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火山の持つ荘厳さと美しさに心打たれ、それらを前にしたときの人間の無力さに呆然とした『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:35/170
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★★★
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:-(配信のみ)

【作品情報】

   原題:Fire of Love
  製作年:2022年
  製作国:アメリカ・カナダ合作
   配信:Disney+
 上映時間:93分
 ジャンル:ドキュメンタリー
元ネタなど:火山学者「モーリス・クラフト」(1946-1991)
      火山学者「カティア・クラフト」(1942-1991)

【あらすじ】

モーリスとカティアの夫妻が愛するものはそれぞれ2つ。お互いと火山だ。

2人は世界中の噴火山を追い求め、あらゆる発見を記録してきた。1991年の雲仙普賢岳の噴火で命を落とした彼らが残した遺産は、自然界に対する我々の理解を深める役割を果たすこととなる。

本作は2人の科学者が愛のために未知なる世界へと飛び込む様子を、彼らのアーカイブを基に描いた想像と破壊の物語である。

【感想】

今までいろんなドキュメンタリー映画を観てきましたが、これほどまでに映画館で観たかったと思う作品は初めてかもしれません(前に同じこと言ってたらすみませんw)。いや、でも配信だけで終わらせてしまうのが本当にもったいないですよ。それほど、火山の恐ろしさと魅力がこの作品には詰まっていましたから。

<火山というチート並みの存在感>

このドキュメンタリーで推したいのは2つあります。ひとつは圧倒的な存在感を放つ火山。もうひとつは、クラフト夫妻の生き様です。

まず、火山について。地球の鼓動、血流、そう表現しても過言ではないぐらい、火山が生き物のように感じられました。劇中で使用されている映像のほとんどは、クラフト夫妻が実際に記録したものになります。今から50年前近い映像にも関わらず、火山の力強い息づかいを感じられるほど強大すぎるんですよね、存在が。そもそも山ってだけで圧倒されるじゃないですか。それが火の属性を身にまとっているんですから。

多くの人が想像するのは、赤い火山から噴水のように吹き出す溶岩じゃないかなと思います。その温度は1200度にも達するそうです。粘り気のあるゆっくりとした流れで山を下ってきて、触れるものすべてを燃やし尽くす勢いですよ。ただ、川のように谷間を流れるため、動きは読みやすく、これで死ぬことはあまりないらしいんですよね。恐ろしいのは粉塵を巻き上げる灰色の火山。これは動きが読みづらく、急にブラストが発生することもあるので非常に危険だそう。赤色と灰色の異なる火山について知れるのも、この作品のいいところです。

<太く短く生きたい夫妻>

そんな火山の観察と研究に人生を捧げたのがクラフト夫妻です。2人の火山に懸ける情熱はストイックというかなんというか、、、ある意味火山オタクという捉え方もできると思うんですが、火山が好きというより、火山が自分の一部になってるんですよね。だから、「好奇心が恐怖が恐怖を上回る」と豪語して、死をも厭わず火山に向かい、火口に近づいていきます。近くにテントを張って、観察の毎日。「リスクは最小化されるべきだが、至近距離からの観察も必要なのだ」って。当然、一歩間違えれば死んでしまうのですが、火山で死ねるならむしろ本望とも言わんばかり。そもそも、あまりにも火山や噴火を目の当たりにしすぎているせいか、恐怖というものがないらしいんですよ。ここらへん、命綱なしでロッククライミングとかしちゃう人たちと似ているような気もしますけど。

残念ながら、この夫妻は1991年6月3日に亡くなってしまいまいます。しかも日本で。この日何があったのか、ある程度年齢を重ねている人だったらご存知の方もいるかもしれませんね。そう、雲仙普賢岳の噴火です。各地の火山や噴火を見てきたクラフト夫妻は、日本で雲仙普賢岳が噴火しそうという情報を聞きつけて来日したんです。そして、近くでその様子を撮影しているときに、大規模な火砕流に巻き込まれてしまったのです。これまでの映像を観てきて、この結末はわかっていても目頭が熱くなりました。それぐらい、この90分ちょいという尺の中で、2人の人間性がよくわかる構成だったんですよ。これはドキュメンタリーのまとめ方がうまかったと思いますね。同時に、本人たちからしたら満足いく人生の終わり方だったのかなとも思います。「単調に生き続けるより激しく生き急ぐ」、「火山で神風のように散りたい」と言っていたぐらいなので。こういう太く短く生きる生き方、かっこいいですよね。自分も若い頃は憧れましたけど、、、ちょっと自分には向いていなかったみたいで(笑)

<そんなわけで>

あまり観ることのない火山に関するドキュメンタリーで、とても興味深い内容でした。直近では日本で噴火は起こっていないですよね(少なくとも報道されている限りでは)。だから、あの燃えさかる溶岩が大噴出するような映像を目にする機会もあまりないと思います。なので、教養のひとつとして観ておくのも有意義かなと感じました。あの火山の持つ人間がいかに無力かと思わせる圧倒的な力強さ、IMAXで観てみたかったなあ。


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