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ボーイズラブを通じて芽生える17歳と75歳の友情に心温まる、優しくて丁寧な世界観だった『メタモルフォーゼの縁側』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:51/88
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★☆☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【ジャンル】

シスターフッド

【元になった出来事や原作・過去作など】

・漫画
 鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』(2017-2020)

【あらすじ】

佐山うらら(芦田愛菜)、17歳。みんなのようにキラキラできない女子高生。唯一の楽しみは、毎日こっそりBL漫画を読むこと。

もうひとりの主人公・市野井雪(宮本信子)、75歳。夫に先立たれ、人生の終わりがちらつく今日この頃。

ある日、ふたりは同じ本屋にいた。うららはレジでバイト。その前に出された一冊のBL漫画。顔を上げると、そこにいたのは雪だった。

雪はBLの意味さえ知らず、きれいな表紙に惹かれ、思わず手に取っただけ。
初めての世界に驚きつつも、男子たちの恋物語にすっかり魅了され、老いた体にときめきがよみがえる。続きが読みたい。雪は新刊を求め、再び本屋に向かうのだった…。

こうして出会ったうららと雪。好きなものを語り合える「友達」ができた。

あくなきBL愛を語り合う日々の中、雪が言う。
「うららさんは自分で漫画を描きたいと思わないの?」

そして、ふたりはあることを決意。それは、創作漫画の即売会「コミティア」への出展。

歳の差58歳、うららと雪の挑戦が始まった。

【感想】

こんなに優しくほっこりする世界があったのかっていうほど心が温かくなる映画。原作は漫画ですが、全5巻とすぐに読めちゃうボリュームだったので、漫画を読んでから映画を鑑賞しました。

<ニッチな趣味の一致から湧き起こる親近感>

共通の趣味を通じて芽生える友情。簡単に言ってしまえば、この映画のテーマってそんなもんです。でも、これって現実世界で考えてみるととても重要なことだと思いませんか?同じような経験がある人もいるかもわかりませんが、サブカルの趣味が一致するって、それだけで親近感湧きますよね。パッと見、仲良くなれなさそうに感じても、実は映画とかゲームとか、自分と同じ趣味があるってだけでいい人に見えてくるというか。

その趣味がニッチであればあるほど、まわりに言いづらければ言いづらいほど、同志を見つけたときの感動は大きいと思います。ボーイズラブがニッチかどうかはわかりませんが、まあ野球やサッカーよりは規模も大きくないし、堂々と好きと言える人もいないかもしれません。そういえば、『花束みたいな恋をした』(2021)でも、麦くんと絹ちゃんの距離を縮めた要因のひとつは、サブカルの共通の趣味でしたよね。

<ギャップあってこそのこの映画の魅力>

上記で書いたことは、この映画の面白いところのひとつですが、それをさらに引き立てているのが、その仲良くなる2人というのが、17歳の女子高生と75歳のおばあちゃんっていう、58歳も歳の差がある組み合わせです。その差にも驚きますが、そもそも「ええ?!おばあちゃんがBLに興味持っちゃう?!」っていうところも楽しめる要素のひとつですね。もちろん、掴みとしてはそれで十分すぎると思うんですけど、うららの立場からしても、ずっとBLの楽しみを誰かと分かち合いたかったので、ようやく見つけた"至福の時間"っていう点でなんか安心しちゃいます。

「趣味によって人生はもっと楽しくなる」、「いくつになっても新しい発見がある」、「人生に楽しみを見出すのに年齢は関係ない」。そういったメッセージを、うららと雪が体現しているのがとっても心地いいんですよ。雪が漫画家の先生に、「あなたの漫画のおかげで友達ができました」とお礼を言うシーンは感動的でしたね。

<映画もいいけど、やっぱり漫画の方がもっといい!>

映画も原作の内容をうまく2時間にまとめてあってよかったんですが、、、個人的には原作漫画の方を推したいです、、、!漫画の方がもっと丁寧に描かれています。具体的には、うららの心情表現がすごく多いんですね。セリフのやり取りはもちろんのこと、特に心の声が重要です。単にBLの趣味を雪と分かち合うだけでなく、うまく人付き合いができないことをもどかしく感じているところや、せっかく雪と仲良くなってもっとBLを薦めたいのだけど、自分だけ突っ走っちゃってないかなと自制するところなど、すごく優しいというか気にしいな性格が存分に発揮されていますから。映画だとそこがちょっと弱かったので、個人的な評価でのキャラクターの項目が★3つにしていますが、漫画だと★5つぐらいになります。あと、漫画の方が時間がゆっくり進んでいる分、より牧歌的な雰囲気が出ていて読みやすく、ストーリーの項目も★5つです!

<そんなわけで>

女性同士の友情を描いたいわゆるシスターフッド映画として、すごく楽しめる作品です。離れすぎている年齢差を一瞬にして埋められる力がボーイズラブにもあるという、元気をもらえるような話でした。ボーイズラブに興味がなくても楽しめるので、いろんな人に観ていただきたいです。


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