見出し画像

障害による生きづらさとそれを支え合う優しさが交じり合った映画『夜明けのすべて』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:11/15
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:-
  製作年:2024年
  製作国:日本
   配給:バンダイナムコフィルムワークス、アスミック・エース
 上映時間:119分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『夜明けのすべて』(2020)

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)はある日、同僚・山添くん(松村北斗)のとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。

職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。

【感想】

※以下、敬称略。
原作小説は未読ですが、SNS等での評判のよさに惹かれて鑑賞しました。よくある障害を抱えた登場人物の恋愛物語かと思いきや、人や自身の抱える障害と向き合うヒューマンドラマでしたね。(いい意味で)歌って踊るアイドルのイメージがないぐらい、素晴らしい演技をする松村北斗に特に見入ってしまいました。

<生きづらさと優しさが交わる世界>

この映画は、PMS(月経前症候群)を抱える藤沢さんとパニック障害を抱える山添くんをメインとしたお話です。藤沢さんは、生理前になるとイライラが抑えられなくなり、些細なことに怒り散らしてしまいます。山添くんは、ある日突然パニック障害になってしまい、電車に乗ることができなくなってしまいました。それぞれ、自分の心と体なのにうまくコントロールができず、周囲の人を巻き込んでしまうこともあることから、生きづらさを感じているんですね。そんな2人は、栗田科学の同僚として出会うことになります。

こういうジャンルの映画では、病気や障害を抱えることになった苦悩や、またすでにそういう状況にあって、普通の人と比べて同じようにできないことに対する苛立ちや悲しみ、さらには外野からの心無い対応などがが描かれることが多いと思います。でも、この映画はそういうのとはちょっと違いましたね。すでに障害そのものに対してあれこれ思い悩むフェーズは過ぎているような気がして、むしろ障害と向き合って、自分ができる範囲内でどう過ごしていくかということに焦点が当たっていたと思います。また、そんな2人を邪険に扱うような人も一切出てきません。職場の人たちはみんな2人に理解があり、温かい目で見守ってくれています。

そんな中、藤沢さんと山添くんは症状は違えど、お互いに心身に不調を抱えている者同士、意気投合ではないけれど、お互いに他人事とは思えぬ共感を持ちます。別に唯一無二の親友になるとか、恋愛関係に発展するとかそういうことではなく、たとえ自分を律することはできなくとも、相手に寄り添い助けることはできるのではと考えるんですね。こういった状況を「優しい」と言うのが正確な表現かはわかりませんが、障害の苦しさを描きつつも、それを治す方向ではなく受け入れた上での2人の交流は、生きづらい日々の中にある平和や安定、希望のように感じられました。

<出会いを通じて変わっていく山添くん>

また、序盤から終盤にかけてのキャラクター変化にもほっこりします。特に山添くんは、冒頭は自分ではどうしようもない発作に対するもどかしさ、それによる「自分には普通の生活なんて無理なのかも」というあきらめムードみたいなものが漂っており、職場でもあまり他の人と必要以上に絡もうとはしていませんでした。ところが、藤沢さんと出会ったことで笑顔が増えただけでなく、外出の帰りにたい焼きを買ってくるほどまでに柔らかくなりました。きっと彼に必要だったのは、障害の克服や治療ではなく、対等に接してくれる人ではなかったのかなあと思いましたね。

物語を通じて描かれた天体やプラネタリウムについての話は、地球が自転と公転を繰り返しているがゆえに一度として同じ日はなく、新しくやってくる朝も常に新しいっていうのは、生きづらい日々を前向きに捉えるためのメッセージかなとも受け取れて素敵な話だなと感じます。

<人は見かけによらず>

この映画で印象深いのはメインの2人だけではありません。栗田科学の社長である栗田和夫(光石研)と、山添くんの前職の上司である辻本憲彦(渋川清彦)、彼らは藤沢さんや山添くんに理解がある心優しい人たちですが、実は彼らもまた心に大きな傷を負った立場でもあるんです。普段接しているだけではそんなの微塵も感じさせませんが、劇中でとあるセラピーに通っているシーンを観て、自分の身のまわりにも人には言わないけれど、心に傷を負っている人がいるかもわからないなと思いました。彼らは自分も傷ついている分、藤沢さんと山添くんに優しくできるのかもしれませんね。

<そんなわけで>

障害を治すでもなく、乗り越えるでもなく、向き合っていく映画です。無理せず自分のペースで、まさにリハビリのような感じかなと。自分の性格が歪んでいるのか、映画を観ている最中に何度も「ここでまさかの事故か?!」、「この流れで誰かぶん殴るか?!」などと安易なトラブルを期待してしまいましたが、そういうのがなくても楽しめる内容でした。それにしても、前々から思っていましたが、松村北斗は本当にいい演技をしますね。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?