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メタルにメがないメタ子さんがとにかくメんどくさい!(第三鉄)

第三鉄: EAT THE RICH

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Yukke さんご提供のイラスト

https://twitter.com/__yukke000___

翌日。メタ子さんによるフジ子の洗脳は解けているようで解けていなかった。

「おはよー、邦ちゃん!昨日は散々だったねー。蛇野さんにヘビメタの部活に無理やり入れられちゃうし…でも、蛇野さんに無理やり押しつけられた CARCASS ってバンドのハートワーク…だっけ? 昨日、一晩中聴いていたら…地獄のようにうるさいんだけど、時々メロディーかグッとくるのよね…アメとムチっていうの?フジ子…なんだか潤っちゃった…」

パンツが何枚あっても足りないな、このメスブタが!という言葉をやっとのことで飲み込んで、フジ子の言葉に同意する。

「そうなんだよね…たしかにメタ子さんは超強引だけど、ヘビメタってそんなに悪いものじゃない気がしてきたよ…今日は部活申請を出しに行くと言っていたけど…」

「ハイル・トゥ・メトゥー!」

メタ子さんの登場はいつも突然だ。なにか両手で武藤敬司のようなポーズをしているけど、僕は彼女の限りなく白くて繊細な二の腕に目を奪われてしまった。シャイニング・ウィザードでも繰り出すのだろうか?言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ。

「かわいいー!蛇野さん、それはなに?キツネさんかニャ?コンコン…コンセプション!」

フジ子がたずねると同時に、メタ子さんの骨十字がおっぱいとおっぱいの狭間に突き刺さる。

「六音さんといったかしら。ロキノンさんだったかしら。それともコールド・プレイさん?とにかく、このポーズをキツネだなんて、エキノコックスもいいところよ。これは、メロイック・サイン。デヴィル・ホーンやコルナとも呼ばれているわ。一般的に、歌聖ロニー・ジェイムズ・ディオが広めたとされているわね。悪魔のツノのジェスチャーをすることで、悪運や邪視から身を守るという意味があるそうよ。メタルヘッズにとってこのポーズはほとんど呼吸。息をはくようにメロイック・サインを掲げてこそ、真のメタルファンね!ちなみに、親指は折り込んだ中指と薬指の上が正解よ。では、いくわよ。メトゥー!」

「メッ、メトゥー…」

「もっと堂々となさい。もう一度。ヘヴィ・メトゥ…サンダーーー!!!」

「ヘッ、ヘヴィ・メトゥ・サンダーーー!!!」

他の生徒たちからの視線が痛い。入学早々、僕の学院生活に終了のお知らせが届いてしまった。理不尽すぎる。

「ふっ、二人とも!早く部活申請を出しに行こうよ!」

「あら…いたの、邦楽くん。00年代の QUEENSRYCHE くらい影が薄かったからいないのかと思っていたわ。ちなみに、近年ではクイーンズライチではなくクイーンズライクと呼ぶのが一般的よ。まあいいわ、行きましょう」

女王さまのライチ?一つ一万円くらいする高級果物か何かなのだろうか?とにかく、僕たちは職員室にむかう。

「失礼します。部活申請を出しに来たんですが…」

「Oh! 邦楽くん。部活申請なら私が担当デース!」

担任のアリッサ先生が担当なら話ははやい。外国人だけど日本が気に入って、英語の教師をしているらしい。気さくで優しく美人だけど、いつもちょっとエッチな格好をしている。

「では、ヘヴィ・メタル・シンジケートの申請をお願いします。部員は今のところ、僕と蛇野メタ子、六音フジ子の3人だけなんですが…」

「ファック…」

ヘヴィ・メタルの言葉を耳にした瞬間、アリッサ先生の瞳が怪しく光り、放送できない言葉が口から放たれた。

「えっ…先生?!アリッサ先生?」

「HaHaHa!!! ついにこの時がキマーしたね!我が学院のダーク・インサニティーが終わる時が!埋葬されていた天使がシルヴァーウィングで羽ばたくのデース!」

もうこの学院やめたい…しかし死ぬほど努力して入った高校だ。とにかく事情を聞いてみる。

「先生…どういうことなんですか?」

「スイマセーン。トリミダシマーシタ。かつてこのタカマツ・シティーと鋼鉄学院はヘヴィ・メタルの聖地デーシタ。生徒のほとんどがヘヴィ・メタルを愛し、メタルの夢に生きていたのデース!ところが、デース!邦楽やロキノン、サブカルのシャレオツな魔法は徐々にこの鋼鉄学院を蝕んでイキマーシタ。そして、ヒップホッープや EDM の登場がダメ押しとなりマーシテ、ヘヴィ・メタルはこの街と学院から駆逐されてしまったのデース!あなたたちのようなメタル・ウォーリアーをまってイマーシタ。ぜひこの学院、そしてこの街にヘヴィ・メトゥーを復活させてほしいのデース!!」

凍狂の高校を受ければよかったという後悔が押し寄せてくる。

「先生…それで…ヘヴィ・メタルがこの街や学院にないと何か困ることでもあるんですか…?」

「U.D.O.N…」

「U.D.O.N...??」

「あなたたちは気づいてマーシタカ?最近、この街のウドーンの質が落ちてきているコトーニ。ウドーンの生産にヘヴィ・メタル・ミュージックはかかせないものなのデース!これ以上ウドーンの質が落ちれば、この街の人々が、ひいては日本や世界の人々が闇落ちしてしまいマース!ウドーンは皆のパワーのミナモトなのデース!」

うどんの質が落ちると闇落ち?!完全に初耳だし、完全な陰謀論ではないのだろうか?

「では、ショウコをお見せしまショー」

といってアリッサ先生はおもむろに綿棒を取り出した。

「ミュージック、カモーン!サンダーーーー・スティーーーーール!!!」

ラジカセから爆音でヘビメタが流れてくる。狂気のような高速高音に圧倒される。と、先生はこの高速高音に見事にシンクロして、うどんを打ち始めたではないか!壮絶な速さ、壮絶なテクニック。力加減やタイミングも完璧。まさに匠の技。

「ドウデスカ?ヒップホップやロキノンでは、こうはいかないのデース!世界中にウドーンを輸出するウドーン・ショップの大将たちは、かつてはみなこうやってウドーンを打っていたのデース!今、裏の仕掛け人たちは、ピザやラーメンで大儲けデース!」

「ふふふ。はーっはっは!面白くなってきたわね。いいでしょう。私たちヘヴィ・メタル・シンジケートにお任せあれ。必ずや、この学院、この街を再びヘヴィ・メタルで溢れさせてみせますわ!成金をぶっこわーす!」

「封印を!封印を解いていくのデース!忌まわしき者たちに幽閉された7人のメタル・レジェンドたちの封印を!7つの鍵を集めるのデース!セブンス・キーズを!」

ヘヴィ・メタルは今くらいの人気がちょうどいいのではないか…そんな僕の心とは裏腹に、メタ子さんはやる気満々だ。

「やる気満々だね…」

「やる気といえば、やる気!元気!ティモ・トルキ!メロディック・パワーメタル伝説の一つ、STRATOVARIUS の元リーダーでギタリストよ。可憐な女子高生の口からはちょっと言えないようなことがいろいろあって、今はバンドから追い出されているわ。だけど、Timo Tolkki's STRATOVARIUS なる怪しげなバンドを立ち上げて南米を回る逞しさも持ち合わせているの。あなたには、彼のメロディー・センスも逞しさもまったく備わっていないでしょうけど」

可憐な女子高生はヘビメタを聴かない!と叫びたいのをこらえながらたずねる。

「でもさ…具体的にどうやってヘヴィ・メタルを取り戻すのさ?僕もフジ子もヘヴィ・メタルにかんしてはズブの素人だよ?」

「大丈夫よ…そのためにこれがあるの…」

そう言いながらメタ子さんはツルっとした雑誌のようなものをカバンから取り出した。

「ザ・ワールズ・ヘヴィエスト・ヘヴィ・メタル・マガジン…BURRN! よ!!」

世界で最もヘヴィなヘヴィ・メタル・マガジン…だってて…? 重すぎでは…? なんでRが二つあるんだ…?燃えすぎでは…? 表紙には長髪の禍々しい男たちが写っている。こんなものレジに持って行って大丈夫なのだろうか…捕まりはしないだろうか…

「1984年創刊。40年近く続く、世界最大の実売数を誇るモンスター・ヘヴィ・メタル専門誌よ。とにかく、この雑誌を読んでおけば、メタルについて知らないことはなくなるわ。ビッグなバンドのインタビューから、ディスコグラフィー、新譜のレビューまで膨大な情報量よ!」

メタ子さんから BURRN! を受け取り、パラパラとめくる。なんか、思っていたより写真とかもカッコいい。でも気になることがあった。

「ねえ、メタ子さん…その…載ってるのオッサンばっかりジャギュレイター!」

メタ子さんの細長い指が艶かしく握る骨十字が、僕の股間を直撃する。オッサンの過積載に対するこの上ないご褒美だ。今度は、パラパラとめくっていたフジ子が口を開く。

「ねえ、蛇野さん…いろんな人が訳知り顔で点数をつけているけど、この人たちは音楽や楽器の達人なノストラダームス!」

メタ子さんの骨十字がフジ子の股間を乱暴にまさぐる。スカートがめくれあがり、紫と白のシマシマ・パンティーが丸見えだ。完全に警察案件だ。メタルは治外法権なのだろうか?

「そういう意味で、信用できるのはやっぱり、前田さんね。もともとベーシストだし、色気と男気があるし、何よりメロデスやゴシックメタルの "慟哭" を紹介した功績は実に偉大だわ。とにかく、バックナンバーはすべて家に揃っているから今から取りにきなさい」

メタ子さんの家…いろんな意味でドキドキするな…そうして僕たちは彼女の家に向かったんだ。









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