概念化の達人は「だれが、いつ、どんな発言をしたのか」の記憶力がスゴイ

「すごい記憶力ですね。2カ月前の会議で、確かに加藤本部長はそういう発言をしていました」

いつからか、私はこんな誉め言葉をいただくようになりました。
ところが実を言うと、私は記憶力がいいほうではありません。最近の役者さんや歌い手さんの名前はまったく覚えられず、家内に本気で心配されています。
そんな私ですが、仕事上で「だれが、いつ、どんな発言をしたか」に関しては、別人のようは記憶力を発揮します。

なにも、自慢したくてこんな話をしているわけではありません。
実は、この記憶力は、概念化力と深く結びついているのです。

説明が少し遠回りしますが、まずは私の昔話を聞いてください。

私が大学を卒業して自動車メーカーの設計部門に就職したときのことです。そこには「引き出しおじさん」の異名を持つ機構設計リーダーのA氏がいました。彼にアドバイスを求めると、返ってくる答えはいつもこんな調子でした。

「あれがこうだったから… 〇〇さんは確かこう言ったはずで… そうなると選択肢はふたつあって… わかった、君たちの狙いが△△だとしたら、まずはⅩⅩしてみるといいよ」

席にどっかと座り、人差し指を上下左右に動かしながら宙を見つめて考えるその姿は、とても印象的でした。
その様子が、頭の中の引き出しをひとつひとつ開けているように映るので、私たちは陰で「引き出しおじさん」と呼ぶようになったわけです。

最近になって、私はこの光景がもつ重大な意味合いを理解しました。彼はきっと、概念化の達人だったのです。
いろんな出来事を頭の中でいったん要素分解し、それらを概念モデルに再構築していたに違いありません。引き出しをひとつひとつ開けるがごとく、でき上った概念モデルをさまざまな角度から眺め、それらの関係性から論理を導き出していたのです。

「リンク機構に問題ありと発言するとすれば、それは上野さんをおいて他にはいない」
「これまでの議論の流れでは、誰もリンク機構に問題があるとは考えていないから、きっと参加者の大半はそれに意義を唱えるはずだ」
「ところが、上野さんを信頼している中村部長が、上野さんの意見を頭ごなしに否定するはずがない。きっと試験のやり直しを命じるだろう」
「ということは、私たちが現時点であわてて資材発注したところで意味はない。むしろ再試験の結果を待ってから発注するほうがいいくらいだ」
「そうだ、次の会議までに、リンク機構の製造リードタイムを調べておこう」

A氏の頭の中では、概念モデルを相手に、こんなロジックが展開されていたに違いありません。

さて、そろそろ本題に戻りましょう。
実はA氏も「だれが、いつ、どんな発言をしたか」の記憶力が抜群でした。記憶を辿るとき、頭の中の概念モデルを改めて眺め直し、引き出しをひとつひとつ開けるように思い出すことができたからだと思います。
実は私にも、それに似た感覚があります。

頭の中にいったん概念モデルができあがると、他人のアイディアや新たな分析結果といった外部からのインプット情報を、概念モデルとのギャップで具体的に理解することができます。そのギャップを、新たなパーツとして概念モデルに組み込むことだってできます。これを繰り返すことで、概念モデルはグングン成熟していきます。
そして、成熟した概念モデルを、いつでも順繰りに辿る術を身に付けることで「だれが、いつ、どんな発言をしたか」という記憶は画像として浮かび上がるようになるわけです。

「あの人は切れ者だ」とはよく耳にするセリフですが、切れ者というのは知識が豊富とか、英語がペラペラだとか、計算が早いとかとは違います。複雑な議論をシンプルに整理し、欠けているパーツを指摘し、本質を突くひと言で議論を高みへ導くことのできる人のことです。
概念化の達人であるA氏はまさにそんな人でした。
私はまだまだA氏のようにはいきませんが、それでもA氏のような概念化の達人になることを目指しています。「だれが、いつ、どんな発言をしたか」の記憶力は、そのバロメーターのひとつです。

ところが、会話の中で概念モデルを思い描くのは容易なことではありません。
そこで、こんなときに便利な着眼点を5つほど紹介しましょう。

・ さまざまな事実の因果関係
・ 場を支配している空気や理論
・ これまでの議論の流れ、影響力のあった事実や予測
・ 関係者の人間関係や利害関係
・ 登場人物の専門性、問題意識や価値観

これらの着眼点に立ち、以前に説明したようにツリー型、マトリックス型、フロー型を意識し、頭の中をモデル化する訓練からまずは始めてみてください。

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