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音楽レヴュー 2

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2021年3月の記事一覧

Slowthai『Tyron』が鳴らす、過ちとの向きあい方



 イギリスのノーサンプトンから出てきたラッパー、スロウタイが2019年にリリースしたデビュー・アルバム『Nothing Great About Britain』は本当に素晴らしい作品だった。ヒップホップのみならず、インダストリアルやパンクなどさまざまな要素を掛けあわせたサウンドに乗せて、イギリスに対する愛憎を皮肉も交えながら表現している。それはさながら哀しみ色の喜劇と言えるユーモアであり、公営

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Arlo Parks『Collapsed In Sunbeams』が歌う哀しみは、寄り添う優しさで溢れている



 アーロ・パークスは、ロンドン出身のシンガーソングライター。2000年8月9日に生まれ、ナイジェリア、チャド、フランスの血を引く多国籍な背景を持つ女性だ。
 幼いころから小説や詩を制作するなど、現在に至るまでパークスは言葉の世界で生きつづけている。シルヴィア・プラス、オードリー・ロード、ナイラ・ワヒードといった詩人の詩を読んできた感性は、さまざまなスタイルや視点に影響を受けた表現者であるとうか

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FYI Chris『Earth Scum』は戦うためのダンス・ミュージックを鳴らす



 FYIクリスは、クリス・ワトソンとクリス・クープによるダンス・ミュージック・ユニット。2010年代半ば頃からサウス・ロンドンのクラブ・シーンで実力を表し、良質なトラックを数多く残している。
 筆者が彼らの音楽に初めて触れたのは、2014年のデビュー・シングル「No Hurry / Juliette」だった。2曲とも素晴らしいハウス・ミュージックだが、強いて挙げれば“No Hurry”のほうが

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Susan(수잔)「EROS」



 少しハスキーかつ甘美な歌声で、さまざまな情感を流麗に紡いでいく。喜び、愛欲、快感といった陽なエモーションだけでなく、憎しみや悲しみなど陰なエモーションもストレートに表現する。その表現は艶やかな生々しさとも言える空気を醸し、リスナーの耳と心を拡張してくれる。

 そうした言葉を書かせたSusan(수잔)の最新EP「EROS」に出逢ったのは、今年1月のこと。彼女の存在はファースト・シングル「열매

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Youra(유라)「Gaussian」



 韓国のシンガーソングライターYoura(유라)を知ったのは、数多くの客演仕事がきっかけだった。これまでに彼女はKirin(기린)、Way Ched(웨이체드)、Leellamarz(릴러말즈)といったアーティストの曲に参加し、ドラマ『すべき就職はしないで出師表(하라는 취업은 안하고 출사표)』(2020)のサントラにも関わるなど、さまざまな課外活動をこなしている。韓国のポップ・ミュージック

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Fredo『Money Can’t Buy Happiness』



 ウエスト・ロンドン出身のラッパー、フレドが2019年にリリースしたデビュー・スタジオ・アルバム『Third Avenue』は、自らのハードな人生を反映させた力作だった。UKドリルグループ1011への言及など、ローカルネタを随所で散りばめつつ、イギリス以外の国々に住む者たちも共鳴できる情感を描いている。こうするしか生きる術がなかった者の叫びとも言える言葉の数々は、全英アルバム・チャート5位とい

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