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子供がいる親はショックを受けてしまいそう。児童相談所を題材にした今年一番心が痛んだ『189』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:115/278
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【要素】

ヒューマンドラマ
児童相談所
児童虐待

【元になった出来事や原作・過去作など】

なし

【あらすじ】

児童相談所の虐待対策班で働く新人児童福祉司の坂本大河(中山優馬)は、ある日、シングルマザーの母親に虐待され、一時保護所にいた4歳の藤沢芽衣を母親の元に帰す現場に立ち会う。

翌日、大河は芽衣が亡くなったと知らされ、ショックを受ける。上司の安川(前川泰之)から休養を取るように言われる大河だが、生前の芽衣が「家に帰りたくない!」と訴えていた姿を思い出し、苦悩した末、辞表を手に職場へ向かう。

ちょうどそのとき、父親にひどい虐待を受け、病院に搬送された6歳の増田星羅(太田結乃)の元へ向かってもらえないかと、職場から電話が入る。

病院で面会した大河に星羅は、「いまのパパはいらない……家に帰りたくない」と告白。父親の勝一(吉沢悠)は、星羅の傷は「娘が自分でやったこと」と虐待を否定。

医師から、星羅の傷は虐待によるものである可能性が高いと聞かされた大河は、星羅を一時保護所に預け、弁護士の秋庭詩音(夏菜)と共に、虐待の事実を立証し、勝一と妻の典子(灯敦生)の親権を停止にできないかと奔走するのだが……。

【感想】

児童虐待。とても重い内容の映画です。ニュースで報道されるたびに心が痛むんですが、この映画は、そんな児童虐待から子供たちを守る児童相談所の人々に焦点を当てた作品です。

<垣間見える児童相談所の現実>

児童相談所という名前は聞くけど、どういう仕事をしているのかを知る人は少なくないかもしれません。けれど、救えなかった子供たちの命に対して、「児相は何をしているんだ」という声を聞きますよね。もちろん、ヒューマンエラー的なところはあるとは思いますが、実際は難しい部分もあるということを、映画を観て思います。案件数に対して職員が少なく、ひとつのケースに付きっきりというのはなかなか現実的ではないんですよね。特に地方はその傾向が顕著で、十分な対応が行き届いていないこともありました。

さらに、被害が見えづらく、子供たちが自分で訴えることもできません。仮に、両方の親から虐待を受けていれば、より被害は隠されてしまうし、加害者が片方の親のみだとしても、例えばもう片方がDVなどで支配している場合は、助けたくても助けられないこともあるでしょう。今回もそんなケースでした。罪なき小さな命はすべて救うべきというのが理想ではあるものの、現実問題として、すべてが救いきれるわけではないのが心苦しいですね。

欧米ではいろいろシステム化されていて、児童虐待の情報共有にかかるコストが大幅に減らせているようですが、日本ではまだまだ未整備で、苦労している場面があったのも、現状を知る上で有意義だなと思います。

<吉沢悠の怪演が怖い>

吉沢悠(改名して、今は"ひさし"と読みます)と言えば、昔はけっこう好青年の役が多かったイメージです。ところが、本作では一転して、妻や子供に平気で暴力を振るうヤバい父親の役です。殴る蹴るだけでなく、熱湯をかけたり、タバコの火を押し付けたりと、傷害罪で逮捕されてもおかしくないレベルのことを、6歳の娘に日常的に行っていました。シーンとしては熱湯をかけるところはありませんでしたが、娘の体にできた大きな火傷の痕が、その惨さを物語っています。。。

それも、「社会に出たときに娘が困らないようにするための躾」と言い張り、妻には「おまえが無能だからいけない。反省文を書け」と、暴力と恐怖で家庭を支配する始末。

なぜ彼は虐待を繰り返すのでしょうか。作中で明言はされていませんでしたが、物語の終盤でそれとなくわかるシーンがあります。千葉の家に引っ越したとき、彼のいる部屋の壁に注目すると、理由が見えてくるかと。彼もまた、、、ね。。。

<主人公・坂本のひたむきな姿勢に心救われる>

全体的にシリアスで暗く重い雰囲気が漂いますが、そんな中、新人の坂本は、小さな命を救おうと必死です。職員の中には、「リソースは限られてるんだから、そこそこでいいよ」と惰性で仕事をする人もいる中、「子供の未来を考えられないやつは、この仕事をするな!」と言い張り、まるで刑事のような動きで、いなくなった増田一家を追うシーンはとても印象的でした。演じた中山優馬って、そういえばジャニーズだったなと思いつつも、いい意味でジャニーズ感ない雰囲気と演技力で、際立つ存在感を放っているのがよかったです。

そういえば、その惰性で仕事をする人の一人に中井という人物がいるんですが、演じているのは矢柴俊博。名バイプレイヤーですよね。いつも大体ちょっと嫌な役だったりしますけど(笑)彼も彼で、家庭に問題がありそうな雰囲気は出しているんですけど、結局そこは触れられないまま。ちょっともったいなかったです。

<その他>

少なくとも自分の身近にはこういう人はいないと信じたいですが、世の中には虐待に苦しむ子供は多いですよね。そういった現実を、ストーリー仕立てて観られるのはいい体験だと思うので、ぜひ観ていただきたいです。ただ、ショッキングな内容であることは確かです。吉沢悠の虐待する演技と、太田結乃の虐待される演技が本格的なので、子供がいる親御さんは、ある程度覚悟は必要かと思いますけど。


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