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「どうしてこうなっちゃったかなあ」と誰もが自分のことを振り返りたくなる逆再生ラブストーリー『ちょっと思い出しただけ』

【個人的な評価】

2022年日本公開映画で面白かった順位:14/38
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【ジャンル】

ラブストーリー

【原作・過去作、元になった出来事】

映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)に着想を得て作られた、クリープハイプの『ナイトオンザプラネット』(2021)という楽曲に、松井大悟監督が触発されて作られた。

【あらすじ】

2021年7月26日。ステージ照明の仕事をしている佐伯照生(池松壮亮)は、誕生日の今日もダンサーに照明を当てている。

一方、タクシー運転手の葉(伊藤沙莉)は、ミュージシャンの男を乗せてコロナ禍の東京の夜の街を走っていた。途中でトイレに行きたいという男を降ろし、自身もタクシーを降りると、どこからともなく聴こえてくる足音に気づく。その足音は、ステージで踊る照生のものであった。

時は遡り、2020年7月26日。照生は部屋でリモート会議をし、葉は飛沫シートを付けたタクシーをマスク姿で運転している。

また1年遡り、誕生日を迎えた照生は、昼間は散髪屋で伸びた髪を切り、夜はライブハウスでの仕事を終えた後に、行きつけのバーで友人らと飲んでいた。

同じ頃、居酒屋で合コンをしていた葉は、煙草を吸いに店の外に出たところで見知らぬ男から声をかけられ、話の流れでLINEを交換することに。葉のアイコンを見た男が「猫飼ってるんですか?」と尋ねると、葉は「今は飼ってないけど」と返し、続けて「向こうが引き取ったから」と呟く。彼女がLINEのアイコンにしていた猫は、今も照生が飼っているモンジャだった。

時は更に1年、また1年と遡り、照生と葉の恋の始まりや、出会いの瞬間が丁寧に描かれていく。不器用な2人の二度と戻らない愛しい日々を“ちょっと思い出しただけ”。

【感想】

オーソドックスな、とてもオーソドックスなラブストーリーでした。ダンサーの男性とタクシー運転手の女性という珍しい組み合わせではありますが、『花束みたいな恋をした』(2021)のように、いい意味で何の変哲もないラブストーリーだったと思います。ただ、話の進み方がとてもオシャレというか、印象に残りやすい構成なのが個人的には好きでした。

<1年ごとに時を遡っていく流れがエモい>

スタートは、照生と葉がすでに別々の道を歩んでいる世界です。この2人、何かありそうには見えるんですが、このときはまだ何もわかりません。そこから、1年ずつ7月26日(照生の誕生日)を遡っていきます。

実は2人は付き合っていたんですね。いっしょに笑ったりケンカしたりした日々。ケガで踊れなくなった照生の苦悩。何を考えているかわからない照生に不安になる葉。そうやって時を遡っていく過程で、彼らの間に何があったのか、何をきっかけに出会ったのかがわかる仕組みです。最後まで観て、ようやく物語冒頭のエモさに気づきます。

この映画の特徴的なところって、普通の物語の進み方と逆なところなんですよ。物語って、「○○した」から「こうなった」というように、行動した結果が次々に示されていくじゃないですか。でも、本作は「こうなった」、なぜなら「○○した」からというように、理由に当たる部分が後からわかってきます。途中までは、あまり話に大きな抑揚のない展開に面白さを見出しづらかったんですけど、いろいろ理由が明かされていくことでどんどん物語に引き込まれていくんですね。まるで過去にタイムスリップしていくような感覚で。そこが一番の面白いポイントですね。

ちなみに、あらすじを読むと1年ごとに遡るっていうのがわかるんですが、本編ではけっこう注意して観ていないとわかりづらいです(笑)遡っているってことはわかっても、1年かどうかっていうのは、シーンが変わった冒頭の照生の家にある時計を見るか、セリフの節々に出てくる「誕生日」っていうキーワードでしか判断できません。まあ、照生の家の時計も西暦は表示されていないので、1年かどうかの証拠にはならないかもしれませんが。

<自然すぎるイチャつきがすごい>

結果的に別れてしまった照生と葉ですが、かつてはものすごいラブラブでした。あまり感情を表に出さないものの、内に秘めている想いが強い照生。形や口にしてくれない彼に不満はあるものの、照生のことが大好きな葉。この2人が照生の部屋でイチャつくシーンがとにかくすごいんです。変にオーバーでもなく、コミカルでもなく、ロマンチックでもなく、なのに妙にドキドキしてしまう2人の自然なイチャつき。この自然さが2人の関係性にとてつもなく共感できる要因なのかもしれませんね。これは池松壮亮と伊藤沙莉の演技力のなせる業じゃないかなって感じました。

<チョイ役に出ている豪華俳優陣>

特に本編に絡むわけではないんですけど、ベテラン役者さんがチョイ役に出ているのも本作の見どころです。タクシーの客役に高岡早紀や渋川清彦、行きつけのバーのマスターの恋人役に菅田俊など、隠れた豪華キャストを見つけるのも楽しみのひとつかと。

<そんなわけで>

内容自体は本当に普通のラブストーリーなんですけど、どんどん逆戻りしていく構成と、メイン2人の演技力によって、とても面白い作品に仕上がっています。クリープハイプが歌う主題歌もよかったので、ぜひ映画館で観て欲しいです。


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