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最後の審判の週、救世主キリスト大聖堂での礼拝後のキリル総主教のお言葉(2022年2月27日)


概略


 これは2022年2月27日にモスクワの救世主キリスト大聖堂での礼拝後に行われた説教である。ちょうど、ウクライナへの軍事侵攻が行われてから3日後の最初の日曜日にあたるので開口一番、何を云うのかと、えーと百年前の話…?今のウクライナ侵攻と関係あるんすか?どうも締まりのない内容だ。ソ連時代に迫害されて辛たんです、ウクライナの教会とロシアの教会の仲は永遠だ、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会のオヌフリー府主教を祝福しよう(他の教会は知らん)、歴史書に記された古の表現を私は使うぜ、と云う風にいまいちまとまりがない。
 一応、この日は正教会では謝肉祭、カーニバルにあたる日なのでそれなりに大事な日なのだが、こんな締まりのない説教で大丈夫なのかと心配してしまった。と云うよりも、こんだけオヌフリー府主教にラブコールを送りまくったら、ウクライナ政府当局から目をつけられるリスクを考えなかったのだろうか?
 ちなみに、教会のホームページではロシア語の他に、ウクライナ語と英語、ギリシャ語の翻訳が載っているのだが、なぜか英語とギリシャ語では分量が少ない。余計な内容が入っていたのでカットしたのか?しかも、タイトルが「キリル総主教聖下、信徒たちに教会の平和と一致を祈るように呼びかけた」となっていて、ソ連時代の迫害の話が出てこない。どうした、わざわざ当時の総主教の言葉を引用していたのに、そこを削ったら主張の内容が半減するのではないか?
 それともロシア語やウクライナ語を使っている人たちだけにわかるようなラブラブな雰囲気をみせて、英語やギリシャ語話者はお呼びではないのか?そんな「君と僕だけの秘密の合言葉」みたいなノリで良いのか?それならなんでわざわざ翻訳したんだ?なんか、ラブレターみたいな文章になっている。せっかく、ウクライナを取り戻すのだから、もっとこう勇ましい説教をやっても良かったような気がする。
 なお、この翻訳ではグーグル翻訳とDeeplを合わせて行った。正教会の用語はマジでよくわからん。「彼の至福の教えオヌフリウス」とか「福者オフフリー」とか出てきたので、誰のこと云っているのだろうと思っていたら、モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会のオヌフリー府主教の尊称だった。日本語だとよくわからないので全部「オヌフリー府主教」に統一した。



なお、こちらもPDF化したので欲しい人はどうぞ。

 


訳文


2022年2月27日、最後の審判の週である謝肉祭の週に、モスクワと全ロシアのキリル総主教聖下は、モスクワの救世主キリスト大聖堂で神聖典礼を祝った。礼拝の終わりに、ロシア正教会の総主教が総主教説教を行い、信者を前に挨拶した。

皆様の聖下と聖下!親愛なる神父様、兄弟姉妹の皆様!

日曜日を迎え、心からお祝いを申し上げます。今日は、20世紀におけるロシア正教会の迫害開始100周年を祝う特別な日です。迫害の理由はよく知られています。国内でパンが不足し、人々が飢え始め、チーホン総主教聖下(注1)は飢えた人々を救うために、教会が持っているすべての資金を配分し、イコンから貴重な法衣を脱いで売ることさえ決断した。しかし、これは神をも恐れぬ当局の望むところではなかった。当局の目的は、教会が飢餓に苦しむ人々に愛と関心を示すことではなく、飢饉を利用して、教会が抵抗している、苦しんでいる人々を助ける気がないと非難し、教会の権威を失墜させ、迫害の前提条件を作り出すことだった(注2)。私自身のことだけを語ることのないように、1922年のこの日に署名された全ロシア総主教チーホン聖下からのメッセージを、今日、皆さんに読み上げたいと思います。

この文書は長い間発禁にされていた。この文書が配布されただけで、人々は投獄され、命さえも奪われる可能性があったからである。この飢饉が自然な原因から生まれたのか、それとも自然な原因に加えて当時の当局の行動によって悪化したのか、歴史家たちはいまだに論争を続けているが、聖下と教会全体がヴォルガ地方の飢饉の事実をどれほど身近に受け止めていたかを物語っている。

教会が寛大な心と愛をもってどのように対応したかはわかる。しかし、それは当局が必要としていたものではなかった。この後、チーホン総主教に対するひどいキャンペーンが続き、総主教は逮捕され、投獄された。私たちは、私たちの教会がどのようなひどい苦しみを受けてきたかを知っており、人類の敵がいかに巧妙に教会を破壊しようとしただけでなく、信仰深い人々の目から教会を妥協させようとしてきたかを見ています。(注3)今日、私たちは皆そのことを知っており、聖人の中でも聖なる方である聖チーホンに、私たちの教会がさまざまな災難から免れ、分裂や分断から免れるように祈ります。

今日、私たちも団結を必要としています。ウクライナの兄弟姉妹との団結です。私たちは、モスクワ総主教庁のウクライナ正教会が現在どのような困難な状況に置かれているかを知っています。私は今日、特に府主教のために、そしてもちろん、全主教座とウクライナのすべての忠実な人々のために祈りました。神は、私たちの親しい兄弟であるウクライナの現在の政治状況が、ロシアとロシア正教会の統一に対して常に戦ってきた邪悪な勢力が優勢になることを目指すことを禁じられます。(注4)ロシアとウクライナの間に、兄弟の血で汚れた恐ろしい一線が引かれることを、神は禁じられている。私たちは平和の回復のために、私たちの民族間の良好な友愛関係の回復のために祈らなければならない。この兄弟愛を保証するものは、ウクライナではオヌフリー府主教が率いるウクライナ正教会に代表される、私たちの統一された正教会です。(注5)私たちは今日も彼らのために祈りました。主が彼らに、テーホン総主教のように、邪悪なもののそしりを退け、同時に、あらゆる方法で平和を促進することを含め、信仰と真理をもって国民に奉仕する力と知恵を与えてくださいますように。

主が私たちの教会を一致のうちに保ってくださいますように。主がロシア正教会の統一空間に属する諸民族を内紛から守ってくださいますように。私たちは、暗く敵対的な外部の力によって嘲笑されることを許してはなりません。(注6)私たちの民族間の平和を維持し、同時に、この一致を破壊しうる外部からのあらゆる行為から、私たちの共通の歴史的故郷を守るために、あらゆることがなされなければなりません。

今日、オヌフリー府主教と私たちの教会と敬虔な子供たちに特別な祈りを捧げます。神がロシアの地をお守りくださいますように。「ロシア」と言うとき、私は『原初年代記』(注7)に登場する古い表現、「ロシアの地はどこから来たのか」を使います。現在、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、そしてその他の部族や民族からなる土地である。主がロシアの地を外敵や内乱から守り、私たちの教会の一致が強められ、神の恵みによってあらゆる誘惑、嘘、挑発が退き、ウクライナの敬虔な人々が平和と静寂を享受できるように。本日の祈りはこのことについてです。教会や家庭での祈りでオヌフリー府主教を思い起こし、ウクライナの兄弟姉妹を思い起こし、平和のために祈ってください(注8)。

全ロシア総主教聖チーホンの祈りによって、神の祝福が私たちすべてを一致と一心と神の真理において強め、霊的なことでも世俗的なことでも、何事においてもこの真理から離れることのないようにしてくださいますように。アーメン。

モスクワ・全ロシア総主教庁報道部


訳注


注1.ロシア革命後にロシア正教会の総主教を務めた人物。実は、18世紀のピョートル大帝の時期に総主教制は廃止されていたので200年ぶりの総主教となる。当初はボルシェビキ政権と共存できると考えていたようだが、教会の影響力を削ぐために弾圧を行ったため、1918年にボルシェビキを破門し、皇帝一家殺害を非難する。だが、1922年に逮捕されて軟禁される。翌年に保釈された後は一転し、教会の非政治化を宣言して融和路線に転じる。1925年に死去。1989年に聖人になる。

注2.無神論を掲げていたソ連は教会財産の国有化を行っていたことを指す。

注3.チーホン総主教亡き後、ソ連当局は総主教任命を拒否したことで、セルゲイ総主教代理が立てられる。当初はチーホン総主教と同様に政治と関わらずに共存する路線を取るも、1926年にはセルゲイ総主教代理も逮捕され、翌年に保釈後にソ連国家への忠誠宣言を出したことで、教会内部から批判を浴びる。批判者は投獄及び処刑された。ソ連当局と融和路線を図ったことで、教会内部では親ボルシェビキ勢力が生まれ、諜報機関との協力者を抱えるようになった。

注4.「邪悪な勢力」とは誰のことを指すのだろうか?現在のウクライナのゼレンシキー政権は無神論を掲げていたソ連となんの関係があるのだろうか?いまいちよくわからない。

注5.2018年12月にキーウで教会会議が開かれてウクライナ国内で3つに分裂していた教会の主教たちが教会の独立を求める決定が下される。モスク総主教庁は同会議の決定の無効を宣言し、参加した主教を背教者として非難。結果、ウクライナ国内ではキーウ総主教庁系の教会とモスクワ総主教庁系の教会が併存することに。

注6.2019年5月に就任したゼレンシキーは当初はウクライナ正教会独立の件は教会内部の問題として後ろ向きだった。前大統領のポロシェンコが選挙戦で訴えた「軍、言語、信仰」には批判的で、ロシアとは話し合いでの解決を主張していた。

注7.9世紀から12世紀のキエフ公国の歴史を記した書物。ロシア人やウクライナ人、ベラルーシ人と云った東スラブ人に関する古代の歴史を知る上では貴重な歴史書。建国の経緯やキリスト教を導入した理由などが記されている。日本で云う古事記や日本書紀にあたる書物。とは云え、部外者からはそんな昔の話をされてもねぇと思ってしまう。

注8.当のオヌフリー府主教は2022年2月24日に軍事侵攻が開始されたさいは「悲劇だ」「カインの殺人」と評し、ウクライナ兵に対しては「われわれの国土と国民を守る兵士らに特別な愛と支援を表明する」と述べ、即時停戦を呼びかけている。なお、キーウ総主教庁のエピファニー総主教はロシアによる自身の暗殺計画があったことを外国の情報機関から知らされた、と述べている。


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