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『社会学の名著30』を読む

本日は、長期間に渡って積ん読状態だった竹内洋『社会学の名著30』(ちくま新書2008)の読書感想文です。

解説書抜きで古典や専門書攻略は無理

私には、初心者向けの解説書抜きで、定評のある古典や専門書を読み解いて理解することは無理、という諦めがあります。

ましてや、基礎知識の殆どない分野に手を出そうとする場合は、必ず定評のある平易な解説書を探します。そういう私の期待に応えてくれるコストパフォーマンスがいい解説書が新書で、各社から色々なものが出ています。ちくま新書にも、本書以外に山内昌之『歴史学の名著30』(2007)佐々木毅『政治学の名著30』(2007)なんかがあります。

著者の竹内洋氏も、「はじめにー解説書のすすめ」で、古典原理主義や原書主義には、反対の立場を取ります。学習者がいきなり挫折してしまう危険性があること、その経験がトラウマになって古典や原書嫌いになってしまう代償があること、を理由に、解説書を使うことの効用を説いています。本書は、安心して手に取ることができました。

入門書・解説書の位置付けではあるものの…

私は、学問としての社会学については殆ど知識がありません。遥か昔に大学の教養課程で社会学の単位は取得したものの(成績は確か「良」)、専門課程に上がってから法社会学は専攻しなかったので、バックグラウンドがありません。

なので、本書も入門書・解説書とはいえ、内容をよく理解できないものも多くありました。本書に選抜され、解説が付されている30冊は、いずれも名著であり、私も名前や内容を聞いたことのある書籍が幾つか(5.マルクス・エンゲルス『共産党宣言』、6.ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、10.オルテガ『大衆の反逆』など)ありました。とはいえ、ある程度の基礎知識がないと、竹内氏の解説内容すら理解できないことも少なくなく、さりげなく盛り込まれている『●●理論』等を詳しい説明抜きで引用されるとお手上げだったことを白状しておきます。

マクルーハン『メディア論』より

どれも興味深い論考だったものの、この中から一つだけ取り上げるなら、12.マクルーハン『メディア論』です。

”メディアはメッセージである”という有名な一節で知られるマクルーハンを日本に広めたのは、評論家の竹村健一氏(1930/4/7-2019/7/8)だったという話は知りませんでした。日本を代表する評論家として、大宅壮一氏(1900/9/3-1970/11/22)、藤原弘達氏(1921/7/31-1999/3/3)そして竹村氏を挙げ、大宅氏=活字的、藤原氏=活字的+ラジオ的、竹村氏=ラジオ的+テレビ的と評しているのが面白いです。

印刷技術の発明によって、感覚革命と社会革命が起こり、聴覚中心の時代から、視覚中心の時代が到来します。印刷媒体の持つ、均質性・画一性・線形性・反復可能性が、人間の経験の様式の変化(=個人で獲得可能になった)を生み出したことで、郷党社会・部族社会が解体され、ばらばらな個人による国家主義が出現した、という見立てには、納得感がありました。

メッセージは、内容以上にどんなメディアによって表示され、伝達されるかが重要だ…… というのが、マクルーハンの”メディアはメッセージ”という本質だという説明はすっきりしています。そして、マクルーハンの”熱いメディア”と”冷たいメディア”についての解説です。

①高精細/低精細:形や輪郭が明確か否か
②高参与性/低参与性:情報の受け手が補う余地が大きいか小さいか
③単一感覚/全身感覚:作用するのが、感覚器官の一つか、全感覚器官か
P103の内容を抜粋

の三つの区別を説明し、高精細+低参与+単一感覚を特徴とするのを”熱い”メディア、低精細+高参与+全身感覚を特徴とするのを”冷たい”メディアと呼ぶ、というものです。ここは、かなりわかりやすかったです。

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