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【読書録31】共有ビジョン チーム学習 『個』の集まりから『チーム』へ~ピーター・M・センゲ「学習する組織」を読んで➃

 今回は、第Ⅲ部核となるディシプリンー「学習する組織」の構築の後半である。

 第Ⅲ部 核となるディスプリンー「学習する組織」の構築
   第10章 共有ビジョン
   第11章 チーム学習

共有ビジョン

 共有ビジョンとは、「自分たちは何を創造したいのか?」という問いに対する答えであるという。

  またこうも言う。これらの言葉は、肌感覚にもマッチする。皆が共通した目標を持って協力あるいは切磋琢磨できればその組織・チームの力は強くなる。

 組織中のあらゆる人々が思い描くイメージであり、組織に浸透する共通性の意識を生み出し、多様な活動に一貫性を与える。

企業において、共有ビジョンは社員と会社の関係を変化させる。もはや「あの人の会社」ではなく「自分たちの会社となる」。

マズローの研究によれば、優れた成果を上げるチームの際立った特徴の一つは、共有されているビジョンと目的である。

 一方で、現実を見ると、ほとんどの企業・組織では、真の共有ビジョンを持つに至っていない。

 注意深く見てみると、ほとんどの「ビジョン」は一人の人間(あるいはひとつの集団)のビジョンを組織に押しつけたもの

共有ビジョンを築く取り組み

 どうすれば、共有ビジョンを築くことができるか?

➀個人ビジョンを奨励する

 共有ビジョンは個人ビジョンから生まれる。個人が本当にやりたいこと、価値があることと思うからこそ、エネルギーを発揮する

   また個人ビジョンの中には、たいてい家族・組織・地域社会さらには、世界にまで関係する側面が含まれている。何かを大切だと思う行為は個人的なものであると言う指摘はなるほどと思う。

➁個人ビジョンから共有ビジョンへ

 では、個人ビジョンが共有ビジョンになるためにはどうすれば良いのか?この点について、著者は明確でストレートな答えを教えてはくれない。

 カギは、ビジョンは、「上から申し渡されるものではない」ということである。

・リーダーのビジョン=共有ビジョンではない
・リーダーが個々人を 説得するのではない、個人ビジョンの共感と支持を求める姿勢が必要
・リーダーが個人のビジョンを発信し、自分のビジョンを念頭において日常の問題を解決する事リーダーがビジョンをもつリーダーである。

 組織中のあらゆる人々の個人ビジョンと結びつくまでは、ビジョンは真の「共有ビジョン」にはなっていないという。

   一朝一夕には生まれず、個人ビジョンの相互作用の副産物として育つものであり、継続的な対話が必要であるという。

そしてビジョンに対する姿勢には、以下の7段階があると言う。

コミットメント、参画、心からの追従、形だけの追従、いやいやながら追従、不追従、無関心

 そして最上位のコミットメントや参画につなげるためには、➀➁に続き、以下のようなプロセスが必要となる。

③リーダー自身が参画すること
➃正直になること 
⑤他者に選択させること

「多くの経営者が直面する最も厳しい教訓は、結局のところ、他者を参画、あるいはコミットさせるために自分ができることは一切ない」と言う指摘は重い。

肯定的なビジョンと否定的なビジョン

 ビジョンをめぐっては、肯定的なビジョンと否定的なビジョンがあり両者は根本的に異なると言う。

「私たちは何をのぞむのか」と「私たちは何を避けたいのか」は違う。そして実際には、否定的なビジョンの方が一般的であると指摘する。

 例えば、「倒産する」、「競合に出し抜かれる」「市場シェアを奪う」など。それら恐怖に依存する、否定的なビジョンは短期的にならざるを得ない。脅威が存在している限りは、組織のモチベーションも維持されるが、脅威が去ると組織のビジョンやエネルギーも消え去る。そして、否定的なビジョンは、真のビジョンではなく、大志に依存する肯定的なビジョンこそ真のビジョンと指摘する。

組織のモチベーションとなる基本的なエネルギー源は2つある。恐怖と大志である。否定的ビジョンの根底にあるのは恐怖。肯定的ビジョンを動かすのは大志である。恐怖は短期的に驚くべき変化を生み出すこともあるが、大志は学習と成長の絶えざる源泉として持続する。

共有ビジョンとシステム思考

 そして、「共有ビジョン」が5つのディシプリンの一つに上げられる理由をシステム思考との関係から見ていこう。

システム思考で物事を考える時のポイントの一つに「遅れ」があった。本質的な解決策を考える際には、「遅れ」を考慮しなければならない。それは、長期的に物事にコミットすることを意味する。

長期的な物事へのコミットメントを高めることは、システム思考を発展させるために必要であるが、そのためには、共有ビジョンを持つことが欠かせない。

また反対に、共有ビジョンが、生きた力になるのは、人々が自分の未来は自分が形づくることができると本当に信じていている時である。

システム思考によって、自分自身の行動や組織の方針が今の現実を創り出している事を学ぶことによって、自分の未来は自分が形作ることができるようになり、ビジョンが育ちやすい土壌ができる。

既存の方針や行動がいかに今の現実を創り出しているかを組織にいる人々が学び始めれば、ビジョンが育ちやすい新しい土壌ができてくる。新しい自信の源泉が生まれる。

システム思考を学ぶことによって「私たちが手にしている現実は、可能性のあるいくつかの現実の一つにすぎないことに気づく」ことが可能になる。

そう気づくことによって、共有ビジョンへのコミットメントは高まる。

共有ビジョンなくして、システム思考は機能せず、システム思考なくして、真の共有ビジョンを持ちにくいという相互依存の関係がここでも成り立つのである。

チーム学習

 チーム学習とは、「メンバーが心から望む結果を出せるようにチームの能力をそろえ、伸ばしていくプロセス」である。

 これは、自己マスタリー・共同ビジョンの上に成り立つものである。つまり、「個」が確立されていて、共通の目標があって、はじめて必要とされるものである。

 そして、「チーム」とは何か、単なる人の集団とは異なる。行動するのに互いを必要とする人たちを指す。

 現代社会において、重要な決定はほとんどすべてチームで下される。「チーム」こそ組織における重要な学習単位である。

チーム学習の取り組み

➀ダイアログとディスカッション

 対話にはダイアログとディスカッションという2種類の手法があり、2つを習得する必要があり、2つには、相乗効果があるという。

 本書では、ダイアログについて、ヴェルナー・ハイゼンベルクやデビィッド・ボームという2人の物理学者の理論と実践方法を紹介する。

 

 ダイアログの目的を「一人の人間の理解を超えること」とし、ダイアログでは、集団が個人的にはアクセスできない、より大きな「共通の意味の集積」にアクセスするという。

  抽象的で難解であるが、「非一貫性」(インコヒーレンス)「一貫性」(コヒーレンス)という概念を使って説明する。

・ダイアログの目的は、私たちの思考にある非一貫性(インコヒーレンス)を明らかにすることだ。
・ダイアログを通じて、人は互いに助け合いながら互いの意見の非一貫性に気づくようになれる。こうして集団的思考はますますだんだんと一貫性(コヒーレンス)のあるものになっていく。
一貫性(コヒーレンス)を一言で定義するのは難しく、秩序、整合性、美、調和といった感じのものと言うしかない。

 そして、ボームは、ダイアログに必要な3つの基本条件として以下を上げる。これらの条件がそろうことで「自由な意味の流れ」が集団を通り抜けていきやすくなるという。

1. 全参加者が自分の前提を「保留し(吊り下げ)」なければならない。
2. 全参加者が互いを仲間と考えなければならない
3. ダイアログの「文脈を保持」する「ファシリテーター」がいなければならない。 

  この3条件は、結構しっくりくる。

・自分の前提を保留するというのは、メンタル・モデルに自覚的になるということと同じような意味であると理解した。
・考え方の相違があるときこそ、互いを仲間と考えることが必要というのも確かにそうだなと思う。
・ファシリテーターがいな思考の癖から私たちは絶えずディスカッションのほうに引っ張られ、ダイアログから離れてしまう

これらがそろえば、カッカする話題に対してもダイアログすることができよう。 

 そして「ダイアログとディスカッションのバランスを取る」という指摘もなるほどと思う。

・ディスカッション=様々な意見が提示され、弁護されるので全体状況の分析として役に立つ
・ダイアログ=様々な意見が提示されるが、それは新しい味方を発見する手段

・ディスカッション=決定が下される
・ダイアログ=複雑な問題が探求される

チームが合意に達しなければならないときや決定を下さなければならない時は何らかのディスカッションが必要

➁対立と習慣的な防御行動

ダイアログやディスカッションを妨害する強い力に対して創造的に対処する方法を学ぶ事がチーム学習には求められるという。

 絶えず学習しているチームの何よりも信頼できる指標の一つは、考えの対立が目に見えること

 対立を直視し、対立につきものな自己防衛にどう対処するかで優れたチームと平凡なチームがわかれると指摘する。

 そこで出てくるのは、クリス・アージリスの「習慣的防御行動」という概念である。

習慣的な防御行動をめぐって本書ではこのように言う。

① 一種の習慣的な反応。恐れや困惑から自分や他者を守るものの学習も妨げてしまう。
② 例えば「丸くおさめる」「勝者総どり」「遠慮なく意見を言う」など
③ そのエネルギーを解き放つ方法を学べば学習を促進する大きな可能性がある

 習慣的な防御行動は、人間として自然の行動であり、ダイアログを行ったり、心理的安全性の確保など意図的に機会を行わないと防げないものであろう。

チーム学習とシステム思考

 システム思考でもダイアログでも分断せず全体を理解するということが共通している。そして著者は、「システム原型」を、チーム学習を行う際の共通言語として有効であるという。

 習慣的な防御行動を乗り越える際も、丸くおさめたり、勝者総どりになりそうなところを防ぐためにもシステム思考でものをみることが求められよう。

最後に

 今回は、自己マスタリーという「個」を基盤に、共有ビジョンを築き、そして「チーム」として「個」の集合体を超えていく対話をべースとした「チーム学習」の重要性を見てきた。

 そして第Ⅲ部を通じて、システム思考に続き、4つのディスプリンを見てきたが、各々のディシプリンが相互に関係しており、そのベースとしての世界観として、システム思考があると感じた。



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