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自分の絵画を盗んだ犯人の絵を描くという画家と泥棒の奇妙な関係性が、やがてかけがえのない友情へと変わっていく秀逸すぎるドキュメンタリー映画『画家と泥棒』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:22/150
  ストーリー:★★★★★★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:-(配信のみ)

【作品情報】

   原題:Kunstneren og tyven(The Painter and the Thief)
  製作年:2020年
  製作国:ノルウェー
   配信:Amazon Prime Video、U-NEXT
 上映時間:106分
 ジャンル:ドキュメンタリー
元ネタなど:実際の出来事

【あらすじ】

画家であるバルボラの2枚の絵画が何者かに盗まれた。

警察の捜査によって犯人のひとりベルティルが見つかった。しかし、当の本人は「覚えていない」の一点張り。そんなとき、バルボラから驚きの提案がなされる。

「あなたを描かせて」

バルボラの突然の提案から、思いも寄らない2人の関係が始まる。

【感想】

こんなに引き込まれるドキュメンタリー映画は久しぶりです。。。いや、ドキュメンタリーと言っていいのかってぐらいの秀逸な構成。アマプラかU-NEXTで観れるので、マジでオススメしたいです。

<設定の興味深さが断トツ>

この映画、そもそも設定からして興味深いんですよ。いやだって、普通の感覚だったら、自分の絵を盗んだ犯人を目の当たりにしたら、怒りや憎しみで罵声の一つでも浴びせたくなりませんか。それをね、バルボラは芸術家というある意味特異な人間だからそういう行動に出るのかわかりませんが、盗みを働いたベルティルを一目見て興味を抱き、彼を描きたいと提案するんですよ。絵を返せだの、金を払えだの、そんなことは一切言いませんでした(まあ、「どこにあるの?」ぐらいは聞いてましたけど)。バルボラの創作意欲を掻き立てる何かが、ベルティルにはあったんでしょうね。

<アートの持つ力を垣間見れる>

僕自身、絵自体はまあまあ好きです。まあまあ好きっていうのは、美術館に行くほどではないけれど、学校の授業での実技は好きでしたし、絵を観ること自体に抵抗はないっていうレベルってことですが(笑)なので、絵に人の心を動かす力があるっていうのはわかります。それが、今回の映画で如実に表れているシーンがあるんですよ。僕が一番印象に残るところなんですが、バルボラが「まだ途中だけど」と言いつつも、ベルティルに絵を見せるんですが、彼はその絵を目にした途端、体が固まり、目から涙がこぼれるんですね。まさに「アートには人の心を突き動かす力がある」というその瞬間に立ち会えた気がしました。犯罪に手を染め、クスリの常習犯。そんな人間が、絵を見てボロボロ涙をこぼす姿にはグッときますね。

<お互いに事情がある2人>

ベルティルが絵を見て泣いたのは、おそらく彼の中で求めていたものが与えられたからじゃないかなと思いました。それは彼の生い立ちにも関わりますね。ベルティルは両親と3人兄弟の5人家族でした。でも、幼い頃に両親が離婚し、その後は父親と2人暮らし。ところが、父親は仕事が忙しく、あまりかまってもらえなかったそうで、それが彼の心の傷となってずっと残っていました。ただ、学校の成績は優秀で、大工の特殊技術も持つという犯罪とは縁遠い人物。それがなぜ人の道を外れたのかは語られていないんですが、劇中で本人も語っていたように、彼には「まわりから認められたい」という気持ちがあるみたいなんです。自分を描いてくれる人がいることで、それが満たされたんじゃなかろうかと、僕は勝手に解釈してるんですけどね。ベルティル、根はいい人だと思うので。

バルボラもバルボラでいかにも芸術家らしいというか、集中すると視野が一気に狭くなるところがあるんですよ。そもそも犯罪者の絵を描こうっていうのが、普通に考えたらかなり危なっかしいこと。バルボラの恋人もずっとそれを言ってるのに、本人は一向に聞き入れず、ひたすらベルティルを描き続けます。没頭するあまり仕事をしなかったからか、アトリエの家賃も払えないばかりか、クレジットカードにも制限がかかるほど。バルボラは割と早い段階から"死"に魅了されていたようで、彼女の描く絵はどちらかと言えば暗い雰囲気のものが多かったです。人の不幸からインピレーションを得ている節もあるようで、自身が元カレからDVを受けたときも、それを作品の糧にしていたそうですね。

そんな振り切った人間性の2人が、加害者と被害者という関係性から、モデルと画家という関係性に変わり、やがてかけがえのない友人となっていく過程はとても面白かったです。男女の関係とかではまったくなく、人間としてお互いに必要としていたところがよかったなって。ベルティルはバルボラに描かれることで自己承認欲求を満たし、バルボラは自分の作風に合う存在を見つけたんですから、こんなにお互いにパズルのピースがハマる組み合わせもないんじゃないかなと思います。

<構成がドキュメンタリーっぽくない>

この映画を観終わると、普通にフィクションなんじゃないかって思うんですけど、ドキュメンタリーなのでれっきとしたノンフィクションです。フィクションだと思う理由は、その構成だと思うんですよね。僕は今までドキュメンタリー映画をいくつか観てきましたけど、ほとんどの作品は淡々と進むことが多いんですよ。まあ、ドキュメンタリーって事実を並べるだけなので、そうなって然るべきな側面はあるんですけどね。

でも、この映画は従来のドキュメンタリーとは違いました。時系列を工夫することでストーリー性のある構成にしていて、さらにラスト15分にまさかすぎる展開を持ってくるのが秀逸だったんですよ。これ、ドキュメンタリーじゃなくて、サスペンスとかヒューマンドラマのフィクションでも十分に楽しめる題材だと思いますね。

<そんなわけで>

ドキュメンタリーらしからぬドキュメンタリーという形でとても楽しめる映画です。配信オンリーなのがやや残念ではありますが、配信で手軽に観れますし、尺も106分とそんなに長くないので、ぜひいろんな人に観てほしいです。


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