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メイン3人の圧倒的な演技力とタイトルに込められた意味に驚かされる『さがす』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:10/27
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★★
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【ジャンル】

サスペンス
ヒューマンドラマ
犯罪映画

【原作・過去作、元になった出来事】

なし

【あらすじ】

大阪の下町で平穏に暮らす原田智(佐藤二朗)と中学生の娘・楓(伊東蒼)。

「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。

いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。

ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。

「お父ちゃん!」

だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。

失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

【感想】

これはまたインパクト大の映画でした。。。重く暗い雰囲気のサスペンスではあるんですが、予想だにしない展開に引き込まれるので、事前情報を入れずに観るのがよいと思います!

<ストーリーが進むほどタイトルの意味にハッとする>

この映画、いろいろ思うところが多い作品なんですよ。あまり書くとネタバレになってしまうので難しいんですが。。。(笑)

突然、行方不明になった父親を"さがす"娘。物語の冒頭で、「なるほど、だから『さがす』っていうタイトルなのか」と思うんですが、実はそれは、この映画の"ひとつの顔"でしかないんですよね。観ていくとわかるんですが、"さがす"にはいくつかの意味が込められています。それを知って、「なるほど、そういうことなのか」とハッとさせられるんですよね。これは観ないとわからない発見です。さらに、現実問題として頭を抱えそうな事柄がキャラクターの身に起こり、胸の奥をえぐられるような気持になります。

それは、父の失踪の真相と繋がるんですが、本当に心苦しい内容でして。。。もうぜひその目で確かめて欲しいです。悲しくて苦しくて愛しい彼の隠された真実を。

<"死こそ救済"という考えの奥深さ>

『ファイナルファンタジー』というゲームをご存知でしょうか。僕の大好きなRPGシリーズなんですけど、そこに出てくる敵キャラって、シリーズを通して死や破壊を"救済"と捉えてることが割とあるんですよ。特に『X』はその傾向が強いですね。苦しみながら生きるよりは、死んで楽になった方がいい。そんな考えが、この映画においても狂気を生む発端となっています。

指名手配されていた山内照巳(清水尋也)は、連続殺人犯ではあるものの、彼なりの主張としては、この世界の死にたがっている人に救いを与えていただけと言います。

これは現実問題として、単に「頭がおかしい」と一蹴できるものではないと、個人的には思いました。生きる権利があるなら、同時に死ぬ権利を認めてもいいのではなかろうかって思うことも、これまでの人生の中でゼロじゃなかったので。方法はともかく、死ぬことで救われる人もいるかもしれないですからね。まあ、実際にそれを認めてしまうことによる社会的・倫理的な問題があることは、もちろん承知の上ですが。観る人によって、いろんな意見が出そうです。

ただ、彼は人を殺しながらも、実は自分が一番死にたかったんじゃないかなって気がしました。終盤のクライマックスで、そう感じる部分があったので。なぜ彼はあそこで抵抗しなかったのか、それはどこかで自分自身のこともいらない存在だと思っていたからではないでしょうか。

ひとつ気になるのは、彼がなぜそのような思想に至ったかということです。そこは語られていないので、ぜひ知りたいところではあります。

<メインキャストの壮絶な演技に注目>

この映画はストーリーやキャラクターもすごくいいんですけど、一番推したいのはメインの3人の演技ですよ。突然姿を消す父を演じた佐藤二朗。そんな彼を必死に探す娘を演じた伊東蒼。そして、連続殺人犯を演じた清水尋也。3人とも甲乙つけ難いほどの名演技でしたが、僕は佐藤二朗の演技に感銘を受けました。主に福田雄一監督作品でのコメディな役どころのイメージが強いため、『はるヲうるひと』(2021)に続くシリアスな役はとても印象に残りますね。

さらに彼のね、病気になった愛する妻とのやり取りがまた心が痛むんですよ。生きる希望を失い、自ら命を絶とうとすらする彼女を見て、取り乱すときの佐藤二朗の演技。そのとき、音声だけ無音になるんですが、その演出がよかったです。音を無くすことで、悲しみに打ちひしがれる表情や体の震えがより際立っていましたから。

<そんなわけで>

淡々と進む映画ではありますが、ダークな世界観に、引き込まれるストーリー、キャストの圧巻の演技力と、見ごたえ充分なので、ぜひ映画館で観て欲しい映画です。

邦画ではありますが、どことなく雰囲気的に韓国映画っぽいなと感じるのは、本作の片山慎三監督が、あのポン・ジュノ監督の下で助監督を務めたことも影響しているかもしれません。


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