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人が変わるには、"期限を設ける"ことと"誰と出会うか"ってことが大事だなと思った『生きる LIVING』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:30/51
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Living
  製作年:2022年
  製作国:イギリス
   配給:東宝
 上映時間:103分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:映画『生きる』(1952)

【あらすじ】

1953年。第二次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ(ビル・ナイ)は、今日も同じ列車の同じ車両で通勤する。ピン・ストライプの背広に身を包み、山高帽を目深に被ったいわゆる“お堅い”英国紳士だ。

役所の市民課に勤める彼は、部下に煙たがられながら事務処理に追われる毎日。家では孤独を感じ、自分の人生を空虚で無意味なものだと感じていた。

そんなある日、彼は医者から癌であることを宣告され、余命半年であることを知る――。彼は歯車でしかなかった日々に別れを告げ、自分の人生を見つめ直し始める。手遅れになる前に充実した人生を手に入れようと。

仕事を放棄し、海辺のリゾートで酒を飲みバカ騒ぎをしてみるが、なんだかしっくりこない。残酷にも、病魔は彼の身体をどんどん蝕んでいく…。

ロンドンに戻った彼は、かつて彼の下で働いていたマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に再会する。今の彼女は社会で自分の力を試そうとバイタリティに溢れていた。そんな彼女に惹かれ、ささやかな時間を過ごすうちに、彼はまるで啓示を受けたかのように新しい一歩を踏み出すことを決意。

その一歩は、やがて無関心だったまわりの人々をも変えることになる――。

【感想】

1952年に黒澤明監督が世に出した名作『生きる』。本作は70年以上の時を経て作られたそのリメイク作品です。結論から言ってしまうと、個人的にはオリジナル版の方が圧倒的に好きでしたね。以下、理由を踏まえて感想を書いていきます。

<尺が短くなってスッキリした分、物足りなさがある>

リメイクなので、当然細かな違いはありますが、ストーリー自体は同じです。でも、今回特筆すべきは上映時間ですね。オリジナル版が143分なのに対して、今回は103分。実に40分も短くなっているんですよ。けっこう省いたなって思いますけど、話がガラッと変わるわけではありません。例えば、冒頭で市民が公園を作ってくれと要望を出しに来るシーン、オリジナル版では10個ぐらいの部署をたらい回しにされますが、リメイク版では3~4個ぐらいでしたかね。次に、主人公が仕事をサボって飲み歩くシーンも、オリジナル版では7~8軒はしごしていますが、リメイク版では3~4軒に減っています。本筋には直接関係しなそうなところを削ぎ落としてスッキリさせたんでしょう。

それだけならよかったんですが、主人公と家族のやり取りも減ってしまって、彼と女性の部下との関係を家族が怪しんだり、息子から遺産相続の話を持ち出されてショックを受けたりといった、家族との関係があまりうまくいっていない部分もなくなってしまいました。また、主人公が公園建設のために奔走するシーンも減っており、スッキリした反面、ちょっと物足りない印象を受けてしまいました。まあ、あくまでもオリジナル版と比べてっていう話なので、オリジナル版を観たことない人には関係ないんですけどね。

<人が変わるには何が必要か>

この映画を観て僕が思ったのは、人が変わるために必要なものを教えてくれているんじゃないかってことです。それが、"期限を設けること"、そして"誰と出会うか"という2つなんじゃないかなと。

今作の主人公であるウィリアムズは長年役所勤めをしているんですが、今はもう事務処理を繰り返す毎日で、変わり映えのない退屈な日々を過ごしています。そんな彼が、胃がんによって余命宣告を受けたことで、「果たして、自分はこのままでいいのだろうか」とこれまでの人生を見つめ直すことからすべては始まります。

そんなとき、若くてバイタリティ溢れる部下のマーガレットに感化されるんですよ。彼女はつまらない役所を辞めて、自分の夢を追ってカフェに転職します。その行動力や活き活きとしたオーラを見て、ウィリアムズはかねてより市民から要望のあった公園建設に乗り出します。今までゾンビのように生きていた彼がいきなりやる気を出すもんだから、まわりはびっくりですよ。
役所は利害関係が複雑に入り組んでいるんですが、ウィリアムズはそんなこと物ともせずに邁進して行きます。

ウィリアムズがここまで変われた一番の要因は、やっぱり"期限"があったからだと思うんですよね。それも"命の期限"という人生で最も大きな意味を持つ期限ですよ。残り少ない時間を目にしたとき、「今やらなきゃ」っていう意識が強く働いたんじゃないでしょうか。実生活でもそうですよね?僕は大学受験で一浪してるんですが、泣いても笑っても1年後にまた受験があるいうのは、期限が1年しかないということでもあります。だから、すごく危機感を持って勉強できたなってのを今でも覚えています。会社に入ってからも、調べものだったりプレゼンの準備だったり、けっこう短い締め切りのときがあるじゃないですか。そういうときもやっぱりやる気が出るというか、「やらなければならない」という焦燥感に駆られますよね。それが、ウィリアムズにとっては命だったんですよ。もちろん、死んだら死んだで終わりですから、すべてあきらめてのほほんとするのもひとつの生き方だとは思います。でも、ウィリアムズは「最後にちゃんと生きた」と感じて死にたかったんですよね、きっと。

そして、"誰と出会うか"ってのも大事な要素です。ウィリアムズが変わるきっかけは、マーガレットに影響されてですからね。彼女と出会わなければ、ウィリアムズはここまで変わろうという気にはならなかったかもしれません。現実でも、身近な人でも有名人でもいいですが、他人に感動させられると、自分もやってみたいって思うときがあるんじゃないでしょうか。「自分もやってやる!」って。まあ、多くの人は瞬間的にそう思っても、一晩経つと忘れてることがほとんどだと思いますけど。現に、ウィリアムズの同僚たちだって彼に感化されて、「彼の意志を継ぐ!もう仕事を後回しにしない!」なんて声高らかに宣言しますけど、結局翌日になったら元のまんまでしたから。ウィリアムズががんばれたのは、命の期限があったからでしょうね。"期限"と"人との出会い"、この2つがウィリアムズが変われた2大要因だと僕は思っています。

<本作を観てわかるオリジナル版のすごさ>

本作は素晴らしい映画でしたけど、個人的にはやっぱりオリジナル版の方が圧倒的に好きですね。それは、市役所が舞台ってことで、日本人から観た日本の市役所の方が馴染みやすいっていうのももちろんあります。でも、一番のポイントは主人公の渡邊を演じた志村喬さんの演技ですよ。瘦せ細って弱々しく、生きる意志をまるで感じないあの雰囲気。死を目前にした男が放つ不気味とも言えるぐらいの異様なオーラ。あれがあってこそ、主人公の孤独や後悔、そして最後にやり切ってやるという気概を感じるんですよね。こんな役者さん、今の日本にいないんじゃなかってぐらい圧倒されます。尺は長いですけど、その分キャラクターがしっかり描かれており、ここまで人間を描いたヒューマンドラマないんじゃないかってぐらい見ごたえがあります。

<そんなわけで>

死期が迫った男が、タイトル通り「生きる」ことに命を燃やす様子が印象深いヒューマンドラマです。ラストもオリジナル版とは違ったアプローチで、つまらない人間になってしまったなと感じる人々に、そこから脱却するためのヒントを与えてくれるのでタメになります。が、やっぱりオリジナル版の方が素晴らしいので、死ぬまでにぜひそちらを観ていただきたいです、、、!


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