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メタルにメがないメタ子さんがとにかくメんどくさい!(第四鉄)

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イラストは Yukke さんにご提供いただきました。

https://twitter.com/__yukke000___

第四鉄: Flesh & Blood

7つの鍵を集めてヘヴィ・メタル・レジェンドを解放し、街にヘヴィ・メタルを取り戻す。そんな重要なのか重要じゃないのかよくわからない目的のために、僕とフジ子はメタ子さんの家でヘヴィ・メタルを学ぶこととなった。

「うわーー!大きいねえ!」

フジ子が感嘆と共に見上げるその先には、洋風の大豪邸が聳え立っていた。いや、むしろ城じゃね?

「ふふふ。はーっはっは!ようこそ、我が家へ!RAINBOW が "Long Live Rock N' Roll" のレコーディングに使用したフランス17世紀のシャトーを模して造らせたものよ。ショパンも使ったことがあるらしいわ。もちろん、幽霊が出るところまで完全再現よ!さあ、皆でバビロンの城門をくぐるのです!王を殺せ!」

ゴキブリでも漏らすフジ子がしがみついてくる。肘がパイとパイに挟まれてπr2である。完全にお漏らし待った無しだ。なぜ幽霊が出るところまで完全再現しなければならなかったのだろうか?普通に住みづらいと思うのだが。

「メタ子さん、なぜかこの家のまわりだけコウモリが飛んでいるんだけど…」

「オジーがコウモリの首を噛み切ったエピソードも知らないとは、本当にあなたは煩悩のかたまりね。おおかた、コウモリを見るフリをして私のウナジばかり眺めていたのでしょう?後れ毛が好きなのかしら。変態ヘアメタラーなのかしら。汚らわしい!コウモリどころか私の首を噛み切るつもり?」

帰りたい…

「お嬢様、お帰りなさいませですニャ」

そこには、鋲つき革ジャンにネコTネコ耳の酔狂なオッサンと、やはりネコ耳とレザーのメイド服に身を包んだかわいらしい少女が立っていた。

「ロブ爺、セレナ、ただいま帰りました。紹介するわ、ウチの専属メタル執事とメタルメイド、ロブ爺とセレナよ。メイドの仕事はもちろん、メタルにも果てしなく精通しているのよ」

「邦楽様、六音様。お話は聞いておりますニャ。ヘヴィ・メタル、それは宇宙。そしてネコ耳。それもまた宇宙。この場所で存分に学んでいかれるが良いでしょう」

「セレナだよー!おねいちゃん、オッパイ大きいねえ。私と同じくらいかニャー。ちなみに、オッパイも宇宙だニャー!」

家に入ってもいないのにもう帰りたい。星野源を聴きながらガッキーを存分に眺めたい。しかし、そんなささやかな願望さえ満たされることなく、僕たちはメタ子さんのメタル・キャッスルに吸い込まれていった。

「おかえりなさい、メタ子」

玄関で待っていたのは、優しい眼差しの美しいマダムだった。服装も上品だがいたって普通。やっと普通の人に出会えたと安堵する。

「お母様、ただいま帰りました。お友達の邦楽くんと、六音さんよ」

「はじめまして。まあまあ、メタ子がお友達を連れてくるなんて初めてじゃないかしら。うれしいわぁ。しかも男の子まで。メタ子のアソコは、ブラインド・ガーディアンのような鉄壁の守りで傷一つついていませんからね。大丈夫、大丈夫」

今なんてった?

「お母様、やめてください!ハンズィかしい…鉄壁のブラインド・ガーディアンだなんて…今日はみなさん、ヘヴィ・メタルを学びにきたんですよ」

意味はよくわからんが、メタ子さんがマジ照れしている姿はたしかに趣がある。その刹那。メタルの言葉にお母さんの、いや日本最高のメタルシンガー蛇野マリの顔色が豹変した。

「おうおうおう!クソガキども!メタルを学びにきただとー?!まさかとは思うが、生半可な気持ちじゃなかろうな?メタル道舐めとったら、この蛇野マリがギッタンバッコンにして地獄 Makin' Love の舐めダルマ喰らわしてやんぞ?!あぁん?」

もうね、帰りたい。ヘヴィ・メタル、変な人しかいない。

「奥様、落ち着いてくださいニャ。お二人は経験こそ浅いものの、その気持ちは本物ですニャ。あの7つの鍵を集めて、メタル・レジェンドを解放するためここにいらしているのでございますニャ」

地獄にネコ耳メタル執事。助かった。マリさんの表情がみるみる和らいでいく。

「あら、失礼しました。ゴメンなさいねー、メタルのこととなるとついついアツくなってビショビショになっちゃうの。メタ子と7つの鍵を集めてくださるなんて…なんてうれしい日なんでしょう。お赤飯炊かなくちゃ。大丈夫よ、経験が浅くたって、ヘヴィ・メタルはみんなのものだから。大丈夫、大丈夫。経験が浅くても、そういうことはカラダが勝手にヘヴンズ・ゲートを突き抜けてモアヒステリアするものだから。大丈夫、大丈夫。あら、いやだ。お赤飯二回も炊かなきゃいけないわね」

「もー!お母様は、サシャ・ピート、サシャ・ピートうるさいのよ。恥ずかしい…私の部屋にいきましょう」

「メタ子さんが照れるなんてめずらしいね…なんだか新鮮ダリズジレンマ!」

マジ照れしているレアメタ子さん。なんだかかわいすぎてついからかってしまった。その瞬間、アレ (ドンキで買ったプラスチックの骨を組み合わせて自作した骨十字架) がミゾオチにぶっ刺さる。

「はっはっは!新鮮と言ったかしら?フレーーーーッシュ!フレッシュといえば、POISON のサード・アルバム "Flesh & Blood" で決まりね!ポーザーやら化粧バンドやら言われたい放題だし、実際その演奏、特に C.C. デヴィルの冗長なギターソロら褒められたものではなかった。しかーーし!このアルバムは700万枚ものセールスを達成したの。あなたのような "偽物" に、こんな偉業が達成できるかしら?しかも彼らは、あのブルース・フェアバーンと組みながらも、BON JOVI やエアロのように外部ライターを起用することは一切なかったの。独力で、これだけバラエティーに富んだアルバムを生み出したのね。立派よ!!!ケミストリーというものが、演奏力、作曲力だけで測れるものではないというのは、リッチー・コッツェンを迎えた "Native Tongue" がリッチーのギターと声を聞くだけのアルバムになっていることからも明らかよ。ちなみにコッツェンがメンバーの女を寝取った云々の噂もあるけど、あなたのようなフツ面空気男には関係のない話ね」

「そっ、それで、その POISON というバンドは、今でもあるのかナイアシン!」

何も悪いことなど言っていないのに、メタ子さんの骨は無情にもフジ子のおしりをケツバットする。しかし、なぜか恍惚とするフジ子。これが部活だったら、いや部活なんだけど、スッキリ生出演待った無しの大問題だ。

「POISON のスゴいところは、モトリーや LEPPS という百戦錬磨とのスタジアムツアーで、今喝采を浴びているところなの!あまりにカッコいいので、ブレット・マイケルズのバンダナが再評価され、本人が結び方の動画をアップしたくらいよ!まあ、あなたにはチチバンダナくらいがちょうどいいでしょうけど」

「チチバンダナ…わたし、ブラジャーやめる…チチバンダナにする…」

ケツを叩かれながらうわ言のようにチチバンダナ、チチバンダナと呟き恍惚とするフジ子を置いて、僕はメタ子さんの部屋に入った。

「ふふふ、どうかしら?気に入ってもらえたかしら?」

一面に広がるヘヴィ・メタルの CD、レコード、そして書籍。所狭しと貼られたイカついバンドたちのポスター。素人目にも伝わる豪華な音響設備と高そうな楽器群。そう、ここは (その筋の人にだけはたまらない) ヘヴィ・メタル・パラダイスだ!

「すっ、すごいね…でも凄すぎていったいどこから手をつけていいのかわからないよ…」

「ふふふ…はーっはっは!そう、ヘヴィ・メタルのアーカイブスは膨大!まさにメタル・イズ・フォーエヴァー!しかーし!ここにワールズ・ヘヴィエスト・ヘヴィメタル・マガジン Burrn! のレビューだけをまとめた本があるわ。まずは、ここで90点以上のものを片っ端から聴いて、バンドとその歴史を覚えるまで、あなたたちは帰れまテン!」

いくらかわいく言ってもダメだぞー!拉致監禁罪だぞー!しかし、ふと部屋を見回すと、黒くて暗くてグロテスクな室内に、なぜか黒猫のぬいぐるみやグッズが散見される。ロブ爺とセレナもネコ耳だった。もしかして…

「もしかして、メタ子さんってモフモフでスンスンなネコが好きなノクターナルライツ!?」

メタ子さんが顔を伏せながら鼻の穴に骨を突っ込んでくる。明らかに動揺している。かわいらしい!

「ねっ、ネコと言ったわね!ネコ!キャット!キャットといえば、THE GREAT KAT 様ね!その SM 的なイメージと今にも噛みつかんばかりの表情で完全にイロモノ扱いされているけど、実はあの名門ジュリアード音楽院を卒業したヴァイオリニストでもあるの。ゆえに、ギターの最高速は界隈随一。本人はベートーベンの生まれ変わりだと主張してるわね。OBSCURA のような音楽を先取りしすぎたといえば褒めすぎかしら。血まみれの KAT 様が無理な人には完全に無理な "Bloody Vivaldi" は紛うことなき名盤よ。今にも噛みつかんばかりの表情だけど、KAT は本名のキャサリンからとったもので、ネコは関係ないわ。そして私もネコは関係ないわ!」

すると、メタルメイドのセレナがスルスルと寄ってきてメタ子さんの膝にペタンと顔をのせる。

「ふふふ。お嬢様は三度のメタルよりネコが好きなんだニャ。でも重度のネコアレルギーでネコが飼えないから、セレナやロブ爺にネコの格好をさせて時々愛でているんだニャー。10歳くらいまでは、魔女になってネコとホウキで宅配するのが夢だったニャー」

メタ子さんの透けるような白い顔が真っ赤に染まる。

「もー!もー!もー!別にいいでしょ!ネコが好きだって!メタル・ミュージシャンだってネコ好きは多いのよ!ネコを抱いたメタル・ミュージシャンの写真集だってあるくらいなんだからね!もー!もー!もー!」

駄々をこねるメタ子さんがメガかわいい。こういうメんどくささなら大歓迎なのだが。

「取り乱してしまったわ…いいわ、あなたたち!今日は泊まっていきなさい!みっちりメタル道を仕込んであげるわ!」

「ゆっ、幽霊が出るんだよね…どうしよう… メタ子さんにも KAT 様にもいじめられてフジ子潤っちゃう…」

それただのお漏らしだから。そうしてメタル・キャッスルでの夜がふけていく…






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