた。

p.15

頼朝が助命されたいきさつです。フィクションとはいえ、ありえるなぁと思いました。


伊豆山権現は武力を有する霊場で、父も生半可の覚悟では手が出せない。

p.19

武力を有するとは知りませんでした。


江間の館に仮住まいをしているので毎日、舟で海を往来している。

p.26

伊豆と鎌倉の間を、毎日行き来? 海上を行くのだと、それぐらいの感覚で往来できるのでしょうか。


亀ノ前が住む家を襲ってぶち壊させたのだ。その仕儀は「うわなり打ち」と呼ばれるもので、前妻が後妻(うわなり)の家を襲って家の中を滅茶苦茶に壊すという旧い慣いだ。いかにも荒っぽいが相手を傷つけるわけではなく、家と調度に当たって溜飲を下げる、いわば憂さ晴らしだ。

p.31

亀ノ前事件の説明ですが、何かすごいです。


若き政子の形容に使われていた「大どか」という表現は、初耳です。『新明解国語辞典 第三版』によれば、「わずらわしい事・細かい事に関心を払わず、のんびりしている様子」だそうです。かくありたいものです。


神拝は夜陰で行なうものであるから儀式は日が沈んだ酉の刻に始まり、退出したのは戌の刻だ。

p.50

そういうものなのですか。


・「人も愛し」(諸田玲子)

後鳥羽天皇と頼朝の長女大姫が実は出会っていた、という設定のお話です。フィクションとはいえ、そういうこともあったかも、と思わせられる、優れた歴史小説です。


水塔婆というのも、初めて知りました。普通の塔婆(板塔婆)より小さくて薄く、川に流して供養するものだそうです。


・「さくり姫」(澤田瞳子)

頼朝の妹の坊門姫(作品中では、有子)のことも、頼家や実朝の異母兄弟に当たる貞暁(作品中では亀鶴丸)のことも、この作品を読んで初めて知りました。頼朝一家を取り上げた歴史小説は、結構読んできたと思っていたのですが、まだまだ知らないことはあるものです。


ちなみに「さくり」は、しゃっくりのこと。頼朝の妹が、緊張したりすると、しゃっくりが出るという設定なのです。


ネタバレになるので書きませんが、政子がなぜ、それこそ上記の亀ノ前事件に象徴されるように、頼朝の妾たちの存在を許さなかったのか、その真意が良いです。頼朝のアホ、と言いたくなります。


・「誰が悪」(武川佑)


和田合戦を題材にした作品です。

「いままで言わなかったがお前だけが頼りだって、みんなに言ってやがるのさ、頼朝という御仁は。何枚舌があるのかわかりゃしねえ」

p.199

「鎌倉殿の13人」のイメージですが、いかにもそんな感じです。


この作品、途中までは「鎌倉殿の13人」同様、「全部大泉(頼朝)のせい」というスタンスで進むのですが、最後の最後で「誰が悪」かがひっくり返ります。でも結局、「彼ら」が悪になったのは、頼朝のせいな気も……。


・「女人入眼」(葉室麟)

「入眼」とは、叙位や除目の際に官位だけを記した文書に氏名を書き入れて、総仕上げをすることだ。「女人入眼ノ」日本国」とは、このころ兼子と政子が東西の二大権力者であったということに他ならない。

p.212

兼子は後鳥羽上皇の<申し次ぎ>、政子は言わずと知れた北条政子です。


三寅は頼朝の妹の血を引いており

p.230

これを読んで「うん?」と思い調べたら、三寅は両親がそれぞれ、坊門姫の孫でした。ややこしいので、ウィキペディアさんの坊門姫の記事中の家系図をご覧ください。


この作品も「恋ぞ荒ぶる」同様、ある意味ダイジェストっぽい作品なのですが、もう一度鎌倉幕府初期の頃を振り返る感じで、巻の最後の飾る作品として、悪くありませんでした。


見出し画像は、1本目の「恋ぞ荒ぶる」にちなみ、伊豆山権現、今の伊豆山神社の「頼朝・政子腰掛け石」です。


↑単行本



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