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宇宙船内で起こる人間社会の縮図が恐ろしい『ヴォイジャー』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:28/49
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【ジャンル】

SF
サスペンス
スリラー

【原作・過去作、元になった出来事】

なし

【あらすじ】

地球温暖化による飢饉が人類を襲い、科学者たちは居住可能な新たな惑星を探した。そして2063年。可能性を秘めた惑星を発見し、探査隊を派遣することになる。航行にかかる期間は86年。乗員は訓練を受けた30人の子供たちと、彼らの教官であるリチャード(コリン・ファレル)が同乗した。子供たちは船内で成長して子孫を残し、惑星に到達するのは彼らの孫の世代だ。子供たちはリチャードに従順に従い、航行は順調かに見えた。

10年後。クリストファー(タイ・シェリダン)とザック(フィオン・ホワイトヘッド)は、彼らが毎日飲む薬によって人間としての欲望が抑制されていることを知る。さらに、反発した乗員たちは本能の赴くままに行動するようになり、ある事件をきっかけに船内の統制が崩壊していく―。

【感想】

各レビューサイトの評価低いんですけどね、僕は普通に面白いと思いましたよ。これまでの宇宙を舞台にした映画とは、またちょっと違う感じがよかったんですよ。洋画ってけっこう頻繁に宇宙を舞台にした映画が作られると思うんですけど、大体が惑星探索におけるヒューマンドラマとか、エイリアンと戦うアクションとかじゃないですか。でも、今回はそのどちらでもないんですよね。

<人間は「管理」されるべきか「自由」にさせるべきかの対比>

選ばれた子供たちが乗った宇宙船が惑星にたどり着くのは今から86年後。こういう長期間の航行のときって、コールドスリープにするっていう設定が多いんですけどね。今回はその設定はなかったです。選ばれた子供たちが普通に成長して、子孫を残し、孫の世代でミッションを達成するのがこのプロジェクトなので。つまり、彼らは孫まで作るためだけに選ばれたわけなんですよ。とはいえ、ただのんべんだらりと過ごすわけではありません。一定の健康状態を保ち、生命活動を維持しなくてはなりません。途中で燃料や物資の補給なんてできませんから、86年間、安全に宇宙船内で過ごすためには、「適切な管理」が必要になります。大きなトラブルを起こさず、無駄にエネルギーを消費せず、極力ヒューマンエラーを抑える。それを実現するために「欲望の抑制」が行われます。日頃から薬を与えて、あらゆる欲望レベルを最低限に抑えておくんですね。これがなかなか面白い設定じゃないかと思いました。感情を失くすのではなく、欲望がなくなれば、そもそも感情も出てこないよねっていう発想。その欲望も"抑えてる"だけだから、元に戻るリスクもあるってことです。まあ、感情を失くした方がてっとり早いのかもしれませんけど、生まれてくる子孫のことを考えると、健全ではないのかもしれません。

ひょんなことから、自分たちが飲んでいる薬に欲望を抑える効果があるという秘密を知ったのがクリストファーとザックです。彼らは意図的に薬を拒否し、通常の人間と同等の欲望レベルにまで回復しました。まさに、「適切な管理」から逃れ、「自由」を手にした瞬間ですね。

ここからがこの映画の面白いところです。他のメンバーも薬を飲まなくなったことで、同時多発的にみんながいろんな欲望に目覚めます。船内を走り回り、好きなように食事を摂り、異性に対する興味まで。それで怪我したり、食糧が枯渇したり、意図しない妊娠なんかが起きたら、86年後までもたないよねってことで管理されていたはずなんですけど。管理の呪縛から解き放たれたクルーたちはやりたい放題。言ってしまえば、赤ちゃんみたいなものかもしれません。初めて欲望というものが自分の中に芽生え、好奇心に駆られている状況です。人間は管理しておいた方がよかったのか、それとも自由にさせた方がいいのか、その問題提起は大きな悲劇を生んでしまいます。

<人間社会の縮図の誕生>

目覚めた欲望は留まることを知らず、自己承認欲求やそれが叶わないことによる嫉妬など、より高次元の欲望も出てきて船内はカオス状態。そこで、"とある事件"をきっかけに、グループが二分してしまうんですよ。ザック率いる「好きなようにやろうぜ」という改革派と、クリストファー率いる「任務遂行のために規則を守ろう」という保守派。まさに、どのコミュニティでもありそうな構図が、狭い密室の宇宙船内で出来上がっちゃったわけです。

どちらの心理も理解できるんですよねー。好きなようにやりたい気持ちもありつつ、目的達成のためにはある程度のルールも必要ですから。僕自身、徹底された管理下に置かれるのは好きではない性分なので、普通なら「好きなようにやろうぜ」っていう思想を推したいところですが、、、ここでの改革派はだいぶ過激なので、この映画を観る限りでは保守派の方に肩入れしたいです(笑)しかも、その改革派を引っ張るザックがまたイラつく役どころなんですよ。デマを流して人々を困惑させ、大きな声で自分の陣営に引き込むといった小賢しい手を使いますから。政治家というより、もう独裁者に近い雰囲気でしたね。まあ、「そこまでする必要あるかな?」とやや動機に違和感はあるものの、この対立構造は後半を盛り上げるいいストーリー展開だったと思います。

<そんなわけで>

舞台は宇宙でしたけど、SFよりはサスペンスやスリラーに近い映画でしたね。ゆえに、宇宙である必要はあまり感じませんでしたが(笑)この両陣営の争いがどう決着するかは、ぜひ映画館で観て欲しいです。

それにしても、最初に選ばれた30人って、自分たちは目的地を目にすることなく生涯を終えちゃうんですよね。彼らに求められているのは、孫まで残す生殖機能のみだから、人としての人生を考えると、なかなか悲しい運命ともいえそう。。。


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