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まるで大人の思春期。よくも悪くもみんな素直で浮気や不倫に後ろめたさを感じさせない『窓辺にて』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:51/181
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

  製作年:2022年
  製作国:日本
   配給:東京テアトル
 上映時間:143分
 ジャンル:ラブストーリー
元ネタなど:なし

【あらすじ】

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している売れっ子小説家と浮気しているのを知っている。しかし、それを妻には言えずにいた。また、浮気を知ったときに自分の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。

ある日、とある文学賞の授賞式で出会った高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)の受賞作『ラ・フランス』の内容に惹かれた市川は、久保にその小説にはモデルがいるのかと尋ねる。いるのであれば会わせてほしい、と。

様々な人と会うことで、自分を見つめ直す市川。彼は自分の悩みを解決することができるのだろうか。

【感想】

"大人の思春期"とでも言いましょうか。こういう綺麗事だけじゃない男女関係や複雑な人間の内面を撮らせたらこの方しかいないという今泉力哉監督。今回も面白かったです。

<「ああ、人間だな」って感じがする>

この監督の映画は過去にもいくつか拝見したことがあるんですけど、正直、ストーリーとして前に進んでいるっていう感じはあまりしないんですよね。そういう壮大なスペクタクルという話ではないんですけど、それを補って余りあるほどの丁寧かつ繊細な登場人物たちが魅力的なんですよ。今作に限りませんが、とにかくよくも悪くもみんな素直なんですね。必ず誰かしらしれっと浮気や不倫をしてますから。もちろん、その行為自体は褒められたものではありません。ただ、あまりにも自然というか、「ハンバーガーにはコーラだよね」っていうぐらい当たり前の空気があるので、あんまりマイナスな印象を受けないというか(笑)「まあ、そうなっちゃうよね」っていう妙な納得感と、全体的な人間ドラマをすごく繊細かつ丁寧に描いているので、変にいやらしくならないっていうのが特徴かなと思います。

今作に限って言えば、主人公である市川の描かれ方がポイントですね。市川って、穏やかな性格で自己主張がほとんどないんですよ。この世のあらゆるものに興味がないんじゃないかっていうぐらい淡々とした人物でした。でも、人の悩みには耳を傾けますし、浮気している妻にさえ、気づいていないフリをして、仕事の疲れを気遣う優しさも持ちます。むしろ、彼は妻の浮気を知ってもなぜか怒りを感じず、そのこと自体に悩むぐらいなんです。浮気されている当の本人が怒りや悲しみを持ち合わせないから、観ているこっちも拍子抜けしてしまい、妻の不貞行為にマイナスの印象を持ちづらかったっていうのはあるかもしれません。それに、そんな淡々とした人物じゃ、妻も愛を感じづらく、他に求めてしまう心情も理解できてしまいますから。そんな妻に対して、浮気の事実をいつ切り出すのかヒヤヒヤしてましたけど、まさかすぎるタイミングで言い出したのにはびっくりしました(笑)

<妄想する余白を残す作品づくり>

それにしても、市川はなぜ怒りを感じなかったのでしょうか。愛してないのか。興味がないのか。あれこれ悩み、いっそのこと別れた方がいいのかとさえ考えています。ここに明確な答えはないので、観た人の中であれやこれやと妄想する余地があるのも、この映画の面白いところだと思いますね。正解があるかはわかりませんが、僕の考えとしては、市川は妻を愛しているがゆえに、彼女が一番幸せになれる状況を尊重しているのではないかなと思いましたけど。「自分といない方が幸せというのならば、それはそれで彼女のためになる」と。また、「信頼こそが人と人とを繋ぐ」というようなセリフがあったように、根底の部分では妻のことを信頼していたんだとも思う。それは、一時の気の迷いで浮気はしたけど、最終的には自分のところに戻って来るであろうという信頼です。あとはもともと感情を表に出す性格ではないというのも大きいかもしれません。

<キャラにマッチしたキャスティング>

そういう市川のキャラが、稲垣吾郎さんにピッタリだと思うんですよ。SMAP時代から、「俺が俺が」ってう前に出る感じではなく、一歩引いて冷静に見ている彼の姿とすごくマッチしていた気がします。市川の持っている落ち着きや身にまとっている雰囲気が、そのまま稲垣吾郎さんだったなと。

マッチしていたといえば、市川の友人である有坂を演じた若葉竜也さんもよかったですね。彼はプロスポーツ選手という設定で妻子ある身なんですけど、彼も彼でタレントと絶賛浮気中なんですよ。しかも、本人は気づいていないけど、それが妻にバレているっていう(笑)市川の相談に乗り、それっぽいアドバイスはするものの、「どの口が言うんだ」っていう役どころですね。今年の6月に観た『神は見返りを求める』(2022)っていう映画でも、言ってることとやってることが矛盾しているクズ役だったので、なんかピッタリだなと思ってしまいました(笑)

<秀逸な構成>

今回の映画で出てくる登場人物、全員が全員、直接的な接点があるわけじゃないんですが、絶妙に人間関係が交差するのも面白いんですよ。「あ、ここでこの人が繋がってくるんだ」っていう驚きがあって。それなりに登場人物の数もいますけど、本当にいいバランスで仕上げてきて、よくこうやって自然にみんなをうまくまとめられるような脚本を書けるなと、今泉力哉監督の手腕に脱帽しました。

<そんなわけで>

綺麗事が一切ない男女のあれやこれやを描いた映画でした。人間の内面って意外と複雑ですし、言動は一致しないこともありますし、相田みつをじゃないですけど、「人間だもの」って思える作品です。ストーリー的にも淡々としているのに、思わず見入ってしまうほどのキャラクターたちの人間ドラマはぜひ映画館で観ていただきたいですね。


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