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ショート・ショート集

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約400〜2000字ぐらいの短編たち
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未来図書館*ショートストーリー

23XX年。300年ほど前に紙の本をすべてデジタル化し、またすべてを音声として保存する図書バブルがあったという。紙をデジタル化する業界が経済を動かした。 紙を貴重品とし、国は図書税という税金を徴収し、すべての情報をダウンロードできるようにした。 人々は本を紙で読みたければ、デジタルの10倍の値段で買うか、複雑な手続きをして図書館から借りるか、自分でダウンロードしたものをプリントアウトしなければならない。 本は他国の言語でも、音声も文字も自国の言葉で認識できた。 AIによって

『命乞いする蜘蛛』#毎週ショートショートnote

忘れられた廃屋で生きるひきこもりの蜘蛛がいた。 危険のない、穏やかな暮らし。ひっそり暮らすことが蜘蛛にとって何よりの幸せだった。大きな獲物はいらないが大きな巣を作っては、その美しさにドヤ顔で、作品と呼べる巣の上をあちこち動き回っていた。 ある時、隣に人間が住み始めた。人は食物を食う。それに群がるように獲物たちが出てきて、蜘蛛の巣にひっかかるようになった。蜘蛛は焦った。このままだとこの穏やかな生活が失われてしまう。繁栄はいらない。子孫もいらない。蜘蛛は初めての拒絶、孤独、そし

閏年パーティ#シロクマ文芸部

閏年の2月29日、十二支が集まるパーティが開催される。 4年に一度、集まる面々の中で一際ドヤ顔で鎮座している龍(辰)が今年の主役だ。十二支の中で唯一実在しないと言われる龍は、ふわふわと空中を漂いながら雲を食べている。変わってるねと言われることは褒め言葉だと思っている。 それを呆れ顔で見ている鳥(酉)は、冷静に見えて内面はメラメラと主役の座をねらっていた。だが閏年は4年に一度。次の主役の猿(申)はチヤホヤされるのが大好きで、ガハハと笑いながら、羊(未)に褒め称えられていた。羊

『祝福』#毎週ショートショートnote

小さい頃、12月の誕生日とクリスマスを一緒にお祝いされて悲しかった。 大人になった今、世界中が私のことをお祝いしてくれているみたいで嬉しくて、今年も渾身の料理を作ったの。 ミモザサラダにミネストローネ、ローストビーフとエビのグラタン。デザートはガトーショコラ。ワインも買ってバケットとクリームチーズ、はちみつとバターもあるわ。 冬の潔い寒さの夜に足りないのは、あなただけ。 「大丈夫。私は世界中にお祝いされてるから」 と笑ったけど、今こうしてテーブルの上を見てると、おいしいデ

『ありがとうをつかまえる』#シロクマ文芸部

「ありがとう」ってコトバが出てこない時間がずいぶんあったの。 人から何かしてもらっても「すみません」 ほめられても「そんなことない」 そうやって「ありがとう」から逃げると、ありがとうが遠ざかっていくの。 ありがとうがいないと、グレーな雲の中にいるみたい。 見えてるようでなにも見えてなかった。 すべてがくすんでた。 見えること、聞こえること、手触りや味、じぶんが話してることや香り、そして感じていることに意識を向けて「ありがとう」って言ってみることにしたの。 最初はむずかしく

『冬の色』#シロクマ文芸部

冬の色彩たちがおしゃべりを始め、誰が今年の色になるかを決めようとしていた。 鈍色は凛とした冬の厳しさを主張し 白梅鼠は雪の輝きをやわらかく見せた。 淡藤色は淡い朝の空にいた。 藍墨茶は怒ったように潔く 浅藍鼠はムーンストーンブルーな水を凍らせた。 藍白はペールミスト。淡雪の甘さ。 冬の雪は大地を分け 森の黒さを際立たせ おのおのが輝き始める。 おしゃべりはやまないまま 小春日和がやってきて ぬくもりをおいていった。 *** 色の名前が好き。 ほんとうにおしゃべりしてそう

『寂寥』#小牧幸助文学賞

自分探しの旅に出た僕を見失う。 今どこだ? 20文字小説は単語をふせんに書いて、並べたり組み替えてみたりして、遊んでつくりました。 楽しかった。 小牧幸助さま、1ヶ月ありがとうございました。 #小牧幸助文学賞

『選択』#小牧幸助文学賞

できないじゃなく、やらないを選んで正解。

『無情』#小牧幸助文学賞

無限の宇宙で 賞味期限の切れた食事に絶望。

『覚悟』#小牧幸助文学賞

宇宙法則で決まってたと 笑う君に腹くくる。

『帰郷』#小牧幸助文学賞

猫はお日さまと笑い 月は海とおうちに帰る。

『真理』#小牧幸助文学賞

心優しい人は 恐怖と不安と孤独を抱えてる。

『晩餐』#小牧幸助文学賞

白菜と豆腐買ってネギ忘れた。 鍋食べたい! 短歌より短い文字数のものがたり。 難しい。(これも20文字)

『珈琲と一緒にどうぞ』#シロクマ文芸部

「珈琲と……サンドイッチ……いやフライドチキン……やっぱりおにぎりだろ!」 「おにぎり??」 リカコがパーティスペースを借り切って、持ち込み自由のハロウィンパーティをするという。リョウスケは好きな珈琲を道具も持ち込んで煎れる予定のようだ。 「新米でおにぎり作ったらうまいじゃん」 「そりゃそうだろうけど……。珈琲とおにぎりって、ミスマッチじゃない?」 私はもっともすぎることを口にしてしまう、面白みのない人間だ。仮装は手っ取り早く、黒いワンピースに黒の帽子でメイクはグレーにして、