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『まちの保育園を知っていますか』

『まちの保育園』は、僕がもっとも注目している園の1つです。代表の松本理寿輝さんがその設立に至る経緯や、園での取り組みをまとめたのがこの本。2017年3月に出版されて、すぐに購入しました。

すでに保育の世界でも関心を集め、greenz.jpさんや各媒体での取材記事も出てきていますが、この『まちの保育園』は、ナチュラルスマイルジャパン(株)が運営する “まちぐるみ” をコンセプトとした園です。2011年に最初の保育所(東京都の認証園)を設立して、いまは認可保育所4園・認定こども園2園があります。


その “まちぐるみ” という取り組みを、本のなかでは基本的に次の2つの視点で説明がされています。

「子どもの育ち・学びに地域の資源を活かす」
「保育園がまちづくりの拠点として、地域のために生きる」

つまり、地域のもつ多様性との出会いが子どもの育ちに繋がる、ということと、保育園がまちのインフラの一部になることで、地域がより豊かになるという、2つの要素が相互にからみあう中で保育が展開されています。

そのプロセスを通じて、大人も子どもも「育っていく」エピソード(子どもたちの着物づくり、保護者を巻き込んだ地域の広報誌づくりなど)がたくさんあり、すでに保育にかかわっている方が読んでも、目からウロコがたくさん落ちるんじゃないかと思います。

そもそも『まちの保育園』は、イタリアのレッジョ・エミリア市の取り組みを参考にしていて、

・子どもが自分で決めていく保育(ティーチングよりラーニング)

・ドキュメンテーション(写真と文字で子どもたちの「学びのプロセス」を記録)

・地域と保育園をつなぐ動線(カフェや交流スペース)づくり

・各園へのCC(コミュニティーコーディネーター)の配置

などを特徴としています。本のなかでは、なぜそれらの取り組みをするに至ったか?の経緯や、具体的な内容に触れられています。読んでいて感じたのは、特にCCの重要性。この職種は2園目を開園するときに、松本さんが担っていた役割を仕組み化するなかで生まれたということで、それぞれの園に配置されています。いわば地域との調整役です。


実は保育所保育指針(H30改定前)にも、第6章に「地域の子育ての拠点としての機能」として次のようなことを行うことが求められています。

(ア) 子育て家庭への保育所機能の開放(施設及び設備の開放、体験保育等) (イ) 子育て等に関する相談や援助の実施 (ウ) 子育て家庭の交流の場の提供及び交流の促進 (エ) 地域の子育て支援に関する情報の提供

でも実際にこれらのかかわりをしっかり地域と持つには、今の保育士さんはあまりに忙しく、「保育に支障がない限り」という条件のなかでは、なかなか手がつけられていないのが現状だと思います。(ここの項目は、H30年での指針改定ではより簡素化されています。)


『まちの保育園』は、子育て家庭のみならず、かかわる対象をコミュニティ全体にひろげ、かつ最初から「かかわる」と明確に位置付けていることが大きく違います。実践するためにCCという明確なポジション(これをつくるための経営の工夫はすごく気になるところです)をつくることで、子どもたちも地域に出ていきやすくなったり、地域からも声がかかりやすくなっているそうです。

園舎の設計など、地域とかかわるための動線づくりを最初から環境に埋め込んでいることも大きいと思いますが、やはり立ち位置を明確にすることって大事なんだなぁと気付かされます。日々の小さな取り組み・小さなかかわりを、コツコツと丁寧に重ねることの大切さも感じました。

そしてそれらが、何より子どもたちの学び・育ちへと繋がっている実感をコミュニティ全体でシェアできているからこそ、継続性のある取り組みに育っているのだと思います。


保育の世界はこれまで、求められるものがどんどんと増えて、セキュリティをどんどん高めて内へ内へ「閉じて」きた歴史があります。しかし社会全体としては、オープンソースの時代。自分が持つものをいかに使ってもらい、良くしていくかという視点が不可欠になってきました。

教育というのは、当然にして、子どものためになる発見をしたら(中略)どんどんシェアしていくべきです。つまり「競争」よりも、「共創」が大事な観点となる。

本のなかでもこう書かれていますが、『まちの保育園』は、地域に対してもオープンなだけでなく、他の保育園に対してもオープンな姿勢をとっていて、アライアンス提携(いろんな法人の実践を共有するネットワークづくり)をすすめていくそうです。

地域によって、その事情はさまざま。だからこそそれぞれの資源を活かしながら、どうその社会で子どもたちを育てていくか、もっと議論が深められたらなと思います。

いつかこの園に見学に!と思いつつ時間をつくれていませんが、こんな園を増やせたらいいなと思ったのは事実。課題の多い保育の世界ですが、「開く」という発想が一つの風穴を開けることになると、改めて確信させられる1冊でした。



『まちの保育園をしっていますか(松本理寿輝)』


(twitter @masashis06

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