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中之条ビエンナーレ2023行ってきた・その4

キャリアを重ねても決して安定安心に胡座をかくことなく、常にまるで若手作家のようなフレッシュさで挑戦を続ける人生の先輩方を、私は尊敬している。

その代表がタイの現代美術家タイウィジット・プンガセンソンブーンなのだが、彼本人も作品も、常に新しい輝きに満ちている。私も何十年経ってもあんな風に、凝り固まることのない、淀みない美しい川のように、瑞々しく生きられたならと思う。

実は中之条ビエンナーレに出展し続けているアーティストの中にも、そういう方がいる。
飯沢康輔さん。中之条に移住されて12年になるというアーティストだ。

私が初めて飯沢さんの作品を知ったのは、中之条ビエンナーレ国際交流プログラム2018の図録を読んだ時だった。
その時の飯沢さんの作品は中之条の人たちの顔を大きな紙に鉛筆で描いた作品で、写実的であるように見えながらもどこかデフォルメのような抽象的なような要素も奥底に感じられる不思議な作品群だった。これを実際に生で観たいなと思っていたところ、中之条ビエンナーレ2021(前回)にもまた出展されることを知り、作品を観に行くのを心待ちにしていたのだ。

驚いたことに中之条ビエンナーレ2021の飯沢さんの作品は、紙に鉛筆で描いていたテイストとは全く異なる、写実とは正反対の作品群だった。予想から大きく離れたその表象は、ワクワク感をさらに掻き立てるもので、本当に素晴らしかった。

自然から出てくる強いエネルギーと飯沢さんの描く色と形の勢いが重なって一つになって、会場内に大きな渦を巻き起こしていたように感じだ。

誰もが知っている大学を出て、これだけのキャリアを積み重ねてなお、この勢いでアウトプットしてくるアーティストは、本当にただものではない。
かっこいい。とにかく、かっこいいのである。

そして今年、中之条ビエンナーレ2023。飯沢さんは六合エリアの二つの建物で作品を展示した。一つはある方が9年かけて作られたという石の小屋。一つは神社(御堂)。二つの作品は歩いてすぐの距離にある。


中之条ビエンナーレ2023飯沢康輔

空間に対してぎっちりと描かれた作品は、強い線が密集しているにも関わらず、重苦しさを全く感じさせない。むしろ非常に軽やかでもあるそれらの絵を見ていて、自由であること、阿らないこと、そして正直であることがいかに重要なのかを改めて考えさせられた。


中之条ビエンナーレ2023飯沢康輔

その心の向き合い方を、私はとても羨ましく思い、憧れる。
そして小屋と神社を出たあと、坂道を降りながら、自問した。
私は自分に対して正直に立てているだろうか、何かに忖度し過ぎてはいないだろうか、自由である勇気を持ち続けられるのだろうかと。
私にはまだまだ不足なことが多すぎるけれど、尊敬する先輩たちの作品に勇気をもらいながら、進みたい。

今回も飯沢さんの素晴らしい作品を素晴らしい形で観ることができて、本当に良かった。

アーティスト:飯沢康輔 Kosuke Iizawa
展示場所:六合エリア42番向城の観音堂・43番石の小屋


中之条ビエンナーレ2023飯沢康輔

43番の石の小屋は靴を脱いでお宅にお邪魔することができる。座布団もあって、2階もある。ほんの少しの時間だったが、中に座って絵がある上を仰ぎ見た。小屋そのものも、飯沢さんの絵も、一階から上に突き抜けるようにして作られている暖炉も、ハシゴの階段も、窓も、入り口の雰囲気も外からみた壁や屋根も、とにかく全てが楽しさで溢れている。きっとこの作品に関与している人みんなが、全力で楽しいと思いながらここに存在していたんだなと思えるのだ。

ビエンナーレの作品巡りはとにかく会場が広いし作品数も多いしで、忙しない。それに日によっては混雑していてなかなか一つの作品をゆっくりは見られないかもしれない。
けれどぜひチャンスがあれば、少しの間、ここに座ってじっくり眺めて欲しい。


中之条ビエンナーレ2023飯沢康輔

42番の向城の観音堂は聖母マリアを思い出させるような柔らかな作品だ。奥から差し込む光が作品を通過してくる。きっと天候や時間帯によって違った表情を見せてくれるのだろう。強いけれど、嵐のような風を巻き起こしてくる感じがする前回の作品とは全く違う、包容力に溢れた優しい強さがある作品だった。


中之条ビエンナーレ2023飯沢康輔

いいなあ。本当にいいなあと、観終わってからもジワジワと感じるものがあった。良い作品に出会うと、私はこうやって帰り道、帰った後に反芻する癖があるようで、それはいつまでも素敵な何かを心の中に残してくれる。
これだからアートを観に行くのはやめられない。

ちなみに飯沢さんと作品については私の文章などよりもご本人のブログやウェブサイトにある写真と文の方が格段に良い(当たり前です)ので、ぜひそちらもご覧いただきたい。(中之条ビエンナーレの公式ウェブサイトのアーティスト紹介のところからリンクで飛べます)

私は亀田屋アトリエには実はまだ行ったことがなく、いつかオープンアトリエのタイミングに絶対に行きたいと狙っている。なかなかタイミングが合わず。今年こそは行けたらいいな。


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