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メタルにメがないメタ子さんがとにかくメんどくさい! (第二鉄)

第二鉄: GYPSY POWER

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Yukkeさんご提供のイラスト https://twitter.com/__yukke000___ 

「邦ちゃーん、もう部活決めたー?」

六音フジ子。僕の幼なじみだ。いわゆるロリ巨乳だ。あどけない顔と低身長、そして青春ポニーテールにまったくそぐわない破壊力満点の胸が凶悪。中学では吹奏楽部でチューバを吹いていた。巨乳はチューバを吹くな。目のやり場に困る。

「う、うん…ヘヴィ・メタル・シンジケートに入ることになったよ…」

「ヘヴィ・メタル・シンジケート?!」

当然の反応だろう。まだできてもいない部だし、そもそも僕とヘビメタなんて最も遠い存在だったんだから。

「うん…なんか成り行きでね…隣の席の蛇野さんに誘われちゃって…」

とはいえ、メタ子さんから借りた GN'R の "Appetite for Destruction" に僕は衝撃を受けていた。普段はもっぱらストリーミング&イヤホンで音楽を聴いているんだけど、CD&スピーカーというアナログな視聴環境もあいまって、ハードロックの破壊衝動とかエナジーがダイレクトに伝わってきた。ストリーミングの時ように楽曲やギターソロをスキップすることなく、最後までノンストップで聴けてしまった。つまりは、悔しいけどメタ子さんの思惑通りということだ。

「それって、ヘビメタ?の部活なの?蛇野さんってあの骨持ってウロウロしてる人でしょ…邦ちゃんってヘビメタなんて聴いてなかったよね…どうしたの?大丈夫?世の中に強い不満があるの?モテの格差社会に嫌気がさしたの?おねいさんでよければ相談に乗るよ?…それでね、悩みが解決したら私とロキノン部を作りませんか?」

そう、六音フジ子は根っからのロキノン信奉者。小3の時に運動会のダンスで踊った RADIOHEAD の "High and Dry" で開眼し、洋ロックに没頭。座右の銘は、ロックとはアートなり。今は MUSE が一番好きなバンドらしい。僕にも洋ロックをことあるごとに勧めてくるけど、英語はなんか歌えないイメージがあって敬遠していた。あと、モテの格差社会にはたしかに嫌気がさしているが余計なお世話だ。

「うん、あの骨持ってウロウロしている人…いや、たしかにヘビメタは喧しくて不気味で不道徳なイメージがあるけど、聴いてみたら結構良かったりもするんだよね…最近だと、あのストレンジャー・シングスでも大々的にフィーチャーされているし…」

なんで僕はヘビメタを庇っているのだろう…そう思った刹那だった。

「邦楽くん、こんなところで何をしているのかしら?ヘヴィ・メタル・シンジケートの部活申請を出しに行かなければならないのだけど」

今日も実に神々しくも不吉な出で立ち。メタ子さんは本当に美しいけれど禍々しい。そういえば、部活申請を出しに行く約束をしていたんだっけ。

「本当にあなたはポンコツで冗長ね。POISON の C.C. デヴィルのギターソロくらい冗長だわ。ところで、そちらはどなたなのかしら?」

C.C デヴィル。悪魔か何かだろうか。とりあえずディスられたのだけはわかる。

「彼女は…」

「私は六音フジ子!あなたね、邦ちゃんを悪の道に引きずり込んだ悪い子は!邦ちゃんはヘビメタなんか好きじゃない!邦ちゃんは私とロキノン部を作るんだから!」

メタ子さんの切れ長の目がひきつり、唇が震え始める。そろそろアレが出そうだ。

「ロキノンとはどんな音楽なのかしら?それはメタルなの?」

フジ子は我が意を得たりと得意げに語る。

「ヘビメタなわけないでしょ!ロキノンも知らないの?!いいわ、教えてあげる。RADIOHEAD や OASIS, MUSE のような芸術的なロックのことよ!あんな野蛮で単細胞な音楽とは…アモンアマース!!!」

メタ子の骨十字架がフジ子のおっぱいに容赦のない突きをくらわせる。相変わらず恐ろしい人だ…

「ヘヴィ・メタルが野蛮で単細胞ですって?このおっぱいはいったい何を言っているのかしら?おっぱいから MUSE という単語が聞こえたけれど、彼らは最近 GN'R や SLIPKNOT のカバーをライブで披露しているくらいなのよ!恥と慎みを知りなさい。歌えないメサイア・マーコリンはただの豚よ!」

「メサイア?!何?MUSE がメタルを…カバーですって…そんなわけ、そんなわけ…モアニモアーナ!!!」

またもおっぱいに突き刺さる骨十字。今度はペガサス流星拳並みのおっぱい連打。メタ子さんがもしオッサンだったら即ブタ箱行きの凶行だ。

「もっといえば、あなたの愛読するロキノンという雑誌、最近では恥も外聞もなく、これまで迫害してきたメタルやプログレを大々的にフィーチャーして売り上げを伸ばそうとしているわ。矜持というものはないのかしらね?」

「たっ、たしかに最近は知らないロン毛のオッサンが表紙の時も多かったけど…まっ、まさか…メタルって…しゆごいの?!」

フジ子は残念ながら、脳にいくべき栄養がすべておっぱいに向かってしまったような女の子だ。メタ子に論破されてしまうのは最初から火を見るより明らかだった。

「ふふふ。はーっははは!ロキノンなどというのは、幻想、まやかし、泡沫の夢。結局はメタルに吸収されて終わる一過性のトレンドでしかなかったのよ!!だけど、あなたのアモンアマース やモアニモアーナという叫び声。悪くなかったわ。あなたも案外メタルの素質があるのかもしれないわね。そうね、あなたもヘヴィ・メタル・シンジケートに入りなさい!」

フジ子が完全に人数集めの生贄にされてしまった…しかし今のフジ子には、メタ子に抗する気力も魂も残っていない…

「はい、入りましゆ…ヘビメタ最高でしゆ…」

「MUSE はメタル!」

「MUSE はメタル…」

「いいわ、ただしこれからはヘヴィ・メタルと呼ぶように」

「ヘヴィ・メタル…カッコいい…いやだ、潤っちゃう…」

「潤うといえば、W.E.T. ね。WORK OF ART, ECLIPSE, TALISMAN。メロディックハードの幾星霜に足跡を刻んだ三雄を頭文字に戴くスーパーグループね。洗練の極みを尽くす AOR、情熱と澄明のハードロック、そしてマルセル・ヤコブ&ジェフ・スコット・ソート率いる90年代異能のファンカデロック奇跡の融合よ。ちなみに、TALISMAN は当時日本で絶大な信頼と人気を誇ったゼロ・コーポレーションの看板でもあったわ」

「ゼロ・コーポレーション…なんだかすぐに潰れそうな会社名でしゆ…なんだか切ないでしゆ…」

「切ない!!切ないといえばそのゼロ・コーポレーションからリリースされていたスティーヴン・アンダーソン衝撃のデビュー作 "Gypsy Power" ね!美しき音楽の万華鏡。神秘のオーラ。北欧の叙情とジプシーの悲哀が嘆きの湖畔で出会う刻。シュレッド全盛の時代に、旋律とハーモニー、そして異国の風でギター・インストに新風を吹き込んだ傑作アルバムよ。ギターを歌わせるというのは、まさしく彼の音楽のようなことを言うのでしょうね」

「シュレッド…シュレッダーみたいなものでしゆか…フジ子、めちゃくちゃにされて切り刻まれて肉団子にされてしまうの…潤っちゃう…」

「いいでしょう。あなたにはメタルの歴史を変えた CARCASS の "Hearwork" を貸し与えます。本来ならもっと肉団子的なアルバムもあるのだけれど、一応やめられては困るものね。メロディックなデスメタルをあなたの心臓に移植してきなさい」

「はい…わかりました…メロディックなデスメタル…フジ子の子宮がメロメロメー…」

「邦楽くん、それでは改めて、明日3人で申請書を出しに行きましょう」

どんどんめんどくさいことになっているような気もするけど、もうこうなっては仕方がない。乗りかかったヴァイキング・シップだ。なるようになれだ。


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