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非道な連続強姦事件を受けて、女性たちが自らの未来を懸けて自由を勝ち取るために議論を重ね、抑圧からの解放を目指す『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:59/80
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆

【作品情報】

   原題:Women Talking
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ
   配給:パルコ
 上映時間:105分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『Women Talking』(2018)

【あらすじ】

2010 年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で起きた連続レイプ事件。これまで女性たちはそれを「悪魔の仕業」「作り話」である、と男性たちによって否定されていたが、ある日それが実際に犯罪だったことが明らかになる。

タイムリミットは男性たちが街へと出かけている2日間。緊迫感の中、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う―。

【感想】

濃厚な映画でした。タイトル通り、ひたすら議論を重ねていくのがメインなので、万人受けする作品ではないかもしれません。でも、議論の展開が興味深い上に、いろいろ考えさせられる内容だったのでオススメしたいです。

<おぞましい実話ベース>

そもそも、この映画は同名タイトルの小説が原作なのですが、その小説は実際の事件を題材にしているんですよ。これがまたおぞましい話で。2005年から2009年にかけて南米ボリビアで起こった連続レイプ事件なんですね。被害者は3歳から65歳までの100人以上の女性たち(男性の被害者もいたという話も)。夜中の間に相次いでレイプされたんですが、被害者たちにはその晩の記憶がまったくないというんです。朝目覚めたら、血や体液だけが残っていると。男たちは「悪魔の仕業では?」などと言うんですが、実は薬を盛られて気絶している間にレイプされていたことが後に発覚します。犯行の現場となったのは、メノナイトと呼ばれるキリスト教の教派のひとつに属する人々が暮らす村。女性や子どもたちは、ほとんど外出することはなく、一般的な社会から離れたコミュニティにて孤立した生活を送っているそう(だから、被害にも気づきにくかったのかもしれません)。

この映画を観る前に、そういう事前知識はあった方がいいかなと思いました。なぜなら、本編では“直接的な”表現がなく、犯行に及ぶ男性たちが出てくるシーンもほとんどないため、一見すると女性たちの置かれた状況を把握しづらいところもあります。なので、背景としてそういう胸糞悪い事件があるというのは、頭の片隅にも置いておいていただければと思います。

<徹底的に議論する力強さ>

冒頭でも触れましたが、この映画のメインは、そのような状況に置かれた村の女性たちが、自分たちの未来をどうするべきかについて話し合うところです。

①何もしないか
②村に残って戦うか
③村を出ていくか

読み書きができなかった村人たちに投票の仕方を教えた結果、②と③が同数となり、メインキャスト8人の間で、その2つのどちらを採るべきか議論が行われていきます。

自分たちが成し得たいゴールを明確にしてメンバー間で共通認識を持った上で、それぞれのメリット・デメリットを書き出し、感情論だけに留まらない建設的な議論が展開されていくのは見ごたえがあります。特に、オーナ(ルーニー・マーラ)のキャラクターが印象深かったです。自身はレイプ魔の子供を身ごもり、心身共に疲弊しきっているはずなのに、あまり感情的にならず、常に落ち着いて議論を引っ張っていきますから。

<現代社会にも通じるメッセージ>

さらに彼女でびっくりしたのが、物事を捉える姿勢です。普通だったら加害者である男性たちには問答無用で正義の鉄槌を食らわせたいところではありますが、「女性はこうあるべきと誤った認識を持った男性たちを変えるにはどうしたらいいか(うろ覚え)」みたいなことを言うんですよね。一方的に相手を非難するだけでなく、物事を根本から捉えて、この歪んだ現実を正そうとするんです。

この姿勢は、現代に生きる自分たちにも当てはまるところがあると感じました。映画ではレイプ被害に遭った女性たちが自由を勝ち取るためにどうするべきかということを描いていますが、話の根底は女性に限ったことではなく、抑圧されてきた立場の人たちが、どうしたらそこから抜け出せるかを考えるところにあるんじゃないかって思うんですよね。その視点で見れば、共感できる層はもっと広がるんじゃないかと感じました。

【そんなわけで】

テーマとしてはだいぶ重いですが、抑圧からの解放を目指して自分たちの未来を守ろうとする流れは面白かったです。ただ、ひたすら議論が続くだけなので、ある程度元気なときに観ないと眠くなる人はいるかもしれません(笑)


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