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【読書録26】システム思考「世界はループでできている」~ピーター・M・センゲ「学習する組織」を読んで➁~

 前回は、第Ⅰ部を取り上げた。

  今回は、学習する組織の第Ⅱ部、著者が「学習する組織」のとする「システム思考」に入っていく。

 第Ⅱ部 システム思考-「学習する組織」の要
 第4章 システム思考の法則
 第5章 意識の変容
 第6章 「自然」の型―出来事を制御する型を特定する
 第7章 自己限定的な成長か、自律的な成長か

システム思考とは?

 著者は、システム思考とは何かについて、言葉を変えながら、以下のように述べていく。

システム思考は全体を見るためのディシプリンである。
物事ではなく、相互関係を見るため、そして静態的な「スナップショット」ではなく変化のパターンを見るための枠組みである。

  規模の大きな前例のない複雑性(吸収できないほどの情報、誰も対応できない相互依存性、誰もついていけない変化の加速) によって システム全般における機能不全を起こしてる。
 システム思考は、私たちが「相互依存性の時代」に入るにつれて多くの人が感じる、この無力感に対する解毒剤である。

 システム思考は、第5のディスプリンである。5つの学習のディシプリンの土台となる概念上の基盤である。

  キーワードは、「相互関係」「変化のパターンを見る」「土台」か。
 
  そして、システム思考を理解する上での鍵としてとして、以下の3つを挙げる。

 ・部分をみること ⇒ 全体をみること
・人々を「無力な反応者」と見る ⇒ 「現実を形づくることへの積極的な参加者」と見る
・現在に対処する ⇒ 未来を作り出す

因果関係の「環」(ループ)に目を向けよ

 では、「システム思考」を理解し、実践するには、どうすれば良いか?
まずは、物事を直線的に捉えるのをやめて、因果関係の「環」(ループ)に目を向けよという。

現実の因果関係は、循環するループになっているのに、私たちは、直線的にものごとをとらえようとする。
現実は環状になっているのに、私たちが目にするのは直線である。

  そして因果関係のループに目を向けた上でのポイントとして以下の通り言う。

 行動がどのようにお互いを強めたり、打ち消したり(バランスを取ったり)するかを示す、「フィードバック」と呼ばれるごく単純な概念を理解することこれが何度も繰り返し生じる「構造」の型を見ることを学ぶ基礎となる。

 フィードバックとは、相互に与え合う影響の流れを意味する。 

フィードバックやループを理解するための例として、著者は、対テロ戦争を挙げる。 

【米国の指導者の見方】
 テロリストの攻撃 → 米国人への脅威 → 軍事的な反応の必要性
【テロリストの見方】
 米国の軍事活動 → 認識される米国の攻撃性 → テロリスト要員補充

 これらは、各々直線的に見えて、ループになっている。

 テロリストの攻撃 → 米国人への脅威 → 軍事的な反応の必要性 →米国の軍事活動 → 認識される米国の攻撃性 → テロリストの要因補充 → テロリストの攻撃(振り出しに戻る)

  これらは、典型的なパターンであって、本質的には、街の二つのギャング間の縄張り争いや婚姻の崩壊、市場シェアをめぐって価格競争を繰り広げる2社の広告合戦と同じであるという。

確かにこの構造は、よく見るパターンである、

 そして著者は言う。

 個々の行為の根底にある構造を見逃していることがある。
人間の動作はフィードバック・プロセスの一部であり、そのプロセスから独立した存在ではない。自分たちは自然の一部であり、自然から切り離されてはいない。それこそ「認識の変容」である。

  システム思考を習得する際に、私たちは、責任ある個人がいるという前提を捨てることが必要であるとする。
 フィードバックという見方をすることで、システムによって生み出される問題に対しては全員が責任を共有できるようになるというのである。

システム思考の基本構成要素

 システム思考に基づいて、直線ではなくループでものを見ていくときの基本的な型が2つあるという。「自己強化型フィードバック」「バランス型フィードバック」である。

 ・自己強化型フィードバック

 これは、比較的理解しやすい。近年のオイルショック時のトイレットペーパー騒動や近年のマスク不足を考えるとわかりやすい。

「マスクが不足気味」という噂 → マスクの買い貯めが起きる → マスクの不足度が上がる

 だが、悪循環ばかりではない。好循環もある。

運動する → 健康的になり、気持ち良くなる → さらに運動するようになる。

など。

 この項目で頭に入れておいた方が良いのは「いかに小さな変化が大きくなり得るかを見つける」という点であろう。

 フランスの学校で教えられる話として「スイレンの葉」の話が出てくる。

 池の片隅にある1枚のスイレンの葉。次の日には、倍の2枚。その次の日にはさらに倍。池を覆いつくすには30日かかるが、28日までは、誰も気がつかない。

  問題に注意が向けられたときには手遅れの可能性があるのだ。種の絶滅は往々にして、長期間にわたって減少がゆっくりと次第に加速していき、急激に崩壊するというパターンをたどる。

 ただ、現実では、加速的な成長や衰退が抑制されないままつづくことはあまりない。なぜなら自己強化型プロセスが孤立して起こることがほとんどないからであり、バランス型フィードバックも同時に起きているからである。

 ・バランス型フィードバック

 バランス型フィードバックはいたるところに見られる安定を求めるシステムであるという。私たちが食べ物を必要としているときに食べるように促し、休養を必要な時には眠り、寒いときには、セーターを着るよう促すなど。
 人間の身体には、体温やバランスを維持したり、傷をいやしたりする機能がある。生物学者が言う「恒常性(ホメオスタシス)」である。これもバランス型フィードバックである。

 そして、すべてのバランス型フィードバック型フィードバックにおいて重要な要素として、望ましいレベルに向かって徐々に適用していくということを挙げている。

  そして、この項目で頭に入れておいた方が良いのは、「バランス型フィードバックは何も起こっていないように見える場合が多く、気がつきにくい」という点である。

  組織を変えようとするリーダーたちは、気がつくと無意識のうちにバランス型プロセスに陥っている。リーダーたちには、自分たちの努力が、どこからともなく現れたに思える突然の抵抗と衝突しているように見える。この抵抗は、暗黙の目標を維持しようとする、システムの反応なのだ。

 ・遅れ 

 そして、上記2つのループを複雑にする要素として基本構成要素の最後の要素として、「遅れ」を挙げる。

行動と結果との間の途切れ、があるために起こる不幸。

シャワーの適温調整の話がピンとくる。

シャワーの水を温めるために温度を上げる。しかし温度はなかなか上がらないために、更に温度を上げる。するといつの間にか、温度が熱くなりすぎる。それを調整するために急に温度を下げると、やがて冷たくなりすぎる。

「遅れのために、目標を行き過ぎた失敗が起こる。」過ぎたるはなお及ばざるがごとしなのである。

「自然」の型~システム原型~

 システムとは、上記の基本構成要素を組み合わせた構造であり、その構造を見ることが、今まで見えていなかった力と連動しその力を変える能力を身につけるプロセスの第一歩であるという。 
 そして、そのシステムには、いくつかの「型」=システム原型が存在し、その特定の型が繰り返し起こるという。本書では、その典型的な一例として「成長の限界」「問題のすり替わり」を挙げる。

 原型➀成長の限界

 自己強化型プロセスとバランス型プロセスのぶつかりが成長を制限する構造である。
 ダイエットを目標として、急激な食制限で当初は、体重減るが、ストレスがたまり、決意が揺らぐことによって、結局リバウンドするなどが、例である。

 対処するに自己強化型プロセスではなく、バランス型ループの中にある制約要因を特定して、それを変える必要がある。

 ダイエットであれば、更に食事制限をするということではなく、ストレスが溜まらないダイエット方法を見出すとかであろうか。

 ビジネスでは、成長の限界になった際に、自己強化型プロセスに更にアクセルを踏んでドツボにはまるというパターンがよくある。

 原型➁問題のすり替わり

 これは、2つのバランス型ループからなる。
また卑近な例であるが、長時間労働のストレスを解消するために、本質的には、仕事量の削減が求められるが、対処療法として、飲酒に逃れるなどである。
 これらの原型を理解することは、システム思考を実践する上で第1歩であろう。

守・破・離の「守」である。

 人間は、直線的にものを見るのが自然なので、ループで全体を見て、本質的な対処法をか投げていくには、かなり訓練が必要だろうなあと感じた。

 システム思考の法則

 システム思考でモノを考えるのには、基本原則や原型を意識して、ものを見て実際に構造をループで描いていくしかないかなと思うが、その際に意識しておいた方が思われる11の法則を著者は挙げている。

  ➀今日の問題は昨日の「解決策」から生まれる 
 ➁強く押せば押すほど、システムが強く押し返してくる
 ③挙動は悪くなる前に良くなる
 ➃安易な出口はたいてい元の場所への入口に通じる
 ⑤治療が病気よりも手に負えないこともある
 ⑥急がば回れ
 ⑦原因と結果は、時間的にも空間的にも近くにあるわけではない
 ⑧小さな変化が大きな結果を生み出す可能性があるーが、最もレバレッジの高いところは往々にして最もわかりにくい
 ⑨ケーキを持っていることもできるし、食べることもできるーが、今すぐではない
 ⓾一頭のゾウを半分に分けても、二頭の小さなゾウにはならない
 ⑪誰も悪くはない

  どれも、システム思考についてかじってから読み返すとなるほどなと思わせる法則である。

最後に

  システム思考で見ると本質的な解決策を見出しやすくというのは理解できた。
 会社の業務では、関連先も多く、しかも人事評価制度に紐づき、単年度で目標を掲げて、実行していくのが基本となっており、「遅れ」が一番の敵になるような気がする。

 対処法的な対策に逃げがちなのは否めない。

 第Ⅲ部で出てくる、他のディスプリンの理解・実践が組織でシステム思考を実践する鍵なのかなと感じた、さあ第Ⅲ部に進もう。

 

 

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