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映画に魅せられた少年に流れる穏やかな空気がまさにインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』だと思った『エンドロールのつづき』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:6/8
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Last Film Show
  製作年:2021年
  製作国:インド・フランス合作
   配給:松竹
 上映時間:112分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:監督の幼少期の出来事がベース

【あらすじ】

9歳のサマイ(バヴィン・ラバリ)はインドの田舎町で、学校に通いながら父のチャイ店を手伝っている。厳格な父は映画を低劣なものだと思っているが、ある日特別に家族で街に映画を観に行くことに。人で溢れ返ったギャラクシー座で、席に着くと、目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光…そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていた。

映画にすっかり魅了されたサマイは、再びギャラクシー座に忍び込むが、チケット代が払えずにつまみ出されてしまう。それを見た映写技師のファザル(バヴェーシュ・シュリマリ)がある提案をする。料理上手なサマイの母が作る弁当と引き換えに、映写室から映画を観せてくれるというのだ。

サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめるが――。

【感想】

映画が好きな身からしたら、とても感慨深い気持ちになれる映画でした。これはぜひ映画館で観ていただきたい作品ですね。

<インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』>

今映画好きであろうがなかろうが、幼い頃に映画館で映画を観て、心躍るような体験をした人は少なくないでしょう。まさにそんな日々を彷彿とさせる思い出アルバムのような作品です。その点で、この映画はインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)と言っても過言ではないと思います。

僕は今でも映画を観て心躍るような体験をすることはありますけど、幼いときに感じたそれは、今感じているものとは異なる気がします。幼い頃は自分も知らないことが多いし、技術的な知見もありません。ましてやインターネットもない時代じゃ、ネタバレすら簡単に知ることはできないじゃないですか。そんな状況で目にする映画の世界って、自分にとっては現実そのものなんですよね。

決して裕福とは言えない暮らしの中で、唯一夢見ることができる娯楽である映画。そんな映画に魅せられたサマイの姿に、幼き日の自分を重ねる人は多いんじゃないでしょうか。まあ、彼は学校サボってまで映画館に通い詰めるぐらいなので、なかなかそこまでできる人はいないでしょうけど、それほど映画が好きだったというのは共感できます。

サマイはスクリーンの中に広がる映画の世界だけでなく、映写室にも興味を持ちました。座席の後方からスクリーンに向かって伸びる一筋の光。彼の視線はそれに釘付けでしたね。今はあんまり感じませんが、確かに昔の映画館って、映写室からの光がすごく際立っていた記憶があります。あれは映写機によってフィルムをまわしていたからこそなのでしょうか。サマイはひょんなことから映写技師のおじさんファザルと知り合い、彼を手伝うようになります。ここは『ニュー・シネマ・パラダイス』そのものですね。

<時代の変化がもたらした旅立ちのきっかけ>

しかし、後半が何ともやるせないんですよ。学校をサボってまで映写室に通い詰め、大好きな映画と共に過ごしていたサマイですが、時代が変わり、映写機もデジタルへと進化します。ここで、使われなくなった映写機や数多くのフィルムがお役御免となってしまい、それらの辿る運命の哀愁さときたら。。。インドらしい感じではあるんですけど、昔『こち亀』で読んだ映写技師のエピソードを思い出しました。

その後、サマイたちがまさかすぎる行動に出るんですが、「そこまでして映画を観たいのか」という想いの強さを感じます。自分で映画を撮ることはできなくとも、映画を流すことはできると。映写機やフィルムがお役御免とならなければ、彼らはそこまでしなかったかもしれません。時代の変化による文化の終焉が、逆にサマイの心を奮い立たせたんだと思いました。長らく映画に強く反対していたサマイの父親も、息子の行動を目の当たりにし、ついには自身の考えを改めます。嫌な父という印象があったからこそ、その変化は感動的でした。「発て。そして学べ」と。これはサマイの学校の先生も同じことを言っていましたが、映画を作りたいなら、英語を学んで、この村を出るべきだということです。インドの田舎に住んでいるからこそのアドバイスですね。もし、日本で邦画を撮ろうと思ったら、そんなアドバイスされないと思います(笑)

<ちょっと美化されすぎな気も?>

全体的にすごく綺麗な話ではありますし、映画好きにはたまらない設定でもあるんですが、個人的にメチャクチャ刺さるかっていうと、実はそうでもなかったのが本音です。やっぱり、設定が似通っているから、どうしても『ニュー・シネマ・パラダイス』と比較してしまうんですよね。それと比べると、全体的にちょっと単調な展開に中盤が少し中だるみしてしまったように感じられたのと、『ニュー・シネマ・パラダイス』のように心に残るBGMがなかったのが、あんまり刺さらなかった理由かもしれません。あと、あくまでも今作のパン・ナリン監督の思い出話がベースなので、子供時代しか描かれていないんですよ。かつ、ちょっと美化されすぎでは?と邪推してしまったり(笑)もし、大人になったときのエピソードも描かれていたり、この映画自体が壮大な回想物語だったとしたら、もっと感動できたかもしれません。とはいえ、映画に心躍った幼き日を思い出させてくれるのはよかったですけど。

<そんなわけで>

映画に魅せられたことがある人なら共感できるであろう感動のヒューマンドラマです。とにかく、パン・ナリン監督の映画への愛が詰まっていることは、随所に見られる名作へのオマージュからも読み取れます。最後に、彼がが影響を受けた映画監督たちの名前を上げるんですが、日本からも勅使河原宏、小津安二郎、黒澤明の名前が挙がったのはうれしいですね。


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