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内容が重い上にキャスト全員「演技力お化け」かってぐらい感情むき出しすぎて心が締めつけられるような想いになった『52ヘルツのクジラたち』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:7/28
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:-
  製作年:2024年
  製作国:日本
   配給:ギャガ
 上映時間:135分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『52ヘルツのクジラたち』(2023)

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家へと移り住んできた貴瑚(杉咲花)は、虐待され、声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も、家族に虐待され、搾取されてきた彼女は、少年を見過ごすことが出来ず、一緒に暮らし始める。

やがて、夢も未来もなかった少年に、たった一つの“願い”が芽生える。その願いをかなえることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き取り救い出してくれた、今はもう会えない安吾(志尊淳)とのかけがえのない日々に想いを馳せ、あの時、聴けなかった声を聴くために、もう一度立ち上がる──。

【感想】

※以下、敬称略。
原作小説は未読ですが、この映画、重すぎです。。。生きづらさを抱えた人たちを描いた話なんですけど、子持ちや要介護者が身近にいると余計に辛く感じるかもしれません。

<キャスト全員圧倒的演技力!>

この映画はストーリーの面白さもさることながら、一番の見どころはキャスト全員の演技力の高さにあると思っています。みんな感情むき出しで本当に圧倒されるんです。

まずは主人公の三島貴瑚を演じた杉咲花。ヤングケアラーとして義父の介護に疲れ切って自殺しようとするんですが、人生詰んだ感ある生気の欠片もない表情と、あまりの辛さに涙が溢れ出る悲壮感に観ているこっちが辛くなりました。。。

その母親である三島由紀役の真飛聖もとんでもない役どころです。完全に毒親で、貴瑚がいないと生きていけないという、娘に変に依存している部分があるんです。それゆえか、介護は貴瑚にすべて押しつけているのに、夫の体調が崩れると「あんたが死ねばいいのに!」と人目もはばからず、貴瑚を殴りまくるという精神的に不安定な人でした。ただでさえ義父の介護で疲れているのに、多感な時期をそんな母親のもとて過ごしたら、そりゃ貴瑚も死にたくもなりますよね。。。

そんな貴瑚を気にかけ、彼女の幸せを誰よりも願う岡田安吾を演じた志尊淳も素晴らしかったです。予告の時点ではあの不自然なあごひげがやたら気になりましたが、安吾がトランスジェンダーという設定だと知って納得しました。この映画の中では、おそらく一番生きづらさを抱えていたんじゃないかと思います。それは、安吾自身の性自認について誰にも言えず、誰にも触れられたくないこととしてひとりで抱えてきたからです。だから、終盤のホテルのロビーのシーンで、それが明るみになったときの、安吾の中で何かが壊れてしまったような演技は可哀想という感情と同時に、人が壊れてしまう恐ろしさも感じました。それだけ今の日本は性的マイノリティの人が生きづらい社会ということなのかもしれません。

そんな安吾が壊れるきっかけを作った新名主税役の宮沢氷魚もヤバかったです。。。最初はいい人なのかなと思ったんですが、実際は独占欲や支配欲の強いクソ野郎で、貴瑚をめぐって安吾に対して抱く嫉妬心には恐怖すら覚えたほどです。これだから金持ちのボンボンは。。。

あと、貴瑚が移り住んだ海辺の街で出会う品城琴美を演じた西野七瀬にも注目です。個人的には彼女が一番印象的でしたね。「子供を生んだせいで人生狂った」と言い、実の息子をムシ呼ばわりする上に日常的に虐待を繰り返すこれまた毒親ですよ。彼女が一番印象に残った理由は、元アイドルという経歴ながらも、ここまで胸糞悪い役を演じきれるというのがギャップだったからです。西野七瀬ってこれまでも悪役をやっていたことはありましたけど、観ている人にここまで不快感を与えられる演技力は圧巻でした。

<ただ辛いだけの映画ではないのが救い>

このように、出てくる人のほとんどが心に闇を抱えており、観れば観るほど心がすさみそうな内容ではあります。辛いことや悲しいことがあるのに、うまく助けを求めることができないか、もしくはその声が届かないもどかしさもあります。そこが、特殊な周波数すぎて他の個体にその声が届かない「52ヘルツのクジラ」のようってことなんですよね。でも、いろんな悲劇がありつつも、手を差し伸べてくれる人はいますし、新しい人生を歩み出すことができるということを伝えてくれる側面もあったのも、この映画の救いの部分でもありました。特に、優しさは伝播するのかなと思うところがあって、安吾が貴瑚にしてくれたことを、今度は貴瑚が琴美の息子にしてあげるところに、人間捨てたもんじゃないというか、人生っていつでも再起を図れるチャンスがあるんだなというささやかな希望にも繋がりました。

<そんなわけで>

センシティブな要素が多いですが、とにかくキャスト全員の演技力が凄まじいので、ぜひ観てほしい映画です。現実でも助けを求める小さな声、声なき声がどうかひとりでも多くの人に届けばいいなと切に願います。


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