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相反する2人の女性の共通点を探し当てた『あのこは貴族』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:18/33
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が好きなら楽しめるかも】

ヒューマンドラマ
慶應義塾大学
"育ち"の違い
パイパン

【あらすじ】

東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子(門脇麦)。20代後半になり、結婚を考えていた恋人と別れ、初めて人生の岐路に立たされる。

あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎(高良健吾)と出会う。幸一郎との結婚が決まり、風満帆に思えたのだが…。

一方、東京で働く美紀(水原希子)は富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見い出せずにいた。

しかし、幸一郎と大学の同期生だったことで、同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。

2人の人生が交錯したとき、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく―。

【感想】

良家のお嬢様と地方出身の女の子の対比を描いた話。いや、ありますよね、同じ世界に生きているはずなのに、違う階層(セカイ)の人って。私立の大学なんかが一番そういう人に会いやすいかもしれませんね。社会に出ると業界やら職種やらで分断されますけど、大学ってとりあえず小さな街みたいなもので、その人の好みや出自関係なく、いっしょくたにされますから(まあ、上位校になればなるほど、多少なりとも似たような人は多くなるかもしれませんが)。

僕は、原作は読んでいないんですけど、執筆にあたって取材に2年も費やしたというだけあって、いろいろリアルでした。主演の2人の人間性や彼女らを取り巻く環境が。また、映画やドラマって架空の会社や学校を使うことが多いんですが、これはモロに実在する大学を使ってるんですよ。慶應義塾大学っていう。なので、慶應関係者はいろいろ面白いと思いますよ。「ぎんたま」、「ひようら」、「内部生」、「外部生」ってワードも出て来るんで(笑)

で、本題なんですけど、その相反する2人の女性の何を描いているのかって言うと、最終的には"共通点"なんですよ。一見、両者の格差を描いているように見えるじゃないですか。僕もそういう話かと思ってました。でも、そうじゃないんです。2人には意外と共通点があったんです、、、!

ま、それは後述するんですが、そうはいっても当然2人の間には大きな差がありますからね?

まず、華子。もうね、超絶箱入り娘です。ふわふわしていて世間知らずな印象を受けるんですが、気づけばいいカフェにいて、必ずダージリンティーを注文しますし、トイレのことをお化粧室って言うんですよ。ああ、こういうところだなと、育ちが出るの。こういう細かいところに表れるんですよね。

ただ、恋人の条件などは「普通でいいんだよな~」とはっきりしない態度なんですよ。明確なビジョンがないため、いろんな人を紹介してもらうにも関わらず、違和感を感じて成就せず。まあ、男の方に問題ありな人が多いので、これは彼女のせいだけじゃないかもしれないですけど(笑)

でも、20代後半ともなれば、相手にはっきりしたイメージはなくとも、自分が育った環境から無意識のうちに"恋人たる人物像"ってのは絶対あると思うんですよね。きっとみんなもそうだと思いますよ。気づかないうちに足切りライン絶対作ってますもん。

それに合致したのが幸一郎なんですね。幼稚舎から慶應で~弁護士で~実家も良家で~って。しかもイケメンで~スタイルよくて~って。なんか、上流階級になるとウマが合うかどうかよりも、育ちが合うかどうかが大事なのかなって思っちゃいますよね。ちなみに華子は慶應じゃないんですが、「初等科」ってセリフがあったので、まあどっかの私立だと思います。

一方、美紀は一生懸命勉強して、慶應義塾大学に合格するというがんばりやさん。いわゆる「外部生」ってやつです。でも、念願叶って慶應に入るも、家庭の事情で中退。お水のバイトで知り合ったお客さんに紹介してもらった会社で働きつつ、日々なんとか生活してますっていう感じの子です。

彼女は富山出身なんですけど、同窓会で地元に帰れば、男たちは親の家業を継いだりして、昔はあんなバカやってたやつらが今では立派な大黒柱っていうパターンです。田舎だとあるあるですかね?

この正反対な2人、シンクロするところどこもないじゃんって思うんですけど、ちゃんとあるんですよ。これは美紀が言っていたことでもあるんですけど、「外に出なきゃ親のトレース」っていうところです。田舎を出て東京に来ないと、親の家業を継いだりして、結局親とほぼ同じ人生を歩むことになるんですよね。

でもそれって、華子にも当てはまるんじゃないかと思いませんか?上流階級になると、本人の意志よりも家柄や世間体を気にするようになるから、同じような家柄とくっつくことで、また親とほぼ同じ人生が続くんじゃないかってことです。

また、印象的だったのが、華子が美紀の部屋を訪れたときに、「落ち着く」って言うんですよ。「狭い家の方が落ち着くよね」って言ったらそうじゃないと。ここにあるものが全部"美紀のもの"だから落ち着くんだと。

ここでハッとしました。お金にしろモノにしろ、華子の方が圧倒的に質も量も上回っているのは明らかじゃないですか。そういう意味でも、人生の選択肢は彼女の方が多いと思います。

でも、ここでの彼女のセリフを聞いて、華子自身が決められることって実は少ないんじゃないかなって感じました。選択肢は多いけれど、選択できる権利が少ないっていう。彼女に与えられる自由がないんですよ。だからこそ、全部自分のもので埋められている美紀の部屋に落ち着きを感じたのかもしれませんね。家柄や世間体が関わってくる上流階級ゆえのしがらみですかね。

こうやって真逆の属性の女の子がいると、どちらかがどちらかを妬むみたいな展開を想像しがちです。まさに"格差"が生んだ人生の境界とでも言うべきでしょうか。ただ、"格差"っていうとマイナスな印象を受けるんですが、この映画からはそういうマイナスな雰囲気がないんですよ。この2人にしても、確かに"格差"と呼べるほどの大きな溝はありますが、だからといって美紀が華子を妬む様子はありません。むしろ、同じ世界にいるけど、生きているのは違う階層(セカイ)ということで、単純に"区別"する意味合いが強く、そこにはマイナスやネガティブな要素はなくて、事実としてそうであるというだけな気がしました。

さらに、その2人の共通点まで探り当ててますからね。面白い視点だなと思いましたよ。他にも、女性の結婚や出産、仕事についても触れているので、興味があれば観てみるといいと思います。


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