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少女文学第1号に寄せたい回顧録

先日のCOMITIA128で発行された紅玉いづきさん編集の少女文学第1号を読んだ。

デビュー当時から延々と、長い人では10年少々追いかけ続けている作家が複数参加されていることもあり、友達に入手を頼んだ。

「あなたの愛した少女小説をください」という依頼の下集まった様々な物語がどれも素晴らしくて、こんなに安価で読めていいのかという感じだ。内容は「現代舞台の中学生と少女小説」みたいなものから「商業では書きにくい物を書いた」という前振りの通り地獄を煮詰めたような少女の物語や、姫嫁、これ続きくださいと言うものが山ほどある。当たりを引き続けられる雑誌みたいな同人誌だ。

私の感想はここに書いたのでこれを読んでください。

物語だけかと思えばエッセイも収録されている。本に対する真摯な姿勢が伝わる名エッセイだ。
「初めて読んだライトノベル」の話はよくするんだけど、転機となった小説の話はあまりしないのでここではその辺を語りたい。

「少女小説」というと古くは吉屋信子までさかのぼったり氷室冴子に言及されたりするけど、私が長らく読んできたのは「少女向けライトノベル」とも呼ばれる一群だ。小学校時代に読んだのは小林深雪作品で、そこから数年経って高校の時に野梨原花南作品で再入学した。

地方で文化的な刺激が少ない土地に育って、指標とする人がいなければガイド本もなく、「図書館でございます」というところもなかったので、小学生では図書館でこれぞと思ったものを読みふけって過ごした。中学生では漫画もたくさん読んで、高校の図書館で他の本棚とは違う別置きされていた180cmぐらいの高さのスチールの本棚を見たときの、あの宝の山を見つけたような感覚を今でもしっかり覚えている。


野梨原花南作品に出会ったのはその本棚かというとそれはまた違う。
高校1年の夏休みの事だ。夏休み補習の1限が珍しく無い日で、冷房がかかっている図書室へ友達と行った。ちなみに彼女が小野不由美といろんな本と出会うきっかけになった活字倶楽部の輸入元だ。
「最近面白い本があって……ちょーシリーズって言うんやけど」と切り出した友達に私はこう尋ねた。
「ちょう? 蝶々のちょう?」
「いやコギャルのちょー」

突然古語を飛び出させてしまったが、私が女子高生だったころは職員室の前に1台だけあった公衆電話でポケベルを打っていたような時代だ。藤井みほなのGALSを読んで「東京には渋谷というところがあって女子高生がいっぱいいるらしい」と東京というファンタジーを見ていた。その時の名残か、東京が比較的近い存在になった今でも、推しのギターを拝むという名目で上京するたびに渋谷には行っているが「東京は二次元」という感覚が抜けない。


その時はチャイムが鳴ったこともありそれで話が終わったのだが、本屋で偶然平台でその本と出会ってしまったのだ。

ちょー美女と野獣 野梨原花南/コバルト文庫
この本で再び少女向けライトノベルに戻ってくることになった。
友達が薦めたのから買ったのかというとそれは全然違う。
「表紙を宮城とおこが描いている」という事実が当時の自分として何よりも重要だったのだ。

中学生の私の愛読雑誌のうちのひとつにファンロードがあった。
今でいうPixivとtwitterをオフラインに落とし込んだみたいな、熱量しかない雑誌だった。あんな雑誌はたぶんもう生まれないと思う。創作から2次までたくさんのイラスト、フリートーク、柱の部分までびっしり埋められたコメント。生きていく上では知らなくても全く困らないあれこれ。でもあれが毎月のお楽しみだった。
その中で出会った宮城とおこさんの繊細なイラストがとても好きだった。平たく言うと神絵師だった。掲載されていたイラストは切り抜き、カラーピンナップがついていたときは拝んで何度も見た。

ファンロードは一部連載ページはあったが、あくまで基本は投稿雑誌だ。定期的な供給があるわけではなかった。
それがこんなにも「宮城とおこが描いてるイラストが載っている本がある」と色めきだった。
当時の最新刊はちょーテンペストだったと思う。おこづかいでちまちまと買っていった。

高校ではたくさんの小説と出会いたくさん読んだ。「沼にはまった」というよりは「洞窟を掘り進む」に近い。
記録に残っている限りでは494冊読んで感想を書いた。

それが勢いを増して少女小説おすすめエントリを書いた。

このエントリはこの後数回カテゴリを変えて続いた。そしてなければ作ればいいの勢いで「このライトノベルがすごい!」ならぬ「この少女小説がすごい!」という本を2冊同人誌で出した。本職の方々にもかなり好評を得たようだった。


ここ数年はいろいろあって本を読む筋肉が衰えていたが去年ようやくコンスタントに読めるようになった。
少女向けライトノベルは今レーベルが少なくなっていてて、わたしの少女小説の入り口となった老舗のコバルト文庫も事実上終了したようなものだ。私が読んでいた時から現役といえばビーンズ文庫・講談社X文庫ホワイトハート・ビーズログ文庫・一迅社文庫アイリス・ウィングス文庫だ。
少なくなったとはいえ最近は少女向けライトノベルで活躍した作家・発行されていたような作品がライト文芸で刊行されるようになったのでそちらでおつきあいは続いている。
沼にはまり続けているというより洞窟を掘り進んでいたらいつの間にか新しいところに繋がっていたようなものだ。
文字が読める限りはこの洞窟を掘り続けて何かしらとつきあっていたい。


ここまで書いておいて何なので洞窟を掘り進めて見つけた良作を2作ほどご紹介する。

金星特急/嬉野君
完結済み。現在月1で電子書籍刊行中。
一応現代地球・日本がスタートの地だけど今とはまた違う別の歴史を辿った感じの日本。たとえば「都立高校」「東京駅の八重洲口」なんかがあるけどまだ赤線や日本から他国への橋が存在する。「漢字」は飾りであり記号で模様だ。
「金星」が花婿探しをしているという。見事婿に選ばれればこの世の栄華は思いのまま、という触れ込みで物語ははじまる。
金星は国籍不明・正体不明・ある日忽然と現れた美女だ。花婿の条件は一つ「生殖可能な男子」
「金星の元へ連れて行く」という金星特急と花婿募集ポスターがギリシャに現れて8年、世界各地にその特急列車は現れて一定期間ののち沢山の男を乗せて消えた。誰ひとりとして帰らない。追いかけたヘリコプターなどもすべて消えた。自殺特急便といえるその金星特急に乗り込んだ錆丸・砂鉄・ユースタスの話である。
とてもいい冒険ファンタジーです。一時は何か面白い本がないかと聞かれたらすべて「金星特急を読んでくれ」と答えていました。

死神執事のカーテンコール/栗原ちひろ
1冊ぐらい少女文学に参加されている作家から1冊選ぼうかと思って、せっかくだから5月刊を選んだ。
主人公の猪目空我は少年探偵役で人気を博した子役崩れのイケメンで自称名探偵で筋トレ大好きの筋肉バカで、古い屋敷の一角を借りて探偵事務所を開いている。ここには古式ゆかしき執事とお嬢様が住んでいるのみだ。
タイトルにもなっているのでこれはネタバレにはならないけど、この執事は、死神だ。死にゆくものに乞われた場合「カーテンコール」で3回だけ現世によみがえることができる。というても死者がよみがえるちょっといい話系ではない。ヒーリングファンタジーを歌いそうな作品にはあんな冷蔵庫出てこない。私が好きなものは冷蔵庫だ。読めばどんな冷蔵庫か分かる。あの冷蔵庫はロマンの塊。

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