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【感想】劇場長編アニメ『ドラえもん のび太と空の理想郷』

まず先に自分と本作の距離感(?)を開示。
『ドラえもん』の熱心なファンというわけではない。
小学生の頃まではテレビアニメも毎年の映画も楽しみに観ていたが、それ以降は離脱。
なので映画の過去作を全て見てきたわけではありません。

ただ、じゃあ20年ぶりくらいのドラえもん映画かというと、そんなこともなくて実は前回の鑑賞は4年前の2019年。
「えぇ!?脚本に辻村深月!?」と驚いてめちゃくちゃ久しぶりに観た。

今作も「古沢良太!?」となってまた観てみることにしたわけです。
ちょうど『どうする家康』『レジェンド&バタフライ』に連なる時期でもあったし。

古沢良太という脚本家については上記のnoteで既に書いてきたので詳細は省くが、再定義・再解釈の作家だと考えている。
で、今作『ドラえもん のび太と空の理想郷』では正直それが良い方向にも悪い方向にも出ていたかなと。
(ここで冒頭の話に戻りますが自分はドラえもんファンよりは古沢良太ファンなので悪い面より良い面を享受して作品全体としては肯定的な評価というスタンスです)

パンフレット掲載のインタビューで古沢良太は「最初は自分の個性を出そうと思っていたが、いざ書き始めたらそんなおこがましい思いは捨てることになった」という趣旨のことを述べているそうだが、個人的にはいやいや結構色が出ていたのでは?と思う。

悪かった点

先に悪かった点を書くと、正直あまりドラえもん映画っぽくないかなとw
ひみつ道具を駆使しての冒険活劇というわけではない。
何しろ冒頭で「ひみつ道具が経年劣化してきたのでリサイクルや廃棄に出している」という設定が台詞で説明される。

自分は「お、今回の古沢良太はドラえもんの枠組みを再定義するのか」とある程度楽しめたが、古沢良太なんて知ったこっちゃないというドラえもんファン層は「は?」となっても不思議ではない。
お子さんはこれ楽しめてるのかな…というのはちょっと思うかなぁ。

良かった点

ディストピアSF

序盤は空を飛ぶ&タイムトラベルというドラえもんの中でも原点中の原点を、ひみつ道具がメンテナンス中という設定を使って別の道具で描き直すって試みなのかなぁと思いながら観ていた。
『三丁目の夕日』や『寄生獣』で組んだ山崎貴監督の『STAND BY ME ドラえもん』がタケコプターの飛行シーンに3Dアニメーション技術を投入していたことへの2Dアニメ版からのアンサーというか。

終わってみればこの読みは的外れw
今思えば古沢良太の脚本作品でタイトルに「理想郷」なんて言葉が入ってる時点で気付くべきでしたw

三賢人が統治し、争いも無く誰もが幸せに暮らせる空中都市パラダピア。
吉田玲子が脚本を手がけたNHKドラマ『17才の帝国』を彷彿とさせる。

このドラマはアニメ畑の吉田玲子のアイデアを実写ドラマに輸入したわけで、今度は実写畑の古沢良太がアニメ脚本という相互輸入が面白い。

前半は明らかに胡散臭いけど耳触りだけは良い「パーフェクト小学生」はじめ美辞麗句が並べられる何とも居心地の悪い時間。
ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんの人格が徐々に変わっていく恐怖の描写。
まさか『ドラえもん』でディストピアSFをやるとは。
AIが人類を凌駕した時代に描かれる話としての批評性は申し分ない。

上で「まさか」と書いたけど、よく考えたら藤子・F・不二雄はディストピアSFをたくさん書いてきた作家でもある。

そういう意味ではドラえもん映画らしくはないけれど藤子・F・不二雄らしくはあると言えるのかもしれない。
そういえばパンフレットのインタビューで古沢良太は「自分はF先生の足元にも及ばないが少しでも手が届けばと思いながら書いた」という趣旨のことを述べている。

醜さを愛せ

パラダピアというディストピアを通して描かれるメッセージは『リーガルハイ』シーズン2で描かれたテーマと非常に似通っている。

「みんなが幸せになるWin-Winを目指す」という一見とても良いことっぽい信条を掲げる羽生(岡田将生)が上から目線で一般市民を愚者と見下す偽善者だと喝破した上で「もし本気で皆が幸せになる世界を築きたいなら(人間の)醜さを愛せ」と添えた古美門(堺雅人)
『ドラえもん のび太と空の理想郷』が描いたのもほぼこれと同質。

いいか、君の本性を教えてやるからよく聞け。君は独善的で、人を見下し、いい男ぶった薄ら笑いが気持ち悪くて、スーツのセンスがおかしくて、漢字もろくに書けなくて、英語もサッカーもそれほど上手くない。デタラメなことわざを作る。甘くてぬるくてちょろい。裏工作をしてみたらたまたま上手くいっただけの、ゆとりの国のポンコツへたれ天パー短足クソ王子だバーカー!!!
『リーガルハイ』シーズン2最終回より

さすがにここまではのび太に言わせなかったですねw

自分は「おぉ!リーガルハイでも描いたテーマを!」と驚いたけど、本作の客層的には少し重たい内容だったかもしれない。
一応「みんな違ってみんな良い」的なポジティブなメッセージで包んでいたけど。

伏線回収

過去に古沢良太が脚本を手がけた映画は伏線回収がことごとく「実はこうでした」という後出しジャンケンになっているものもあったのだけど(『コンフィデンスマンJP』は騙される快感が作品の魅力でもあるから一応それが目立ちづらい作劇にはなっている)今回は序盤に出てきたものが終盤に活きてくる正当な伏線回収になっていたのも良かった。

まさか前半に登場したアレが未来から来た自分たちだったという『TENET テネット』展開には驚かされたw

ただ、未就学児や小学校低学年ぐらいの年齢層はあのクライマックスの時間の話(のび太たちも気付かない内に旅の出発直前の時間=映画前半の時間にタイムトラベルで戻ってきて最終決戦)は分かるのだろうか…?
なかなか難しい気もしたのだが。

ゲスト声優の永瀬廉ファンとおぼしき若い女性客2人組が上映終了後に「伏線めっちゃスゴくなかった!?」と興奮気味に話していたのは何か微笑ましかったw

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