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「口実」【エッセイ】一二〇〇字(本文)

「5本に1本は書かないと、筆が腐る」との、師匠の教えに従って書くことにする。「大谷」「マスターズ」で、投稿をつい忘れそうになってしまいそうだったが。

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 戦争は、「口実」から始まる。歴史上、いや「今回の悲劇」にも言える共通点である。
 「相手が攻めてきたから」「相手に攻める兆候があったから」「相手に不審な動きがあったから」等々。
 安倍元首相は、(多くの日露首脳会談の中で)プーチン大統領がNATOの東方拡大に強い不満を漏らしていたことを、BSフジの報道番組で明らかにした。また、「(NATOへの)不信感の中で、領土的野心ではなく、ロシアの防衛、安全の確保の観点から行動を起こしているのだろう」と、(「親友」ウラジーミルに同情するかのように)分析した。
 日頃、彼には大いに不審感をもっている私だが、この発言には頷くところがある。プーチン大統領は、NATO、特にアメリカに脅威を抱いていた。だから、あらぬことを「口実」にして戦争を仕掛け、西側の脅威を避けるために、ウクライナに非武装、中立化を強要し、緩衝地帯にしようとしている。     
 ウクライナは、(ロシアが「一方的」に独立を認めた地域に、ウクライナが“防衛の名のもと”武力を行使したことは事実だが)少なくてもロシア本土を先制攻撃したわけではない。しかし、(ロシアを刺激する)NATO加入の意思表明や、軍隊の動きが、ロシアにとっての脅威として、「口実」にされた。
 日本国憲法。「アメリカが作った」憲法と、改憲論者がよく言う。(そうとは思わないが)マッカーサー主導(マッカーサー草案)で進められたかもしれない。とすれば、アメリカはこう考えたと推測できる。特に、前文と第九条。「日本は、性懲りもなく戦争を再度考えるかもしれない。だから、そうならないような憲法を作ればいい」と。つまり、裏返せば、日本国憲法の「精神」を忠実に守っていれば、戦争を仕掛けることはしていないと、世界が(少なくてもアメリカは)認めることを意味する(と同時に、アメリカの従属国を意味するし、その通りになっているのだが)。
 ところが、その憲法の「精神」に反し軍拡を進めようとする動きがある。相手に「口実」を与えるだけではないか。唯一の戦争被爆国であり、平和憲法を持つ日本として、「世界平和」の実現を訴え、自ら実践し先頭に立つ国になることが使命ではないか。
 ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使は1日、日本記者クラブで会見し、日本の国会議員に向けた演説でゼレンスキー大統領が軍事支援を求めなかったことについて「われわれは(戦力不保持などを定めた)憲法九条や政治環境を認識している」と述べ、日本の立場への配慮があったとの見解を示した(東京新聞WEB版)。
 この日本への理解を大切にすべきと思う。憲法の姿勢をさらに推し進め、相手に「口実」を与える可能性がある武装は(必要)最小限にすべきと考える。万が一、攻める国があったとして、その国は人類史上最悪の国として、日本は最も勇敢な国として語り続けられることだろう。そんな誇りある国の国民でありたい、と強く思う。
 いま理不尽に虐殺された市民の無残な姿を目にすると、普通のひとでさえ「さらに強烈な武器を支援せよ」とエスカレートした発言をしてしまう。さらに激化し、犠牲者が増えていくことが目に映る。ここは冷静にならなければなない。
 しかし、逆の道に導こうとする元首相がいる。今月発売の「文芸春秋」で、「『核共有』の議論から逃げるな」と声高に主張する。議論から逃げるわけではない。本末転倒と言うだけだ。

『イマジン』を聴きながら、あらためて日本国憲法の前文と第九条を読もう。(英検の受験前、この文章を英語でも暗記した。が、いまは忘れている。いけないね)

日本国憲法
前文
日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらはこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。 
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する。 
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。 
日本国民は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想と目的を達成することを誓う。 
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、 国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する 手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない。

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