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麻利央書店

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高島麻利央による、短編小説~無料版~
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#居場所

居場所

居場所

人はずっと探している。
自分の居場所を。

自分が

居たい場所/居るべき場所/いま居る場所

の間を行ったり来たりして
結局どこか本当の居場所が分からなくなって。

ここに居たいと思ってやってきたのに
ここには居るべきじゃないのかと思って飛び出して
いま居る場所にようやく辿り着いたのに
やっぱり居たくないって感じるようになって
あぁここがわたしの居るべき場所だったと気付いて
いま居る場所に戻って

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専用車両は居場所がない。③両目

専用車両は居場所がない。③両目

 プシューーーー。電車のドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。

 季節は夏。車内は冷房が効いていて、僕は大きく息を吸い込んだ。すると、デパートの化粧品売り場のようなかぐわしい匂いが鼻孔に広がり、気持ちよくなっていた。しかしすぐに居心地の悪さを感じて周りを見ると、あちらこちらから僕へ向けての冷たい視線が刺さってくる。ここは、女性専用車両だったのだ。「急いで乗ったんです、だからここしか乗れなくて…」と言

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専用車両は居場所がない。②両目

専用車両は居場所がない。②両目

 僕はいまだにどの車両に乗っていいのか分からない。

 僕と同じ年に生まれた人間は「アイデンティティ無保持世代」と言われている。アイデンティティとは「自分を他の誰でもない自分であるという意識」という意味で「自己認識」などとも言い換えられるが、それがない。つまり無個性。人と同じであることを好み、与えられた環境の中で背伸びせず、淡々と人生をこなす。そういう世代だ。
 世間は何故か「○○型」とか「○○世

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専用車両は居場所がない。①両目

専用車両は居場所がない。①両目

 20××年、時代は流れ、流行のファッションはもう何周目に突入しただろう。かつてのパリコレで披露されていたような「これは誰が着るんだ」というような洋服を当たり前に身にまとっている。およそ60年前に一世を風靡した映画、マイフェアレディで上流階級が着ていたドレスを私服のように。
 家事は9割、ロボットが行っている。医療も、美容院も、人間の形をした人工知能ロボットがミクロの単位で正確に対応してくれる。下

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