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登山は後ろ向きに歩くと楽。

 先日、ちびまる子ちゃんでおなじみのさくらももこさんが乳がんで逝去された。私もまる子世代だから、小学生の時はテレビアニメを欠かさず見ていた。中学生になると部活動で日曜日も練習があったりして見られなくなったような気がする。もちろん登場人物や話の筋は覚えているが、この回が好き!とか印象的!とか言うのは正直パッと思い出せない。

 しかし先日、まださくらももこさんの訃報を聞く前、友人と高尾山にトレッキングに行っていて、私はちびまる子ちゃんのある話を思い出した。

 山登りには必ず「下り」がある。高尾山の下りで通った道は、信じられないくらい急で、そして長かった(色んなコースがある)。コンクリートで舗装されているが、少し前まで雨が降っていて滑りやすく、まともに下りていたら、足を痛めてしまうかもしれないとさえ思った。それに、実は登りよりも下りの方がしんどい。モチベーションも低いのである。その時、私はちびまる子ちゃんのあるエピソードを思い出し、後ろ向きで山を下り始めた。

※写真は友人、後ろ向きに下り中

 
 学校の遠足で、まる子たちは山に登ることになった。しんどいしんどいとクラスメイトが音を上げる中、後ろ向きで登る男の子二人が現れる。
「後ろ向きに歩いたら楽だぜ!」
 次第にクラスメイト達はそれに倣って後ろ向きで歩き出す。そして憑りつかれたように「後ろ歩きが楽」だと思い込む。が、10分もすると、後ろ向きより普通に歩いた方が楽だということに気付き、みんな前を向いて歩き出す、というストーリー。話自体は「後ろ歩き」がメインではなく、持っていくお菓子やお弁当交換などの遠足あるある、花輪君とまる子のやりとりなどがメインとなっている。

 動画を見てみたら、後ろ歩きは下りではなく、登りの時のエピソードであった。キートン山田さんのツッコミが秀逸で「(後ろ歩きしても)楽なわけないと思うが」とバッサリ。しかし記憶というのは本当に当てにならない。間違ったストーリーを思い出し、それに倣って私と友人は地道に後ろ歩きをしていただけである。だが言わせてほしい。本当に楽なのだ。下りだったら本当に楽なのだ。特に急な道だったら、こっちのほうが正解だと思えるほどに、楽に、安全に下れると思った。少しの間は。そう、アニメと同じく、しばらくしたら、やっぱり普通に歩いた方がいいかも、となった。進路も見えないし、転んで頭を打ったら一巻の終わりだと気付いたからだ。
 記憶違いはあったが、登山からほんのりちびまる子ちゃんを思い出した矢先の訃報だったので、かなり驚いた。しかもまだ若かったのに。。。

 さくらももこさんの訃報によって、色んなエピソードがSNSに流れている。エッセイやちびまる子ちゃん以外の漫画を読んだことはないが、SNSで見る情報だけでも、その人柄や考え方が見えてくる。国民的人気アニメを作り上げた偉大な作家は、小さな頃からの夢を叶え、あらゆる角度から自分を作品の投影した。そして、飛びぬけてスーパーな人(スーパーな人なんだけども)というよりは私たちと同じ目線を持ち、フラットに世の中を捉え、人々の共感を得たり、人々に元気を与えたりすることに一番の喜びを感じる人であるような気がした。

 そして、たくさんの人が発信している一コマ。

「自分のままでいいんだよ」

「楽に生きてもいいんだよ」

 そんな風に言ってくれてるようで。今の社会は「自分磨き」とか「自己成長」とか「自分への投資」とか当たり前で、それ(努力)をしていなきゃダメ、くらいの風潮あるけど、そんなことないよって、言ってくれてる気がする。もちろん、さくらももこさんは(きっと)ものすごい努力の人で、だからこそ、素敵な作品をたくさん生み出してきたんだろうけど、そういう人がこういうメッセージを発してくれているのがやっぱりステキだと思う。

 夏休みあけの今の時期は、子どもたちの自殺が一番多いという。今、苦しんでいたり、悩んでいたりする子どもたちに読んでほしい。

 もちろん優しい言葉ばかりではないのが、さくらももこさんである。エッセイでは尖った表現(でも笑える)も多いようで(※SNS情報)、読んでみようと思っている。ちびまる子ちゃんの中でも、まる子が楽ばかりしていたら悪いことが起こったり、苦しんだりする描写もある。逆も然り。

 亡くなってから、その存在の大きさや素晴らしさに改めて気づくことが多い。さくらももこさんが残した作品は消えないけど、生前からもっと手に触れていれば良かったなと思ってしまう。もう遅いけれど。だけど、触れられるものがあるのだから有難い。触れて、感じていこう。

 あぁ、そうか。
 あの登山の話は「後ろ向きより、前向きに歩いた方が楽だよ」って、さくらももこさんはそう言いたかったのかもしれない(おそらく誤認識)。

 ご冥福をお祈りいたします。

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