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麻利央書店

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高島麻利央による、短編小説~無料版~
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2018年3月の記事一覧

専用車両は居場所がない。③両目

専用車両は居場所がない。③両目

 プシューーーー。電車のドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。

 季節は夏。車内は冷房が効いていて、僕は大きく息を吸い込んだ。すると、デパートの化粧品売り場のようなかぐわしい匂いが鼻孔に広がり、気持ちよくなっていた。しかしすぐに居心地の悪さを感じて周りを見ると、あちらこちらから僕へ向けての冷たい視線が刺さってくる。ここは、女性専用車両だったのだ。「急いで乗ったんです、だからここしか乗れなくて…」と言

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専用車両は居場所がない。②両目

専用車両は居場所がない。②両目

 僕はいまだにどの車両に乗っていいのか分からない。

 僕と同じ年に生まれた人間は「アイデンティティ無保持世代」と言われている。アイデンティティとは「自分を他の誰でもない自分であるという意識」という意味で「自己認識」などとも言い換えられるが、それがない。つまり無個性。人と同じであることを好み、与えられた環境の中で背伸びせず、淡々と人生をこなす。そういう世代だ。
 世間は何故か「○○型」とか「○○世

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専用車両は居場所がない。①両目

専用車両は居場所がない。①両目

 20××年、時代は流れ、流行のファッションはもう何周目に突入しただろう。かつてのパリコレで披露されていたような「これは誰が着るんだ」というような洋服を当たり前に身にまとっている。およそ60年前に一世を風靡した映画、マイフェアレディで上流階級が着ていたドレスを私服のように。
 家事は9割、ロボットが行っている。医療も、美容院も、人間の形をした人工知能ロボットがミクロの単位で正確に対応してくれる。下

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0.1秒の世界がココにもあった。

0.1秒の世界がココにもあった。

私は脚本を書く人間である。そして演じる人間でもある。

 某シナリオコンクールで優秀賞(大賞の次)を頂き、そこから少しだけ、人生が変わったような気がする。
 正直に言うと、変わったのは、私自身の気の持ちようだ。一つの賞を取ったとて、人生が激変するわけではない。しかも私は2位なのだ。平昌オリンピックなら、宇野昌磨選手であり、平野歩夢選手である。いや、彼らの足元にも及ばない。名前を出して申し訳ないくら

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